NPO法人『くまの木 里の暮らし』事務局長|加納麻紀子さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊
でも、現場に足を運び、魅せられてしまいました。都会とは違う田舎の濃厚さに感動し「こんなにおもしろかったんだ! これを伝えたい」と、のめりこんでいきました。
自然、風景、文化、農業に関わる人や生き物も続いてほしい。そのために自分の立場でできることはなんだろうと考えて、「つなぎ役」をやれたらと思いました。農村に滞在してもらって、できれば繰り返し来ていただき、「農」を紹介する活動を行うのが一番かなと。グリーンツーリズムの専門団体ではありませんが、現在は大学の実習や小学校の修学旅行などで栃木県・塩谷町に来る人たちのコーディネートをしています。「ね、おもしろいでしょう?」と紹介し、同じように感じる仲間が増えていったら楽しいなと思っています。
塩谷町に来てから読んだのが、詩とともに里山の風景が描かれている『雨ニモマケズ Rain Won’t』です。有名な宮沢賢治の「雨ニモマケズ」は、「節制と自己犠牲という信条を綴った詩だよね」という程度の印象でしたが、実際に自分が農村に身を置いて生活するようになり、この美しい絵とともに読むと、「ああ、この詩は里山の農とともにあった生活から生まれた哲学なんだな」と深く感じさせられました。
『惣一じいちゃんの知っているかい?農業のこと』の著者である山下惣一さんは、中学を卒業後、農業を継ぎ、農業で生計を立てながら、農業をテーマにした小説やルポルタージュを執筆してきました。その内容には、土を耕し、作物を育てて生きてきた人特有のたくましさがあります。前職でお会いしたことがあるのですが、世界の農業や農村の現場をたくさん知っていて、見識も深いのに、いつも語り口は軽やか。農に根差した鋭い思索にハッとさせられることばかりでした。この本は親子はもちろん、農業をあまり知らない大人にもおすすめです。
今は、農業一本で生活していくのはなかなか難しい時代です。私は就農者だけではなく、自分のように農業まわりの仕事がもっと増えてもいいと考えています。グリーンツーリズムを通して農山村の生活を理解し、農業を守っていく意識のある人が増えていったらいいですよね。