「あなたの街に、100年後まで残したい“たからもの”はありますか?」そんな問いかけに、真っ直ぐな答えを出した地域があります。日本ユネスコ協会連盟が主催する「プロジェクト未来遺産2025」の登録プロジェクトが、ついに発表されました。今回選ばれたのは、全国から厳選された5つの活動。盲目の女旅芸人「瞽女(ごぜ)」の歴史を守る試みなど、失われゆく文化や自然を未来へつなぐ、熱い想いが詰まった最前線をレポートします。
日本の“たからもの”を守れ!「プロジェクト未来遺産2025」とは?
未来の主役である子どもたちへ、地域の豊かな文化や自然を100年先まで引き継ぐこと。それが、日本ユネスコ協会連盟が推進する「未来遺産運動」の目的です。2025年度は、市民が主体となって取り組む熱意ある活動の中から、新たに5つのプロジェクトが「プロジェクト未来遺産」として登録されました。これらは単なる保存活動ではなく、地域コミュニティを活性化させ、次世代へ希望を届ける“生きた遺産”なのです。
全国から5つのプロジェクトが登録!
今回登録されたのは、新潟の事例を含む計5プロジェクト。いずれも「市民のチカラ」で地域の宝を守り抜こうとする、独創的な取り組みばかりです。
1. 1. 盲目の女旅芸人「瞽女」の歴史文化の発信と雁木町家の保全
団体名: NPO法人高田瞽女の文化を保存・発信する会(新潟県上越市)

「瞽女(ごぜ)」とは、三味線や唄を披露して各地を巡りながら生計を立てていた盲目の女性たちのこと。「高田瞽女」は、幼児期に親方の元に弟子入りし、厳しい掟のもとで年間300日以上、上越から信州の村々を巡業していました。瞽女の来訪は、農村の娯楽の一つとして歓迎されたと言われています。NPO法人高田瞽女の文化を保存・発信する会では、高田瞽女も暮らしていた雁木町家と同じ構造の町家を保存・活用し、瞽女の暮らしを追体験できる「瞽女ミュージアム高田」を開設。斎藤真一作品の「越後瞽女」や、触覚や聴覚を用いたユニバーサルな展示を行うほか、瞽女唄の演奏会やゆかりの地を巡るバスツアー等を開催し、高田瞽女の歴史・文化の発信を行っています。
2. 赤沼の獅子舞を未来へ 農村の文化芸能を伝える繋げる
団体名:【赤沼民俗文化財保存会】(埼玉県春日部市)

赤沼獅子舞(春日部市無形民俗文化財)は、一人立三頭獅子で、獅子舞と神楽が共存します。豊作や無病息災を祈願して、春と秋の例大祭で奉納されてきました。昭和36年頃に、担い手不足により一時中断したものの、赤沼民俗文化財保存会が中心となり、かつての担い手とともに昭和61年頃に復活。復活の過程で、女性や子どもたちの参加を集い、平成10年頃から開始した「子ども獅子舞」では、子どもたちだけで獅子舞を披露し、小学生を中心に10名の子どもたちが活躍しています。また、若手の女性の舞手も誕生し、新しい形で伝承が進められています。
3. 村の伝統を未来へつなぐ 大鹿歌舞伎の保存と継承
団体名:【大鹿歌舞伎保存会】(長野県下伊那郡大鹿村)

大鹿歌舞伎(国重要無形民俗文化財)は、江戸時代に旅回りの一座によって大鹿村に伝えられました。素人による歌舞伎上演が禁じられる中、神社への奉納芝居として村の人たちの娯楽として伝承されてきました。大鹿村のみに伝えられた演目や演出が見られ、芸能史の観点からも重要な地芝居です。大鹿歌舞伎保存会では、春と秋の定期公演の上演のほか、村内の小中学校において歌舞伎の伝承を進め、特に、中学校では50年前に歌舞伎クラブを立ち上げ、子どもたちへの継承に取り組み、卒業生から多くの伝承者を輩出しています。役者、太夫、舞台、着付等の技術や大道具や衣裳、かつら等を自前で保有し、村をあげて継承する体制が整えられています。
4. 日本遺産/国指定天然記念物「琴ヶ浜」鳴砂の保護・保全活動
団体名:【馬路おこし会】(島根県大田市)

「鳴砂(なりすな)」は、歩くと音が鳴る砂のことで、琴ヶ浜は日本有数の鳴砂浜の一つとして国の天然記念物に指定されています。石英粒を多く含み、外から力が加わると粒子同士が擦り合うことで音が鳴ると言われています。汚れが付着すると鳴らなくなるため、長年にわたる住民たちの清掃活動によって砂浜は綺麗な状態が維持されてきましたが、過疎高齢化が進む中、馬路地区の14自治会を統合した自主運営組織として、琴ヶ浜の保全の中心的な役割を担う馬路おこし会が発足しました。同会は、積極的に地域内外の学校や企業、団体等の参加を集い、砂浜と周辺河川のマイクロプラスティックの除去やゴミ拾い等の定期的な清掃活動を進め、琴ヶ浜の保全を主軸とした地域振興を目指しています。
5. 土江子ども神楽復活プロジェクト
団体名:【土江子ども神楽団】(島根県大田市)

土江地区に伝わる約300年以上の歴史があるとされる子ども神楽。歳神が祀られた仮の社に集う「仮屋行事」という大田地方の正月行事の中で、集落の子どもたちが大人たちに成長する姿を披露するために舞われていました。少子化の影響で平成7年に一度途絶えたものの、復活を望む声に応えて平成12年に再興。土江子ども神楽団では、仮屋行事での披露のほか、市内各地で年間60回を超える公演が行われています。現在、小学1年生から中学3年生までの約40人が所属し、子どもたち自らが舞・奏楽・神楽団の運営を担っています。大人の神楽を参考に新しい演目や振り付けを考え、上級生が下級生の指導を行い、子どもたちによる継承が進められています。
選ばれた「未来へのバトン」
それぞれのプロジェクトは、これから100年という長い年月をかけて、子どもたちのアイデンティティを育む土壌となっていきます。「プロジェクト未来遺産」の発表は、私たち一人ひとりが足元の価値を見つめ直すチャンスでもあります。当たり前にある景色や、古くから伝わる祭りが、実は世界に誇れる宝物かもしれません。次はあなたの街から、100年後への贈り物が生まれるかもしれません。


















