わが家で犬のあわがはじめて出産したとき、飼い主の私はあわと猫のワラワラ、ヤギのひじきと一緒に暮らしいた。あわにとっても、飼い主にとってもはじめての出産と子育て。あれから3年、どぎまぎしながら愛犬の出産を経験した数は3回。合計10匹の仔犬たちを一緒に育て、一匹を除いて全てわが家から巣立っていった。毎回異なる出産の様子と、全く性格が異なる仔犬たち。ワラワラとひじきも子育てに参加していく異種ファミリーの、「あわ、はじめての出産」編。
この犬の子どもを飼いたい!
あわが産まれたのは、私が風呂なし、トイレなし、キッチンなしの“無い無い”古民家に引っ越した2016年。毎年お世話になっていた、季節労働先農家の愛犬「まる」が大好きで、まるの子どもを飼いたいと所望していた。その農家から、まるが出産したと連絡をもらったのは12月。
まるが出産する一週間前に、一緒に飼われているまるの娘犬「くうま」が既に出産していて、仔犬だらけ。まるとくうまは、どちらの子でも分け隔てなくミルクを与えていた。
まるの元へと通いながら仔犬たちと交流するが、この中から一匹だけを選ぶなんて、どう選んだらいいのだろう? どんどん引き取られていくなか残っていた数匹のうち、一番小さかった子を連れ帰ることに決め、仔犬には3カ月間母親の下で伸び伸びと暮らしてもらうことにした。その間、少しでも古民家改修を進めなければ。
あわがわが家へやって来たときの様子はこちら→家族が増えました! ヤギの「ひじき」と犬の「あわ」の相性はいかに?
妊娠してるの? してないの?
人間の年齢でいうと、あわが3歳のとき。犬は最初の一年で20歳になり、その後一年に4歳ずつ年を取るという考え方があるので、犬年齢は28歳? 年下の彼氏ができたあわは両飼い主公認の仲となり、子どもへの期待が膨らんだ。
3月のある日、二匹が交わる姿を友だちが目撃。期待は更に膨らみ、犬の妊娠期間を調べてみると2カ月ほどらしいので、出産予定日はGW辺りだろうか。本当に妊娠しているかどうかは謎だが、周囲はもうそのつもりだ。そんな期待をよそに、あわはいたっていつも通り。食欲もあるし、散歩にも行くし、おなかも特に膨らんでいる様子もなく、走りまわっていた。
4月末、玄関横にある薪棚の下に入り込み、穴を掘ってそこで休むあわ。こんなところで出産されたら、全く仔犬の様子が見えないので、棚の下に入れないようブロックでふさいでおいた。代わりに、コンクリートを練るときに使う“トロ舟”に稲わらを敷き詰めて用意。
あわはこのトロ舟がお気に召さないようだが、私は薪棚の下が気に入らないので平行線だ。その日の夜、あわがいつもと違うつらそうな声を出すので様子を見に行った。ドアを開けるとすぐ土間に飛び込んできて、苦しそうに鳴きながら土間で穴を掘ろうとする。
「えっ、今? 今から産むんですか!?」
稲わらを敷き詰めたトロ舟にあわを誘導し、あわをなでながら気が気じゃない飼い主。5月6日辺りを想定していたのに、まだ一週間はある。無事生まれるか、心配と不安でいっぱいになり、「あわの子を飼いたい」という近所の友だちに電話した。少しの間あわから離れて戻ってきた私の目に飛び込んできたのは、トロ舟のなかにある黒くて小さな物体だった。
陣痛とおぼしきものが始まってから20分経過した19時50分、あわはいつの間にか一匹目を出産したようで、一生懸命舐めていた。わが家に到着した友だちと2人で見守るなか、膜に覆われた黒い塊が出てきて、あわが歯で膜を噛みやぶくと、なかから小さな手が飛び出してきた。全体を舐め、へその緒を食いちぎる。その間、一匹目のケアもきちんとするあわに、尊敬の念が湧いてくる。
新しい命が今、わが家で産まれ、ここにいる。命がこの世に産まれる瞬間なんてふだん意識することはないけれど、こんなに心が震えるものなんだ。産まれることも、産んでくれることも、その場に立ち合えることも、なんて素晴らしいことなのだろう!
あわにとって初めての出産なのに、どうするべきかをちゃんとわかっていて、行動に移している。本能ってすごい。ワラワラもちゃんと分っているのか、私たちと一緒に様子を見守るなか、三匹目が無事産まれてきた。
まっ黒な初めの二匹に対し、三匹目は茶色で身体も少し大きめで、元気よく鳴き声をあげていた。上を見上げれば、満天の星空。目の前の田んぼからカエルの大合唱が響きわたり、ときどきフクロウも一緒になって声援を送るなか、みんなに祝福されて産まれてきた三匹。ようこそ、わが家へ!
犬、猫、ヤギたち、私たち今日から家族だよ
あわから産まれ落ちる姿を見ていた私でさえ、この小さな物体が犬には見えない。優秀なハンターであるワラワラが、ネズミと間違えてハントしてしまうのでは? という心配が浮上。翌朝、ワラワラに改めて仔犬たちを紹介する。
「ワラワラ、あわちゃんの子どもたちだよ。家族だよ」
分っているのかいないのか謎だが、ワラワラが近づいてもあわは嫌がらないし、ワラワラもさほど仔犬たちに興味はなさそうだ。
次はひじきの番だ。ひじきが仔犬たちをハントすることは無いが、わが家で一緒に暮らす者として紹介しておかなければ。小屋からひじきを連れ出し、あわの近くへ誘導するが、あわと軽くあいさつを交わしただけで、あわに抱かれながら眠る仔犬たちには全く気付いていないし、目の前の草を食べることに夢中である。
犬、猫、ヤギ、人間、それぞれ一匹(一人)ずつだった暮らしから、犬だけが一気に4匹に増えた。それぞれがどんな風に絡み合っていくのか、新たな暮らしの幕開けだ。
写真・文:鍋田ゆかり