地域のお金とありがとうを循環させる。東広島市のコミュニティを豊かにする仕組み屋さんの話

地域のお金とありがとうを循環させる。東広島市のコミュニティを豊かにする仕組み屋さんの話

きっかけは、アメリカで出会ったファーマーズ・マーケット


「花火ではなく、“炭火”であり続ける。これはまちづくりをしている先輩からの言葉なんですけど、ずっと大事にしています。派手で人は集まるけど一過性で終わってしまうものより、僕たちの暮らしに必要で、炭火のようにじんわりと温かいものを。地味だし、日の目を浴びないことが多いんですけどね。」


山田さん


そう語るのは、広島県東広島市で「合同会社ひとむすび」の代表を務める山田芳雅さん。自身を「仕組み屋さん」と紹介する山田さんは、地域の中で数多くのプロジェクトを発足させ、ひと・もの・おかね・ありがとうの循環を促すべく活動しています。


出身は三重県四日市市。広島大学の生物生産学部に進学し、広島県東広島市へとやってきました。この時から山田さんの移住物語が始まるわけですが、初めは本当の意味でこの土地の人間にはなっていませんでした。


山田さん「大学時代の前半は、全然志も高くないし、大学つまらないなぁとしか思っていなかったです。後ろの席で講義を受ける、あるあるな大学生でした(笑)」


転機は、大学3年次に参加した海外農業研修プログラム。アメリカで1年半、農家に住み込みで働きながら、本格的に農業を学んできました。そして、そこで見たファーマーズ・マーケットに感銘を受けた山田さん。帰国してすぐに、アメリカで見たファーマーズ・マーケットを日本でもやりたい!と友人たちに伝え、プロジェクトを始めていきました。これが、ひとむすびの始まりです。


ひとむすびマーケット


山田さん「僕の大学生活は、3年生から始まったんです。それまでは何もしていなかったと同じ。当時はTOEICも300点台とかで、英語が全くできないままアメリカに飛び込みました(笑)でも、環境を変えないと自分も変われないって分かっていたので、そのためにはアメリカに行くしかないなって元々分かってたんですよね。」


広島で活動を始め、大学4年次にはひとむすびの法人格を取得し会社を設立。また、その少し後の2017年から東広島市豊栄町の地域おこし協力隊としても活動をスタートさせ、ひとむすびと協力隊の二軸で地域のプロジェクトに多数チャレンジしていきました。


学生団体ひとむすびを設立したメンバーの3人
学生団体ひとむすびを設立したメンバーの3人。(写真左:山田さん)

帰国し、広島に帰ってきてからの山田さんは、本当の意味で地域に根を下ろし始めることになります。地方移住において、必ずしも住み始めてからすぐにその土地の人間になれる、というわけではありません。大学進学を機にやってきた移住と、事業を始めてからの定着化。山田さんがひとむすびを興したその後の物語を聴きました。



羊毛の活用から地域WEBメディアの運営まで。山田さんのプロジェクトに対する想いとは?

地域資源を価値に変える「仕組み屋さん」のお仕事


山田さんの仕事は“仕組み”を作ること。その例として注目されるのが、「豊栄羊毛プロジェクト」です。地域のおばちゃん達から、余ってしまい廃棄するしかなかった羊毛を何かに活用できないかと相談を受けたことが始まりでした。


羊毛の作品


山田さん「前提として、僕は羊毛のこと全く分からないんです(笑)協力隊当時はものすごく色んなことにチャレンジしていて、何個プロジェクトをやったかよく分からないくらい。そのうちの一つが羊毛の活用です。色んなところへ地域の人たちを連れて勉強しにいったり、1台数万円もする糸車を買ったり、講師を呼んで糸紡ぎのやり方を教えて貰ったり。一個一個勉強しながら、といった感じでした。」


農業を学んできたということもあり、羊毛以外にも、たくさんの農作物の活用プロジェクトを手がけたそうです。もちろん失敗したり、長続きしないことも多くて、羊毛の活用が今も残っている唯一のプロジェクトなんだとか。


豊栄ウール工房の外観
空き家を活用した「豊栄ウール工房

新しくプロジェクトを立ち上げるときは、山田さんも本腰入れて強い推進力で進めていきます。その後、ある程度自走できるようになってきたらお任せしていくのです。羊毛プロジェクトの現在の在り方はというと、おばちゃん達が楽しみながら作品を作っては自分たちの好きなように進めているそうです。ここからは、山田さんがビジネスとして金銭的な利益をもらっていません。


出張ワークショップの様子
地域の出張ワークショップの様子。工房には色んなお客さんが足を運んで、糸紡ぎの体験をして行く。

山田さん「自分の作ったプロジェクトや仕組みで誰かが幸せになるのなら、それだけで嬉しいんです。ちょっと「作品」を作っている感覚とも似ていて、お金はそこまで目的じゃありません。羊毛も、最初はもちろんがっつり稼げるようにビジネスプランをちゃんと組んでいたんですけど、おばちゃん達ともケンカしちゃって(笑)お金のことじゃない!好きなようにやらせて!と言われて、自走できる程度に稼ぐことの大切さに気付きました。」


経済的な視点はもちろんのこと、非経済的な活動・生き方にも目を向ける山田さん。たとえ自分が行なっているプロジェクトがビジネス的には成立していなくとも、そのコミュニティの中にいる人たちが楽しそうにしていることが、山田さんにとって大切な指針です。原点とも言えるアメリカで見たファーマーズ・マーケットの光景が、まさに山田さんの琴線に触れるものでした。


マルシェの様子


山田さんが手がけるプロジェクトは、羊毛の活用以外にもたくさんあります。地域の子育てママさんの支援、留学生支援のファシリテーション、webメディア「東広島まるひネット」の運営、地域おこし協力隊OBとしてのメンター、マルシェの企画・運営などなど、そのジャンルは実にさまざま。


地域のママさん支援をする山田さん


何をやるにしても、経済的な価値と非経済的な価値のバランスを見極めることを欠かしません。今まで培ってきた感覚と、社会学としての学術的なアプローチで理論的に解釈するのです。


山田さん「僕がよく使う言葉で、“蓄積を設計する”ことを意識しています。色んなことを幅広くやっていますが、それによって地域に何が得られるのか?僕たちにどんな経験値が溜まっていくのか?という観点はしっかり考えておかないと。哲学ではなく、地域内のソーシャルキャピタルをどのように積み上げていくか、自分のためにも納得いくまで整理しているんです。」


自分の役割は、“誰よりも勉強する”ことだという山田さん。良い仕組みを作るためには、それによって(お金に限らず)何がどれだけ稼げるのか、誰よりも考えて賢くあろうとする姿勢を貫きます。


マーケットの様子


「地域の中で、ひと・もの・おかね・ありがとうが溜まっていく。」


山田さんの口から語られることによって、机上の空論ではない、リアリティが伴った言葉に感じられます。じんわりと温かい炭火のように、皆が豊かに暮らすコミュニティの支えとなってくれるローカルプレイヤーの姿が、そこにはありました。

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