「人も食も、いのちはすでに魅力的!」と考えているaiyueyoでは、らしさがあふれるごきげんな人生の実現を応援しています。人生の大きな割合を占めるのが仕事。そんな仕事を自分の強みや想いの宿った「ナリワイ」に変えている方々がいます。この連載では自分のナリワイを楽しむごきげんな大人たちを紹介していきます。
今回お話を聞いたのは、栃木県宇都宮市で主にイスラエル・ヨーロッパ系トマトを専門に栽培している農園「絹島グラベル」の長嶋智久さん・絵美さんご夫婦(以下:長嶋さん)です。
作物に対してはもちろん、農園で働く人々のことも大切に思い、さまざまな工夫を凝らしてきたお話をお聞きしました。
日本の食文化に馴染む、珍しい品種のトマトを栽培
ー絹島グラベルさんでは、ちょっと珍しい品種のトマトを作られていますよね。
長嶋さん:今、割とイスラエルの品種に落ち着いているんですが、ここにたどり着くまで、さまざまな世界中のトマトをつくってきました。
おいしいという感覚は国によってかなり違っています。とくにヨーロッパは加熱調理文化が根付いているので、焼いたり、煮たりすることでおいしく食べられる品種が多いんですよ。なので、加熱せずにおいしく食べられる品種に出合う確率は結構低いんです。
でも日本では、トマトは生で食べることが多いですよね。なので、何回も試作を繰り返して、日本の食文化に馴染みやすいものを探してきました。
でもね、どれがおいしいか、どんな食べ方が良かったか、10人に聞いたら10人とも答えが違うんですよ。それがトマトの面白いところなんです。
時代の変化と妻の後押しもあり、農業の道へ
ー以前は全く別のお仕事をされていたと聞きました。何がきっかけで農家になられたんですか。
長嶋さん:結婚当時、わたし(智久さん)はパソコンの修理販売の仕事をしていました。
でも、多くの人がパソコンをもつようになり、新しく買う人が減ってきたんですよね。今のようにどんどん新機能が出るということもなかったので、買い換える理由もない状況でした。子どもも生まれて養っていかなきゃいけない中で、今後2〜30年この仕事を続けていて大丈夫かなと思い始めたんです。
また、わたしは兼業農家で育ったので、小さい頃からお米の田植えや稲刈りなどに参加していました。自然の中で子ども時代を過ごしたことが身に染み付いていて、なんとなくいつか田舎に帰るんだろうなという気持ちもあったんですよ。
その2つがたまたまリンクして、子育てするにあたっても少しでも自然がある方がいいと思い、妻に相談を持ちかけました。
「今の仕事をやめて、農家になろうと思うんだけど」と話したら、「やりたいことがあるのはいいことだよ」と、背中を押してくれました。
実家がお米をつくっていたので、農業機械や土地はあったんですよ。ただ時代的にお米をつくってもなかなか厳しかったので、他のものをつくろうと試行錯誤した結果、今はトマトなどをつくっています。
「間接的子育て支援」をモットーに、お母さんの働きやすい職場づくり
ー農園はお2人以外のスタッフさんもいらっしゃるんですか。
長嶋さん:はい。わたしは子どもの学校でPTAの役員をやっていたことがあって、働くお母さんの姿を沢山見てきました。そんな中で、働きたい意思があるのに、その能力を発揮できていないお母さんが沢山いることに気づいて。
条件や環境さえ合致すれば、もっと多くのお母さんたちが自分の意思を叶えられるし、家庭のためにも、社会のためにもなり、全てが良い方向になるんじゃないかなと思ったんです。
そこで、働くお母さんのための職場づくりをして、その子育てを支援するという、「間接的子育て支援」をモットーとして、パートのスタッフさんを採用させていただいています。
ーお母さんが働きやすい職場にするためにどんな工夫をされているんでしょうか。
長嶋さん:例えば、夏休みや冬休みの期間には、あまり作物ができないように調整しています。たくさん実っていると、その時期にも来ていただかなくてはいけないので。
また、収穫適期が長いトマトを植えています。品種によっては、赤く色づいたら2日で収穫しないと腐ってしまうものもあるんですが、外国の品種、特にオランダのものは1週間〜10日ほどそのままでもおいしく収穫できるものがあるんですよ。
なので、例えばスタッフさんのお子さんが風邪を引いてしばらくお休みされることになっても、代わりの方が出勤することなどが少なくて済みます。また出勤できるようになったら収穫すれば大丈夫、というやりくりがしやすい品種に限定して育てているんです。
こういった条件と、ウォーターカーテン(※)を用いるうちのハウスの栽培方法に適している品種を探した結果、イスラエルやオランダの品種に辿り着きました。
ーそうだったんですね。どうしてイスラエルとかヨーロッパ系なんだろうって思ってたのでお聞きできてよかったです。
※地下水をくみ上げて、その熱で冬の寒さからトマトを守る栽培方法。その時期はハウス内の湿度が非常に高くなるので、湿度に強い品種であることが必要。
ー農家さんは土日祝日関係なく毎日働く必要があるイメージなのですが、絹島グラベルさんのところはどうなのでしょうか。
長嶋さん:パートさんは、基本的に土日祝日はお休みです。
当然、出荷日に人手が足りないと私達夫婦で収穫するんですけど、それでも間に合わないこともあります。
でも、人間なのでそれはそれで仕方ないと思っています。ピッタリ決まった数ではなく、大体の量でOKだよと言ってくださるところと契約させていただき、必要以上に自分たちの首を絞めないようにしてます。
ーお取引先さんもご理解くださっているのですね。パートさんの勤務時間は午前中中心だと聞きましたが、それはどうしてなんでしょうか。
長嶋さん:お母さんは、ご家族のお弁当を作ることが多いと思うんですが、それに加えて自分の分もつくるとなると大変じゃないですか。
それに、仕事が終わって職場でお昼を食べて、家に帰ってすぐ子どものお迎えの時間になったりすると、ひと息つく間もないですよね。
それなら、午前中中心にお仕事していただいて、ご自宅に帰ってからゆっくりお昼を食べてもらった方がいいなと思ったんです。
ーすごくわかります。家族のお弁当の準備はいいんですが、自分の分は全然準備する気になれないです(笑)。
絹島グラベルの個性ゆたかな野菜や加工品
ー愛食フェスには、どんなものをお持ちいただけるんでしょうか。
長嶋さん:まずはトマトでいうと、「ほむすび」という品種。ろうそくの炎のような形にちなんで名付けました。もとはTT806という名前なんですけど、ほむすびの方が可愛いでしょう?
イスラエルのトマトなんですが、アロマといって、飲み込んだあとに口の中に残る香りが非常に強いトマトなんです。ワインのように、食べた後の余韻も楽しんでいただきたいです。
続いて、コスモポリタン。ほむすびより一回り大きい中玉トマトと言われるサイズで、ゴルフボールくらいの大きさです。特徴は、甘味と酸味だけで他の雑味が一切ないこと。お子様やトマトが苦手な方もとても食べやすいと思います。一方、菜の花やアスパラガスのような野菜特有の風味が好きな方は、物足りないかもしれませんね。
そしてもうひとつ、ダルシモールというトマトもお持ちします。これはもうちょっとえぐみがあるので、より野菜好きの方に楽しんでいただけると思います。サイズはピンポン玉くらいです。
それから、10センチくらいのミニきゅうりもお持ちします。
サイズ的にピクルスにするイメージを持たれる方が多いと思うんですが、これはオランダで子どもたちにおやつとしてそのまま食べてもらう目的で育成された品種なんです。若干のしょっぱさというか、あとを引く味わいがあります。ぜひ生で食べてみてほしいです。
他にも、トマトやレモンで作った辛味調味料やレモンシロップ、レモンを使った塩だれのようなソースもご用意する予定です。ソースは、サラダのドレッシングとしても使えますし、お肉料理にもぴったりですよ。
さまざまな工夫を凝らして、作物に愛情を注ぐことはもちろん、お母さんが働きやすい職場づくりを実現されている絹島グラベルさん。
仕事も暮らしも心地よくつながっていける未来をつくることはできると、改めて感じることができました。
そんな絹島グラベルさんの想いが詰まったお野菜や加工品を、ぜひ愛食フェスでお手に取ってみてくださいね。
愛食フェス概要
日時:2024年5月25日(土)11:00~17:00(雨天決行)
場所:BONUS TRACK(東京都世田谷区代田2丁目36-15)
内容:マルシェ
入場料:無料
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