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サスティナビリティ

連載 | やってこ!実践人口論

宝箱を開ける

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「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。自分をむき出しにする勇気が問われる。それが実践主義者の宿命。

 誰もが心のなかに宝箱を持っています。その宝箱には自分の存在理由とでも言うべき、大切な思いが詰まっています。でも、普段は自分で自分の宝箱に鍵を掛けている。アイデンティティをむき出しにすることが怖いからです。

 でも僕はその宝箱を、あえて開きたい。宝箱の中身をみんなに見てもらって、財宝(があるなら、それ)をみんなで分かち合って楽しみたい。実践主義に生きることは、自分なりのやり方で自分の宝箱を人に開いていくことでもあるんじゃないかって、最近すごく思うんです。

 さて今回ご紹介するのは、僕がその人となりが大好きだからこそ、“心の宝箱”をもっと開いてほしいと思っている実践主義者。クリエイティブの力で社会を変えようとする映像プロダクション『EXIT FILM inc.』代表の田村祥宏さんです。

目次

有限実行の男。“巻き込み力”の化け物。

 田村さんと僕は同い年。どこか同じ匂いを感じて意気投合して以来、熊本地震で被災した黒川温泉に「100人のクリエイターを集めて情報発信をする」という支援活動や、埼玉県・横瀬町の中学生と一緒になって地域課題の解決を目指すクリエイティブ教育プログラムなど、彼がリーダーシップを発揮するさまざまな取り組みに、僕も一緒に関わらせてもらいました。

 映像ディレクターとしての彼の実績を挙げるとキリがないのですが、僕が何よりも彼をすごいと思うのは、やると決めたら必ずやるその実行力。そして、ひと癖もふた癖もありそうなクリエイターたちを圧倒的な熱意でガンガン動かしていく巻き込み力です。

 例えば、東京で活躍するクリエイターたちに「自分たちのポートフォリオをつくろう!」と呼びかけて始まった自主プロジェクト「KUROKAWA WONDERLAND」。黒川温泉郷にさまざまなスキルを持ったクリエイターが集結し、地元民を巻き込みながら、土地の魅力を伝えるWebサイトを“全員自腹”でつくりあげました。

 観光客が知らない黒川温泉の魅力を濃縮したこのサイトは、海外で多数のクリエイティブアワードを受賞するなど大成功。クリエイターが「地域のために」ではなくて、あくまでも「自分たちのために」集まって作品をつくる。その結果、これまでにないかたちで黒川温泉という土地が世界に発信されたのです。これは地域活性化のあり方を問う、田村さんの並々ならぬ“カウンター精神”が成し得た偉業だと僕は考えています。

田村さんのシネマ(映画)表現に特化した映像は国内外で数々の賞を受賞している。
田村さんのシネマ(映画)表現に特化した映像は国内外で数々の賞を受賞している。

劣等感をガソリンに、走り続ける。

 そんな田村さんですが、僕と同じように育ちがあまりよくないそう。思春期に空いた心の穴を埋めながら生きているところは、僕が直感的にシンパシーを感じた部分です。そういうタイプの人間は、自分のなかにある劣等感が生きるモチベーションであり、“ガソリン”なんです。だから心の穴から目を背けて生きられない。が深い……。

 でもこの業を知るからこそ、能力の限界を超えてまでがんばれてしまうところもあるんじゃないかと思うんです。田村さんの場合は、縁のなかった土地にぐっと入り込んで、地元の人たちとちゃんと人間関係を築く。さらにそうして生まれた土地との関わりをこだわり抜いた作品にまで昇華させる。持ち前の利他心で、関わった人たちみんなに価値を振りまく。しかもそれを無償でやってのける。戦隊もので言ったら、“レッド的”なパワーと精神力を備えた実践主義者です。

大いなる夢に向かって。

 ただ、見ようによっては力の抜きどころを知らない人とも言えます。実践主義者はね「太く短く死ぬ」ことが運命づけられていますが、このままいけば彼も例外ではないでしょう。だからこそ、僕は彼にいつかちゃんと自分の夢も実現してもらいたいと思っています。

 彼は以前、僕に「映画を撮りたい」と言っていました。今は社会の要請に圧倒的なパフォーマンスで応え続けているけれど、表現者としての彼のやりたいことはそれだけではなかったはず。そろそろ心のなかにある、すすけた宝箱を全開にしてもいいんじゃないか。そして、本気で映画を撮ってもいいんじゃないか。僕はそんな田村さんが見たい。

 無責任なことを言うようだけれど、僕は彼が人生をかけてつくる映画が見たいんです。そう、これは田村さんという愛すべき実践主義者への、僕からのエールです。

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