まちおこしに使える映画を発明しようと思ったこと。ドキュメンタリー映画による地域振興「つぎの民話」の活動をご紹介します。
はじめまして、山形にある地域振興サポート会社『まよひが企画』という会社の代表をしています、佐藤恒平と申します。地域おこし協力隊という制度を使った神奈川から山形へ移住し、その後に今の会社を起業して今年で10年目になります。
まちおこし・地域活性化と言われる分野の企画と運営がメインのうちの会社に、ドキュメンタリー映画の監督である松井至さんから「ドキュメンタリー映画を社会に活かすにはどうすればいいと思う?」という相談があったのは昨年の3月のことでした。
大学の先輩である松井さんとはお互いの仕事の話をよくする間柄ではあったけど、品川のカフェをハシゴしながら、夜までずっと相談に至った経緯や、今の業界の実情などを話してもらいながら、僕は持ち込んだ真っ白なスケッチブックいっぱいにキーワードや図を描き連ねていました(だいたい初回の相談の時はスケッチブックにプロッキーで描きながら話を聞いています)。社会に活かすとはいえ、僕の分野は地域振興ですので、まちおこしの分野にいかにドキュメンタリー映画を使うのかというところが本題になります。
ただ午前中の話が終わって、昼食にやけに提供がスムーズな家系ラーメンのお店で醤油豚骨を味わっている時にはすでに、コレはいつもの仕事のようなアドバイスや伴奏をするだけの仕事にするべきではないなって気持ちになっていました。なんとなく実験的な新しい取り組みができそうな閃きがあったのです。
ドキュメンタリー映画は社会の知られざる出来事を多くの人に広く伝えることができる力を持っています。「地域振興(まちおこし)」への活用を考えた時に、まっさきに思いついたのは『情熱大陸』とか『カンブリア宮殿』とか『プロジェクトX』みたいなコンテンツをつくることなんですが、それはわざわざ地方のイチコンサル会社が提案するようなことでもないし、そもそも各種テレビ局がすでにしっかりとやってくれています。松井監督もテレビの制作会社で働いていた経験があるのでその辺は十分承知。
じゃあ逆に、テレビや劇場映画でやられていないことってなんだろう? と考えたき、「多くの人に広く伝えること」という部分にテコ入れの可能性を見つけました。
具体的にいえば、「特定のエリアの人に範囲を狭めて伝えること」です。
映画の話からちょっと離れるのですが、地域振興の仕事のひとつとして、自治体の総合計画づくりに携わったことがあります。コミュニティーデザインを掲げる『studio-L』さんの力を借りて、住民有志と行政職員が参加する協働会議(ワークショップ)を何度も開き、10か月以上かけて、自治体の10年計画をつくりました。
良い感じの計画にまとめられたと自負してはいるのですが、ひとつだけ残った不満がありました。それは、何か月もさまざまな話し合いを重ねた経過や努力そのものは、会議に参加しなかった他の住民に知られることはないということです。
せっかく頑張ってくれた人たちの功績を多くの住民には理解してもらえないというジレンマ。自分たちの自治体のために時間と知恵を絞っている住民たちがいること。その人たちが何を考え主張しているのか。そういったことを知る方法は月1回の発行の広報誌の1ページの報告にまとめられるのみでした。
あの会合での熱を、真剣な議論を地域の人に知ってもらうにはどうすればよかったんだろう。
もし知ってもらえたら、参加者たちがより報われ、参画してくれる住民もより多くなるのではなかったか? そんな僕なりの後悔に今回の映画が答えをくれた気がしたのです。
例えば「自治体の計画づくりの映画」なんて、その自治体に住んでいる人以外はよほど必要に駆られない限りは見る意味がありません。ですが逆に、その自治体に住んでいる人には、たとえ無関心だったとしても観て実状を知ってもらうことに価値があります。
近所で行われている地域活性化の取り組みを知ってもらう範囲は、世界でも日本全土でもなくて、近所の人たちでわりと十分。そして、その状況をリアルに知ってもらうためには、映画(映像表現)が効果的でなのではないかと感じたのです。
午後、場所を変えた品川のカフェでスコーンを食べながら僕がスケッチブックに書いたのは、「地域で撮って地域で観る、狭いドキュメンタリー映画」というアイデアでした。それならやってみたいかもと言う松井監督の返事を聞くと、なんだかいつもと違う笑顔が僕の中に込み上げてきて、じゃあ僕の方で撮れそうな自治体を探してみますと約束し握手を交わしました。アドバイスではなく、企画の営業と調整を行う役を担いながら「一緒に映画をつくる」という決心の握手でした。
地域の中で起こっていることを、その地域に住む人が民話(他人に話したくなるようなその地のオリジナルの話)のように語ってくれたらという願いを込めて「つぎの民話」と名付けられたドキュメンタリー映画のプロジェクトはここで産声をあげます。
ここからの1年間で4本の映画が生まれるのですが(現在5本目の作成中)、そのできるまでと、観た後の地域の変化を次からは綴っていこうと思います。
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