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「博多ぶらぶら」のCM曲を作曲した太田幸雄氏を研究する大学生DJ・とみじい。Z世代の彼が昭和歌謡をプレイし続ける理由とは?

西紀子

西紀子

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22歳・Z世代の人気DJ・とみじい(Tommy-G)こと、冨田息吹さん。福岡の大学に通う傍ら、クラブやイベント、ラジオ番組などで、昭和歌謡をプレイし続けている。DJ活動と合わせ、高校時代から独自で研究を続けているのが、福岡銘菓「博多ぶらぶら」のCMを作曲したジャズピアニスト・太田幸雄氏率いる「太田幸雄とハミングバード」について。Z世代の若者が、なぜここまで昭和歌謡に魅了され、その魅力を伝えようとしているのか。話を聞いた。(タイトル写真提供:冨田息吹さん)

冨田息吹さん

冨田息吹さん

●冨田息吹(とみたいぶき)さん
2000年、福岡県生まれ。福岡大学人文学部歴史学科に在籍しつつ、福岡を中心にクラブ・イベント・ラジオ番組などでDJ(選曲)活動を行う。「太田幸雄とハミングバード」を研究し記事を執筆中(2022年9月頃より福岡音楽都市協議会の公式サイト“キュレーションメディア OTOJIRO”にて連載予定)写真提供:冨田息吹さん
目次

小学生で骨董店の常連に。中学生で中古レコード店通い

現在は大学に通う傍ら、クラブイベントやラジオ番組で、DJとみじい(Tommy-G)としても活躍している、冨田息吹さん。選曲は昭和歌謡やジャズなどが中心で、年齢層の高い音楽通をもうならせている。

2000年(平成12年)に生まれた冨田さんが、なぜ昭和歌謡を好きになったのか。そのきっかけから尋ねた。

冨田さん「大学では日本近現代史を学んでいるんですが、小さい頃から歴史やアンティークなものが好きで。小2~3年生の頃には学校から帰るとyoutubeで昭和歌謡を見たり調べたりしてましたね」

歴史好きが高じて小学5年生の頃には一人で骨董店へ通うほどに。
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冨田さん「店主のご夫妻にも可愛がっていただいて。古道具やアンティークは高くて小学生には手が出せなかったんですが、歌謡曲のレコードなら『1枚2、300円で持ってっていいよ』と言ってくれて、買うことができたんです」

中学に上がると、放課後や休日には中古レコード店に通ってレア盤を探したり、好きな曲だけを集めたCD-Rを作成したりと、ますます昭和歌謡の“沼”へはまっていった。

冨田さん「同級生とはゲームの話で盛り上がってましたが、小遣いはレコードにつぎこんでました(笑)」

冨田息吹さん

冨田息吹さん

中学時代に好きな昭和歌謡を集めて作ったCD-R。写真:冨田息吹さんinstagramより

高校生で昭和歌謡DJデビュー

高校1年生からSNSで手持ちのレコードを紹介しはじめると、音楽通たちからフォローされるように。冨田さんの親と同世代の大人が多かったが、昭和歌謡の魅力で年齢の壁もなんのその、つながりは全国に広がった。

冨田さん「SNSで知り合ったバーのマスターに『店でDJやってみない』と声をかけていただいて、高校2年生からは『まわるグルーヴィ』というイベントをスタートしました」

バーの営業は夜からだったが特別に夕方から開店してくれ、冨田さんは放課後にレコードを抱えて店へ。学生服姿で昭和歌謡をプレイしては、大人たちを楽しませた。イベントやSNSをきっかけに地元テレビやラジオに出演したり、関東や関西など県外のイベントにも出演するなど活躍の場が広がり、「高校生の昭和歌謡DJ・とみじい」として、その名が知られるように。

冨田さん「大学受験間近の頃もイベントに出てましたね。親は呆れてましたが(笑)。小さい頃から昭和歌謡を好きなのは知っていたので、特に反対も賛成もされず、静観してくれてました」

大学受験に無事合格し、大好きな歴史を思う存分学べる福岡大学人文学部歴史学科に入学。同大ではJAZZ研究部に入部し、DJ活動のほか、ライブでは自身がボーカルを務めることもあるという。

受験を間近に控えた高校3年生の秋には、名だたる大物DJたちが名を連ねるイベントに登場(Twitterより)
青春を昭和歌謡とともに歩んできた冨田さん。なかでものめりこみ、長く研究を続けているのが、昭和30年代から平成初頭にかけて福岡を中心に活動したジャズグループ「太田幸雄とハミングバード」だ。音楽通でも知る人ぞ知るグループだが、実は太田幸雄さんは、福岡出身者におなじみの「あの曲」を作った人物である。

脳天に衝撃!「太田幸雄とハミングバード」との出会い

「太田幸雄とハミングバード」とは、昭和40年代に福岡市・中州のジャズクラブのステージで活躍したバンドで、当時は3枚のアルバムがレコードとして発売された。現代でも昭和歌謡やジャズ通に高く評価されており、2004年には復刻CDもリリースされている(現在は廃盤)。そして実は太田幸雄さん、福岡で50年近く親しまれ続ける銘菓「博多ぶらぶら」のCMソングを作曲した人物でもあるのだ。

「博多ぶらぶら」CMソングについてはこちらの記事も参照

冨田さんが「太田幸雄とハミングバード」を知ったのは、中学時代のこと。

冨田さん「昭和歌謡のコンピレーションアルバムに収録されていた『ヴィラ88』という曲を聴いたのが最初です。それまでも昭和歌謡はたくさん聴いてましたが、脳天にカミナリを受けたような衝撃で。セルジオ・メンデスなどボサノヴァをよく聴かれている方は耳馴染みがあるかもしれませんが、イントロからのスピード感と、ソフィスティケートされたフレーズとかがとても新鮮に感じて。最初は海外のアーティストかと思ったのですが、クレジットに書かれた日本人の名前を見て、また驚きましたね」

中古レコード店などで発掘したレコード盤を聴いて、さらにその魅力にはまっていった冨田さん。しかも福岡出身のバンドということで一層興味は増し、ネットやSNSを駆使して調べたり、音楽仲間を通じて情報交換したりと、研究を続けているという。

冨田息吹さん

冨田息吹さん

冨田さんが所有する「太田幸雄とハミングバード」のレコード(上段・下段右)。写真提供:冨田息吹さん
冨田さん「『博多ぶらぶら』のCMは僕が中学くらいの頃はあまり流れてなかったのか知らなくて、ネットで調べて知りました。バンドのメンバーや関係者の方の多くは亡くなられていて、なかなか情報も出てこないのですが…。なんとかして当時のことを知る人に話を聞きたいと、ドラムを担当していた方が音楽教室で講師をされていると聞いて尋ねたり、バンドの付き人をされていた方が営んでおられるお店に行ってお話をうかがったりしました」

そんな冨田さんは、大学生の昭和歌謡DJとしてだけでなく、「太田幸雄とハミングバード」フリークとして音楽通に知られるように。そして2021年冬、願ってもない機会が訪れる。福岡のラジオ・テレビなどでおなじみの音楽プロデューサー・深町健二郎さんのラジオ番組に出演し交流を深めるなかで、太田幸雄さんの自宅を訪問することになったのだ。

冨田さん「太田幸雄さんご本人は亡くなられているのですが、奥様から深町さんに、『太田幸雄とハミングバード』が残した音楽を伝えたいというお手紙が届いたんです。それで僕もお誘いいただいて、ご自宅でいろいろとお話を聞いたり、太田さんが弾いておられたピアノを拝見することもできました」

それからも折に触れ、太田幸雄さんの自宅へ取材に通っているという。また、これまでの研究・取材をまとめた記事は、2022年9月頃より福岡音楽都市協議会のキュレーションメディア「OTOJIRO」で連載予定だ。

福岡の戦後音楽の魅力を広めていきたい

音楽都市として知られる福岡、昭和歌謡にも多くのミュージシャンや歌手の楽曲がある。70~80年代の「ライブハウス照和」出身のフォークグループや“めんたいロック”と呼ばれたバンドやグループ、松田聖子や郷ひろみなどのアイドルなど…。数え切れないほどだが、冨田さんが特に注目する太田幸雄さんらの音楽は、この時代より前のものが多い。

冨田さん「太田幸雄さんや、同時期に中洲のキャバレーなどで活躍したバンドやミュージシャンたちは、当時の夜の街を盛り上げ、大人の社交場として文化を形成したはずです。でも、その音楽は一部の音楽愛好家以外には周知されず、現代でもあまり注目されることはないですよね。僕はそんな“大人の音楽”に惹かれるんです。音源として残されているものは本当に少なくて、太田幸雄とハミングバードくらいなんですが、メジャーのレコード会社ではなく自主制作盤のレコードは当時たくさんあったので、そういったものを探して聴くのも楽しいです。レコード屋さんだけでなく、リサイクルショップとかにも掘り出し物があったりしますよ」

冨田息吹さん

冨田息吹さん

冨田息吹さんが所有する昭和歌謡のレコード(一部)。「太田幸雄とハミングバード」をはじめ、福岡ゆかりの歌手やグループのレアなドーナツ盤が揃う。写真提供:冨田息吹さん
当時も今も、一般的に知られていない音楽を探し出してラジオやイベントで選曲したり、バンドやミューシャンの歴史を掘り下げて研究する。そうした活動を続けてきた冨田さんは、単に「好き」という気持ちだけでなく、世に残す意義を感じているという。

冨田さん「僕自身はまったく存在していなかった20世紀や昭和の時代は、自分にとってはすべてが新鮮。昔の資料や当時の様子をうかがい知れることは、映画を見ているような、物語を読んでいるような楽しさがあります。それに、『太田幸雄とハミングバード』の研究で奥様にお会いしてお話を聞くと、すごく喜んでくださったし、僕自身も嬉しかったんです。僕が歴史の記録から刺激をもらってきたように、僕も太田幸雄さんのような、素晴らしい功績がありながら世に出ていない史実を記録に残して、伝えていければと思っています」

冨田息吹さん

冨田息吹さん

冨田さんが同世代のDJたちと2021年から開催しているクラブイベント「GAFAS」のフライヤー。写真提供:冨田息吹さん
当時の世代にとっては記録にふれることで懐かしさを感じ、冨田さんと同世代にとっては新鮮な刺激となり、それがまた次世代に伝え継がれるきっかけとなる。戦後ジャズを広げた世代が福岡の音楽シーンをつくり、それが全国的に有名な音楽家を生み出して、現代にも歌い継がれているように。冨田さんが続ける活動は、まさに「歴史と音楽の循環」である。

【DJとみじい(Tommy-G) 出演スケジュール】

●8月17日(水) 【GAFAS vol.13】 
場所:Kieth Flack 1F(福岡市) 時間:20:00-27:00 チャージ:500円(1ドリンクオーダー)

●8月19日(金) 【屋上公園的夏祭】
場所:CAFE OTTO.ROOF TOP GARDEN(福岡市)  時間:17:00-23:00 チャージ:1ドリンクオーダー

※詳細・日程変更・時間などの情報は下記SNS参照
Instagram
Twitter

文:西紀子

■ライタープロフィール
西紀子:福岡市出身。大学卒業後、フリーペーパー編集部や企画制作プロダクションにて編集・ライティング業務に従事。2017年よりフリーランス。2018年より岡山市在住。 2020年よりソトコトオンライン・ローカルライターとして記事執筆。現在に至る。

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