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移住・定住

連載 | 瀬戸内の古民家で子育てはじめました

プロに聞く古民家リノベ。空き家バンクよりも効果的な、物件情報の探し方

小林友紀

小林友紀

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東京から愛媛県の今治市へ移住し、築70年を超す古民家を自宅として購入したわが家。リノベーションによって生まれ変わった自宅で家族4人、田舎暮らしを満喫中だ。住むほどに味わい深く、子育て世代にもおすすめしたい古民家の魅力については、これまでもお伝えしてきた。

しかし古民家のリノベーションにあたっては新築とは違う様々なハードルにぶつかったことも事実。物件探しや工務店選び、プランニングや実際の施工に至るまで、判断の連続だった。

この記事では自身の経験を元に、古民家リノベを多く手がけ、古民家の特長を知り尽くしたプロの工務店に大小さまざまな疑問をぶつけてみようと思う。多くの古民家ラバーのヒントになる情報をお届けしたい。(協力:株式会社クラス(愛媛県松山市)代表取締役社長 矢野陽子さん)

これまでの連載はこちら 【瀬戸内の古民家で子育てはじめました

目次

“良い”古民家の選び方って?

ー古民家に住みたいと思っても、「これだ!」という物件に出会うのはなかなか難しいことを、私は身をもって体感しました。(わが家の古民家探しの様子はこちら

矢野さん:新築するときでさえも、土地探しには苦労する人も多いもの。古民家探しとなると、新築以上に難易度が上がりますね。

そもそも、古民家は母数が限られています。その上で、立地や間取り、広さなどの希望をすべて叶えようと思うと、思い通りの物件に出会うことはかなり難しいといえるでしょう。

古民家選びは、『どこを妥協して、なにを大事にするか』を考えていく作業だと思います。

ーそもそも、古民家の定義ってどういうものなのでしょうか。

矢野さん:定義もいくつかあるようなのですが、古民家鑑定士の基準によると、「築50年以上の日本の住宅で使われていた伝統的な構法で建てられたもの」を古民家と呼んでいます。

ただ、50年前というと戦後からもずいぶん経っています。伝統工法で建てていてもいわゆる古民家っぽさのない「中古住宅」のような物件も多く、そういう意味でも、理想的な古民家はどんどん、少なくなっていますね。

昔ながらの古民家はどんどん少なくなっている。

ー古民家は現代では、かなり貴重な存在ですね。そんな中で自分の中では理想の物件に出会えたとしても、実際に直して住むのにはすごいお金がかかる可能性もあると思います。プロの目から見て、どういうところをチェックするべきでしょうか?

矢野さん:屋根はお金がかかりやすいし、重要なポイントですね。雨漏りして屋根が傾いたり、大きくズレてしまっていたりすると、かなり厳しい。修繕するのにはかなりの金額が必要です。

古民家の場合、長年住み続けているなかで増改築を施しているケースがほとんど。下手に増築して屋根同士がくっついていると、雨がうまく流れないこともあり、そうなると雨漏りやその一歩手前の状態に陥りやすいんです。なので、特に増改築箇所や、屋根は注目してみるようにしています。

ー確かに、わが家も例に漏れず増築で隣に納屋が繋がっています。

矢野さん:同じ大工さんが建てていたり、工事の内容を理解して増築していたらいいんですけど、日曜大工で構造物が付け加えられていたり、適当なリフォーム会社が入っている場合もあるので要注意です。

購入時(リノベ前)のわが家の航空写真。真ん中の母屋と接続する形で増築されている納屋(右の2階建て)。

ーなるほど…。素人に判断は難しいですよね。

矢野さん:厳密な判断は難しいと思いますが、古民家が好きな人は中途半端な昭和のリフォームを嫌うんですよね。「これがなかったらいいのに」みたいな。なのでその感覚は大事にしたほうがいいかもしれません。もし増築部分が空間として不要なのであれば、元のシンプルな形に戻すというのも一つの手ですね。

増改築でいうと、屋根のほかに水回りもチェックポイントです。例えば、かつては土間だったキッチンを改築している場合。ブロック基礎と呼ばれるコンクリートブロックでキッチンを立ち上げて、その上に土台を置いて、床を貼っていたりするんです。ただ、そうすると床下がすぐ構造材なので、傷みやすい。

お風呂場も要注意です。いずれにせよ改修することが多いと思いますが、昔ながらのタイル目地はひび割れてしまったり吸水性があるので、下地や構造体に湿気がいってしまい、こちらも傷んでることが多いですね。

ー見た目に問題なさそうでも、床下や構造が傷んでいると工事の費用がかさみそうです。

矢野さん:そうですね。そういう意味では、建築を分かってる人が一緒に判断した方が、安心だと思います。不動産屋さんは売買のプロなので、必ずしも建築に詳しいというわけではありません。見た目や雰囲気だけで判断してしまうと、あとあと困ることも多いので、目利きができる人に一緒に見てもらえると安心ですね。

状態のいい古民家の条件の一つに、「人が出入りしてること」も挙げられます。古民家って床下が土なので、湿気が上がってくるんですね。風通しがされているかどうかで、建物のコンディションは大きく変わってきます。

入って、「カビ臭いな」と思ったらかなり注意したほうがいいですね。畳だけカビが発生している、というものであれば交換すればいいですが、床下の下地や木がカビていた場合、全部消毒するとなるとそれだけでもかなり大掛かりです。

ちなみに山の際に建っている古民家の場合、裏山を擁壁で覆っている場合があります。これは山の土をコンクリートで固めてるので、湿気が多くなりやすい。新築でも外壁にカビが生えやすい、要注意ポイントですね。

擁壁のイメージ。裏山が擁壁でカバーされている場合は、湿気に注意。

空き家バンクよりも効果的な、物件情報の探し方

ーそもそも、古民家の物件情報はどうやって入手したら良いのでしょうか?

矢野さん:1番、想起されやすいのは「空き家バンク」ではないでしょうか。でも意外と、空き家バンクには情報が掲載されていなかったりします。

これには不動産屋さん側のいろんな事情が関係しています。自社サイトで取引が成立したほうが都合が良かったり、あとはそもそも、あまり「古民家が売れる」と思われていなくて、サイトに登録するだけの写真や間取りを作成する手間がかけられないということもあるかもしれません。

ーわが家の場合もwebで見つけたのではなく、不動産屋さんの「記憶」に頼ってたどり着いた物件でした。(その様子はこちら

小林邸の場合も、物件情報シートに掲載されていた写真からして、売り出し物件ではなかったですよね(笑)。道路から撮った写真が一枚だけで、ダメ元で見に行ってみたらすごく良かったという……。

そうなるのには古民家ならではの理由も関係しています。古民家の場合、田んぼがセットでついていたり、地目が宅地ではなくて農地になっていたり、隣地との境界が曖昧だったり、売主さんの相続の問題があったり…。とにかく、ややこしいことが多いんです。

不動産屋さんからしたら、トラブルになりやすいリスクもあり、なかなか扱いに苦労しているというケースも少なくないようです。

分譲地や更地とは違い、古民家売買にはさまざまな知識が必要。

ーそういう事情で古民家情報はあまり表に出てこないんですね。どうやって調べるのが、買いたい人にとって効率的なんでしょうか?

矢野さん:必ずしもwebに載ってなくても、不動産屋さんは古民家を含む無数の物件情報を取り扱っています。住みたいエリアの不動産屋さんを訪ねて理想を伝えれば、きっと、どんどん情報を出してくれると思います。


古民家探しは地元不動産屋さんを頼って、根気強く情報収集を

お話を伺って感じたのは、理想の古民家を探す難しさ。わが家も最後は直感で決めましたが、そもそも100点満点の古民家なんてないので、「これは」というポイントがあったら他は少々妥協してでも購入するのも一手かもしれません。

ただその時に、矢野さんが教えてくれた要注意ポイントだけは気にしつつ、買った後に後悔することなく古民家暮らしを満喫していただけたら、一古民家ファンとして嬉しく思います。

取材協力:矢野 陽子さん(株式会社クラス 代表取締役)
短大卒業後、キッチンメーカーで7年勤務。地元建築会社で設計、インテリアコーディネーターとして勤務。役員職を経て、2016年7月に愛媛県松山市に株式会社クラスを創業。女性設計士が、暮らしやすさにこだわった住宅を提案する。

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文・写真:小林 友紀(こばやし・ゆき)

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