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特集 | みんなの学校

【大阪府枚方市】洋裁を学び、自分らしさを紡ぐ『星ヶ丘洋裁学校』

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学びのなかでも「手を動かして」学ぶものの一つが、洋裁です。学ぶことは、つくること。そんな学びの場に「学ぶ」「教える」「運営する」という立場で携わっている『星ヶ丘洋裁学校』のみなさんに、お話をお聞きしました。(写真:自作のスカートを着て並ぶ、基礎科の生徒のみなさん。)

目次

生徒もスタッフも優しく、ほっとできる学び場。

校門から中へ入ると、趣のある外観の校舎とギャラリーのある古民家があり、その裏手には原っぱの校庭が広がっていた。敷地面積はなんと約1000坪もある。
ここは、大阪府枚方市にある『星ヶ丘洋裁学校』。生徒たちはみな、相手が知らない人でも「こんにちは」と笑顔で挨拶を交わす。そこには登山者が山で掛け合う挨拶のような爽やかさがあった。
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京阪交野線「星ヶ丘駅」から徒歩3分。駅前の坂を上った小高い丘の上に『星ヶ丘洋裁学校』はある。
名のとおり、洋裁を学ぶことができる場だ。経験値によってまれに例外はあるものの、多くの生徒がまず1年間の「基礎科」コースに入学し、週に1度通って服をつくる工程を学ぶ。初めにスカートを、次に襟や袖のない服をつくることで、基礎知識・技術を体得していく。毎年4月、10月にスタートする2コースがある。
基礎科を修了した生徒は、ほとんどが「本科」へ進級し、さらに腕を磨く。本科の次には、卒業生を対象に個別指導を行う「研究科」もある。
取材をした2023年2月は、前年の4月に基礎科へ入った生徒のみなさんが間もなく修了を迎える時期で、作品を見せてもらうことになっていた。本科では家族や近しい人の服をつくるケースがあるそうだが、基礎科では基本的に全員が「自分の服」をつくる。自らデザイン、パターン(型紙)メイキング、縫製をし、完成したら着る。まさに自分のための学びの場なのだ。
休憩時間に自作のスカートを着用して並んでもらい、撮影を始めると、和気藹々とした雰囲気でみなさん明るい。その様子を、目を細めて見守っていた講師の野田奈津美さんが「みなさん1年弱、毎週顔を合わせているので仲がいいんです」と教えてくれた。野田さんによれば、『星ヶ丘洋裁学校』は生徒もスタッフも優しく、ほっとする場所とのこと。「みんながそんな空気感を大事にしている感じがあります」。

服づくりを、純粋に楽しんでいる生徒たち。

生徒は近畿エリアや名古屋などからここへ通っている。入学した理由を聞くと、「洋裁の知識をつけたいから」「リメイクがしたいから」「市販の服が体形に合わないので自分の体に合った服をつくりたい」「製図を一人でやるのは難しいから習いたい」などと教えてくれた。なかには「生活を豊かにしたいから」という人も。ここに通うことで服飾作家となり、作品をつくって展示や販売を始める人もいるが、洋裁を趣味にする人がほとんどだという。
校舎へ入ると、昭和を感じさせるレトロな扉や窓、廊下などが懐かしい雰囲気。これらは設立された当時のままだそうで、古さは感じるものの、よく手入れされていて清潔感もある空間だった。
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上/基礎科の授業風景。それぞれが作業をし、講師の野田さんが教室を回って製作のアドバイスをする。右/廊下には、トルソーやさまざまな色のミシン糸、書籍などが並ぶ。左/ここにあるのは家庭用ミシンとは異なる職業用ミシン。馬力があり、家庭用とは糸の掛け方が違う。「初めはスムーズに縫えない人が多いんですが、半年ほど経つとできるようになります」と野田さん。
教室を覗くと、撮影中は終始明るかった生徒のみなさんが授業中。キリッとした表情で集中して作業をしている。ときおり談笑することはあるけれど、それぞれが真剣なまなざしで製作中の服に向き合っていた。
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上/「私が直すのではなく、理由とアドバイスを言うようにしています」と野田さん。下2枚/自らのアイデアと手によって、自らがまとう洋服が生み出されていく。その所作は美しい。
「生徒さんを見ていると、服づくりを純粋に楽しんでいるのがいいなと思います。知りたい、できるようになりたいという気持ちが強いので、知ったとき、できたときに喜びを素直に表してくれるんです。洋裁は仕事になるとコストなどの制約がどうしても出てきますけど、ここでは制約がなく、ゆったりと服づくりを楽しめます。生徒さんのそういう姿が、私にとって刺激になっています」と野田さん。一人で学ぶのではなく、学校で仲間と共に学ぶ良さとは、「完成したときに『素敵だね』などと称え合ったり、たとえ失敗しても励まし合ったりできること」だとも語ってくれた。

『星ヶ丘洋裁学校』の生徒のみなさんの作品

基礎科に通っている生徒のみなさんが、入学して初めにつくったスカートと一人はさらにトップスを見せてくれました。素材やシルエット、デザインは十人十色。どれも世界に1つだけの、自分の体にぴったり合う洋服です。
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初心者であっても、入学すれば誰もがこのようにスカートをつくれるようになるそう。『星ヶ丘洋裁学校』が気になる人、洋裁を実践してみたい人には、2023年3月に発刊されたばかりの、学校として初のエッセイとレシピの本『人と人とを繕う場所 星ヶ丘洋裁学校のソーイングレシピ』(主婦と生活社)がおすすめ。
『星ヶ丘洋裁学校』はいつ設立されたのか、歴史を園長の中山博之さんに尋ねた。「戦後まもない1948年に設立されました。大阪府交野市にあった『交野女子専門学校』を移転させ、財団法人『星ヶ丘学園』として洋裁の学校を始めたんです。戦後の社会に大切なのは、女性の社会的な地位を上げるための女性の教育だという考えからでした。といっても、当時僕は12歳で、父がそこに運営担当として勤めていたんです」。
建学の理念は「愛と汗──いろんな人と親しみながら、自分自身でものをつくる」。設立からしばらくは常時100人以上の生徒が在籍していたが、70年代以降にファッション業界で商品が大量生産されるようになり、社会変化のなかで生徒数が激減していった。「当時は母が理事長および学校長をしていました。教諭陣の高齢化もあり、最終的に生徒さんがいなくなって、94年、休校のやむなきに至りました」。東京に出ていた中山さんは、学校を「始末するつもりで帰ってきた」という。

休校からの再開。生徒はたった1人。

しかし、中山さんは学校の理念を振り返り、考え直す。「ここの精神は大切だから『なくしてしまったらもったいない。やめるわけにいかん!』と思ったんです。ここの理念は人が生きる一つのポイントだと、使命感をもちました」。
98年、新体制で洋裁学校を再開した。生徒を募集したところ、申し込みはたった1人。それでも運営し、再開から5、6年間の生徒数は少人数だった。そこで洋裁学校の事業のほか、ギャラリー『SEWING GALLERY心とした地域文化振興事業、クラブ活動による文化教育事業という3つの活動に力を入れ始めると、その内容や自然あふれる校内の様子などに惹かれて訪れる人が増え、生徒も増えていく。
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左からギャラリー担当の新谷和子さん、講師の坂元孝史さん、園長の中山博之さん、講師の野田奈津美さん、事務の山本志保さん。
「やっと学校らしくなってきて、2003年に生徒数が15人、10年に83人に増えたんです。自分で言うのもあれだけど、がんばったなと思います」と笑う、中山さん。クラブの一つとして陶芸教室を主宰し、自らも楽しんでいるようだ。14年に一般財団法人に変わり、現在は「自然の中で 自分らしく 共に学ぶ」をモットーにしている。今も「ここで学びたい」という人は多く、約100人の生徒が通う。ほぼ女性で、男性は5人だとか。生徒は随時募集中だ。
最後に「洋裁とは何か」を聞くと、中山さんは次のように話してくれた。「衣食住っていいますよね。どれも生き物に必要なものですが、『衣』が必要なのは人間だけ。そこですよ。人間を人間たらしめるものとして、一番必要なものではないでしょうか」。
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右上/学校の歴史を示したポスター。左上/古民家の2間を使ったギャラリー『SEWING GALLERY』。右下/広い校庭。手前は野菜や綿などを育てている畑。左下/文化教育事業の一つ「わたの会」では数種類の綿を育てている。

『星ヶ丘洋裁学校』・野田奈津美さんが気になる、学びを楽しむコンテンツ。

Radio:COTEN RADIO
https://coten.co.jp/services/cotenradio
歴史は得意ではないのですが、話している方の歴史好きな様子が聞いていて楽しく、歴史を知るおもしろさを感じています。生徒さんからも「好きなことをしている人のパワー」を感じていて、私はそれが好きなようです。
YouTube:Senjyu工房
https://youtube.com/@Senjyu
縫製を仕事にされている方なので、手際がよく、見ていておもしろいです。洋裁での縫い方は人それぞれなので、生徒さんにいろいろな提案ができるようになるべく、さまざまな縫い方を知りたいと考えています。
YouTube:わたいとや
https://youtube.com/@wataitoya
『星ヶ丘洋裁学校』では、2022年から校舎裏の畑で綿を育て、染めたり、糸を紡いで織ったりする「わたの会」というクラブ活動を始めました。育ててみると綿はとても魅力的。このチャンネルで綿について学んでいます。
photographs by Tom Miyagawa Coulton text by Yoshino Kokubo
記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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