令和5年4月、宮城県白石市に一つの学校が開校しました。名前は「白石市立白石南小学校・白石南中学校(通称:白石きぼう学園)」。不登校の小中学生を対象とした、文部科学省指定の「学びの多様化学校(不登校特例校)」です。ユニークなカリキュラムや運営の工夫、そして在籍している児童生徒の変化について、白石市教育委員会教育長・半沢芳典さんと白石きぼう学園校長・我妻聡美さんに話を聞きました。
学びの多様化学校(不登校特例校)とは?
「不登校」という言葉にどのようなイメージがあるでしょうか。深刻ないじめ、対人関係のトラブル…そんなイメージがあるかもしれません。しかし実際は、不登校になった原因は「どうしても朝起きられない」「少し休んでいる間に勉強が分からなくなり、そのまま行けなくなった」といったケースもあります。きっかけは一人ひとり異なりますが、不登校の小中学生は年々増えており、全国で約35万3970人(令和6年度)。無視できない数字となっています。

そんな不登校児の居場所として、文部科学省が力を入れているのが「学びの多様化学校(不登校特例校)」です。これは学校教育法における学校の一つと位置付けられており、免許を持った教員から授業を受け、小学校6年生、中学校3年生の3月には卒業するという点は通常の学校と同じです。異なるのは、学習指導要領の一部を変更し、独自のカリキュラムを取り入れることが認められていること。公立・私立合わせて全国で計59校が設立されています(令和7年11月時点)。

コンセプトは「今のあなたを認め、受け入れる学校」
宮城県白石市は人口約3万人の自治体で、小中学生の不登校は約100名(市内小中学生の約6%)です。もともと不登校児の居場所として校内教育支援センターや教育支援センターはありましたが、さらなる学びの場の提供は重要な教育課題の一つでした。半沢さんは「今の義務教育において、既存の学校システムが合わない子は一定数いるだろう、多様性に対する対応は不十分ではないかと考えていました。その答えの一つとして、学びの多様化学校の設置を検討してきました」と話します。

そして令和5年4月に、東北初の公立小中一貫校の学びの多様化学校として白石きぼう学園が開校。初年度は児童生徒18名でスタートしました。

白石きぼう学園のコンセプトは「今のあなたを認め、受け入れる学校」。学習面では、一人ひとりの状況に合わせた学び直しの時間「白石タイム」を時間割の中に組み込んでいます。そして朝は9時20分からと通常よりも遅め。朝が苦手な子にも配慮した時間割です。また授業中に座っていられなくなった場合、それを問題行動とはみなさず、クールダウンすることを認めています。

また体験学習も大切にしており、「夢スタジオ」として興味・関心に基づく探究活動の機会を設けています。地元企業の協力でイベントを実施したり、「職場体験をしたい」という子ども達の発案で酒造見学をしたりと、さまざまな経験の場が設けられています。

そんな時間を重ねるうち、生徒から「お世話になっている地域の方のために何かしたい」という声が上がり、道路沿いに地域の方と一緒に花の苗を植える活動が行われたこともありました。

自己選択・自己決定を重視。修学旅行も自分たちで決める
白石きぼう学園の公式行事は入学式と卒業式のみ。制服や校則もありません。「何をやりたいか」は子ども達の発案で決まっていきます。
例えば修学旅行。「みんなで修学旅行に行ってみたい」という声が挙がったものの、さまざまな状況の生徒がいる中で公共交通機関を使うハードルがありました。しかし、先の高校進学を考えると乗れるようになっておきたいもの。そこで最初に挑戦したのは、白石市役所にバスで行くことでした。次のハードルは電車で仙台市を訪れること。段階を踏んで、生徒の自信がついたタイミングで東京へ修学旅行に出かけました。

そんな様子を見ていた小学6年生の児童が「自分たちも修学旅行に行ってみたい」と言い出し、話し合いを重ねた上で、同じ宮城県内の松島を訪れたそうです。

子どもに「いってらっしゃい」と言える嬉しさ
自己選択・自己決定の機会が日常的にある中で、子どもたちは徐々に変化していきます。特に「勉強することが楽しい」「(勉強が)分かるようになって嬉しい」という声がよく挙がるそう。「白石タイム」のおかげで学ぶことに対する自信がつき、その様子を見た教員も自信がつくという好循環が生まれています。
そして白石きぼう学園の教員は、独自採用ではなく他市町村への転勤もある普通の公務員。通常の学校と異なる環境で、教員にも変化が生まれていると半沢さんは話します。「教員は“子どもや保護者に寄り添う”という言葉をよく使いますが、寄り添われているかどうかを決めるのは子ども達。教員が今までの学校や白石きぼう学園での経験を経て、本当の意味で子ども達に“寄り添う”ことができてきました。その結果、子ども達が満足感を得られるようになり、楽しく学校に通えるようになっていると感じています」。
その変化は、保護者の安心感にもつながっている様子。我妻さんは「ある保護者の方は『いってらっしゃい』『お帰りなさい』と言えることがこんなに嬉しいことだとは思わなかった、と話してくれました。調理実習の際には、保護者の方からボランティアを申し出ていただくこともあり、そういう機会を設定するのも嬉しい変化です」と笑顔で教えてくれました。
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学校や自治体にも努力が求められる時代。“稼げる教育委員会”を目指す
現在(令和7年12月時点)、小学生11名・中学生29名の計40名が通う白石きぼう学園。評判を聞いて、県外から白石市に転入し入学する子どもは年々増えているそう。半沢さんは「もっと多くの地域でこの仕組みが広がれば、もっと多くの子どもの居場所ができるはず」と、もどかしい思いを抱えていると言います。
ただし、学校運営には原資が必要。白石きぼう学園のユニークな取り組みとして「白石みらい教育基金」があります。「より充実した教育施策を行うには、税金で賄うのは限界があります。特定の学校を設立したために他の学校の予算を削るということはあり得ず、そうなると広く社会から支援を受けるという発想が必要になります。そこで基金を設立しました。我々も“稼げる教育委員会”を目指し、支援先を探していかなければならない。税金に頼るだけでなく、学校や自治体側にも努力が求められる時代だと思っています」と半沢さん。さらには企業版ふるさと納税の取り組みも進めているそうで、ここで得た資金を白石きぼう学園の教育の充実のために活用しているそうです。

自信を持って、胸を張って生きてほしい。
かつて他校の中学生と交流した際、白石きぼう学園の生徒の中に、自分の学校名を言いたがらない子がいたそうです。それを見て我妻さんは「みんなが一生懸命いい学校にしようと頑張っているのに悲しいよ」と伝えたところ、その生徒はハッとした顔をして「そうだよね」と答えたそう。「子ども達には、白石きぼう学園を誇りに思ってほしいです。最近は、子ども達がさまざまな活動を通して自分を表現しようとしている姿が増えていて、その姿を見て下の学年の子も刺激を受けています。自信を持って行動ができる子ども達を増やしていきたいと思っています」と我妻さん。
そして半沢さんは、白石きぼう学園の子ども達に「下を向くな。学校に行けなかったことは恥ずかしいことではない。胸を張って生きてほしい」と伝えているそう。白石きぼう学園のような学校が地域内に当たり前に存在し、特別視されないこと。それこそが多様性の実現につながると考えています。「そのために重要なのは、広く団体・個人から支援をいただくこと。お金だけに限らず人材や学びの場の提供などを通して、社会の皆さんに支えていただくことが必要です。学校を作ったから解決ではなく、学校に魅力がなければ子ども達は通ってこない。どうやって魅力を高めていくか、選ばれる学校になるにはどうするかということを主体的に考えていきたい」と話します。
不安になりがちな不登校という現実を、ワクワクする未来に変えていくーーそんな白石きぼう学園のような場所が当たり前になっていけば、日本の公教育の未来は少しずつ変わっていくのかもしれません。


















