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連載 | 瀬戸内の古民家で子育てはじめました

古民家選びの決め手は「直感」!?【瀬戸内の古民家で子育てはじめましたvol.4】

小林友紀

小林友紀

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2年前の9月。当時1歳と0歳の子を連れ、東京から愛媛県の今治市へ移住した。今治は妻である私の生まれ故郷。つまりUターンである。昨年、築70年を超す古民家を自宅として購入、再生し、家族4人で暮らしている。そんなわが家の日常を通して、住むほどに味わい深く、子育て世代におすすめしたい古民家の魅力をお届けしたい。

目次

不動産屋さん、そして物件との運命の出会い

幼児2人の子育てに奮闘中のわが家が、故郷しまなみへの移住を決めたのち、新築か古民家か悩んだ末に古民家の購入を決意。しかして理想の古民家を求め西へ東へ奔走する羽目になったのは、前回までに述べた通りだ。

エリアを広げて物件を探すか、理想のイメージを再構築するか。ゴールが見えず途方に暮れていた私たちは、その日もネットから問い合わせた物件を案内してもらいながら、どうにも手詰まり感を感じていた。

その物件は、昭和後期に建てられた「古民家」というより「古家」といった様相で、立地も新旧立ち並ぶ住宅街の一角。思い描いた広々とした古民家暮らしとはギャップがあり、思わず不動産屋さんに対して思いの丈をぶちまけた。

これまでも様々な物件を様々な不動産屋さんにご案内いただいてきたこと、その上でなかなかこれだという物件に出会えていないこと。そもそも古民家情報にたどり着けないこと。

一緒に物件巡りにお付き合いいただいている工務店の社長さんとともに、すでにかれこれ10軒以上の物件で“空振り”していた。くたびれた3人を前に、不動産屋さんが「う~ん」と絞り出すように口を開いた。

「あったかもしれないです。“いい感じ”の古民家」

そう言って、データベースを検索し始めた。

数か月間、ひたすらネットを検索し、人づてに紹介を頼り、工務店を頼り、不動産屋を頼り、物件を探してきた。
しかし最後は不動産屋さんの「記憶」に頼ることになろうとは…。

新しくもなく、長い間空き家で買い手も付かず、おそらく不動産屋としても「推し物件」ではないのだろう。
ネット上に公開されておらず、空き家バンクにも掲載がなく、出会うきっかけさえなかったその物件。
たまたま担当者さんの記憶の片隅にあったことで巡り合うことができたその物件に、私たちはとても惹かれることとなる。

緑のなかに佇む懐かしさに満ちた古民家

日を改め、先の不動産屋さんに案内してもらったその物件は、まさしく「古民家」であった。
広々として立派で懐かしい佇まい。

何より周囲は畑が多く、庭も広々。長閑で、まずその立地条件に抜群に惹かれた。

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数年間は空き家だったというものの、度々親戚の方が手入れに来られていたこともあり、「家」としての体裁をかなり保っていたのが最初の驚きだった。なにせこれまで見てきた多くの古民家では古ければ古いほど、床が抜けたり、室内に動物の痕跡があったりと、朽ちてしまっていたからだ。

築年数は70年以上とのことだった。もちろん経年劣化による表面的な老朽化を感じつつも、家としての機能の衰えていなさをとても力強く感じたのだった。

とはいうものの庭は荒れ、室内にはまだ荷物が散乱している状態。ここからどんな家に変化できるのか。いざ、購入の選択肢が見え隠れし始めた途端に、細かい点が気になり始め、及び腰になったのも事実だった。

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特に私が引っかかったのは、増築された納屋部分だった。せっかくの古民家に接続された昭和後期の建物が、なんとも良さを半減させているように見えたのだ。

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母屋に接続された納屋(手前の2階建ての建物)
売主さんには申し訳なかったが、何度か鍵を開けていただき、念入りに検討を重ねた。自分の中でも理想的だと思った点と気にかかる点の検証を重ねた。

雄大な土地、子育てに申し分ない長閑でのびのびとした環境、広さ有り余る空間、堂々とした佇まい、愛着の湧いた建具。その一方で、増改築された部分や新しくアルミサッシになってしまっている窓、色あせた外壁。

何が購入の決定打になるか、何度も自分の中で考えが行ったり来たりを繰り返した。しかしそのうちに、明らかにこれまで見てきた物件とは悩みのレベルが違うことに気づく。

これまでは「そもそも住めない」「(失礼を承知で言えば)住みたくない」と思う物件ばかりだったことを考えると、今回の物件での悩みポイントはかなりレベルが高い! 雲泥の差であった。何よりみかん畑が広がるのんびりとした環境や広々とした敷地はとても魅力的であると同時に、他には出会えないだろうとも思った。

なんだかんだと言って「即決!」とならない私の一方で、実は夫は初めの内見のときから「ビビっと」きたようだった。これまで、未知の古民家暮らしに不安を隠せていなかった様子から一転、「ここなら暮らしがイメージできる」と、前のめりだったことにはかなり驚いた。

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座敷には空撮写真が飾られていた。3棟の建物が横に並び、ブルーの屋根の車庫が併設された立派な館。

古民家の選び方 私たち流の結論

古民家を探して、複数の物件に足を運んでみて、結局何を基準に古民家を選ぶかと言われたら、基準は人それぞれなんだろうと思う。もちろん、立地や最低条件としてある程度の共通項はあるのかもしれないが、とんでもない立地であったとしても、それをも凌駕する唯一無二の『推しポイント』があったら、それを決め手にする人もいるだろう。

私の場合は好条件な立地に加え、室内に残っていた建具の雰囲気と、昔ながらの広くて腰掛けられる土間空間、そして何より頑丈な梁や柱の趣が後押しとなって、購入を決断した。ネックに思っていた納屋部分も、「今後改造の余地がある」「気に入らない点は直せばいいか!」と捉えることにした。(最終的に、納屋はリノベを経て見違える変化を遂げることになり、とても良い決断をしたと思う。)

プラスの点とマイナスの点をいくら計算しても、他の物件と横並びで比較できない以上、相対的な評価はできないのだ。

そういう意味では、直感的だった夫の決断力も古民家選びには重要なのかもしれない。「ここなら、住みたい」。そんなファーストインプレッションも、ある種勢いも大事なのだろう。「気になるところがない!満点!」という古民家はきっと存在しないだろうから。

私たちは内見の際に、工務店さんに同行いただいていたこともあり、気になる点があったら「ここって直せますか」「ここの傷や傷みは問題ないですか」「こういうイメージに変えられますか」とその場で相談できたのも購入の判断材料として大きかった。

やはり古民家の購入はその後のイメージが付きにくかったり、構造的な不安要素もある。もしこれから古民家探しを検討する人がいるなら、センス良く改修してくれそうな工務店さんを先に選ぶことを強くおすすめする。

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通り廊下に使われていた建具に惹かれた!リノベ後も現役で活躍中。
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土間空間。木の扉や靴入れも趣深く、魅力を感じたポイント。
かくして、多くの方々の協力を得て、私たち夫婦の約4か月にわたる古民家探しの旅は完結した。

ここからいざ、リノベーションが始まる。10か月近くに及ぶ工事期間。70年以上の歴史を紡いできた古民家の間取り、床、屋根、壁、窓、建具が、現代の子育てにフィットする形へと姿を変えていく様子は、工務店さんのセンスや大工さん技術はもちろん、古民家そのものの懐の広さをまざまざと感じる出来事であった。

次回からリノベーション編スタート、乞うご期待。

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装い新たに生まれ変わったわが家。
文・写真:小林 友紀(こばやし・ゆき)
大学卒業後、大手総合PR会社にて日用品メーカー・製薬会社・商業施設など幅広い広報業務の支援に従事。5年のPRキャリアを積み、2020年に愛媛県今治市にUターン。現在はフリーランスとして活動中。2児の母。大学在学中には、島根県美郷町の「地域おこし協力隊」を務めた。

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