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【熊本県多良木町】荒れた竹林からおいしいメンマをつくる、悠久農園・矢山隆広さんの挑戦

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熊本県南部、人吉盆地を貫流する球磨川沿いにある「多良木町(たらぎまち)」。総面積の約8割を山林原野が占め、昔は農林業を主産業として栄えてきた町です。木材の集積地、加工生産地として栄え、かの有名な小説家・司馬遼太郎は『街道をゆく』のなかで、多良木町を含む人吉球磨地域のことを「日本で最も豊かな隠れ里」と称しています。近年は高齢化が進み、林業の担い手不足から山林の荒廃が問題化していますが、それを逆手に取った試みに挑戦している人がいます。悠久農園の矢山隆広さん(37歳)。彼が手がけるプロジェクトについて話を伺いました。

目次

東京から多良木町へ、移住するきっかけは熊本地震

ソトコト:悠久農園、そして矢山さんの現在の活動内容について教えてください。

矢山隆広さん(以下、矢山):私の主な仕事は、長年手入れされず放置され荒れてしまった竹林、いわゆる「放置竹林」の整備活動です。春になったらタケノコを収穫して、「塩漬けタケノコ」に加工し、提携している工場に送って味付けしてもらい、「多良木メンマ」が完成します。今年の夏には多良木メンマを具にした「おにぎり店」を、人吉市役所のとなりにオープンする予定もあります。

ソトコト:この活動に至った経緯を教えてください。

矢山:今の仕事を始める前は東京で働いていました。2016年に故郷・熊本で発生した大地震を機に故郷への想いが強くなり、熊本へ戻って仕事がしたいと思い、「地域おこし協力隊」の制度を利用して多良木町の地域おこし協力隊隊員になりました。

ソトコト:矢山さんは確か、熊本市内のご出身だったと思いますが、熊本市ではなく多良木町を選んだ理由は何かあるのでしょうか?

矢山:多良木町とはもともと縁があったわけでなく、実は多良木町のこともそれほど詳しくは知りませんでした。熊本地震が起きたときに「熊本に帰ろう」と決めて、「でも仕事をどうしようか?」と考えたとき、東京・有楽町の「ふるさと回帰支援センター」で参加した「地域おこし協力隊説明会」が多良木町との出合いです。

説明会当日は熊本県内の自治体がいくつか来ていて、15自治体くらいだったかな、順番に各自治体の説明を聞いて回りました。説明を聞いていくと、たとえば「就農してほしい」などミッションが予め定まっている自治体が多かったのですが、多良木町は「これをしてほしい」のほかに「ゼロからアイデアを練って、挑戦するのもありです」といった自由さがあって、その日に話をした担当者さんともウマが合う感じがして、すぐに「多良木町に移住する」と決めました。

多良木町には熱い30、40代が多い

ソトコト:地域おこし協力隊として多良木町に移住し、そこでの暮らしは今年でおそらく7年目でしょうか? 矢山さんの目から見た多良木町ってどんな町ですか?

矢山:僕にとって多良木町は「熱い人が多いまち」です。多良木町は、山に囲まれた盆地で球磨川が流れていて、いわゆる「田舎」。とても穏やかで人もゆったりしています。人口こそ多くありませんが、僕はここに来てから30~40代、同世代の「多良木をもっといいまちにしたい」という想いを持った人に出会う機会に恵まれました。こうした人たちが身近にいて、今やっている放置竹林の整備、多良木メンマの製造販売の活力になっていますね。

ソトコト:町を表現するのにまず、環境や食べ物でなく「ヒト」の話になる点は心に響きますね。

矢山:美味しい食べ物や美しい景勝地っていうのは、日本中どこに行っても素晴らしいものがあると思いますが、自分にとっての「刺激になる人」、ある意味「運命の人」というか、目標を共にしようと思える「この人!」というのは、どこにでもいる訳じゃありません。僕にとって多良木町はそういう「熱い人が多い」「来るべくして来たまち」だなと思っています。

妙見野自然の森展望公園から見える雲海

多良木町内で矢山さんのお気に入りの場所は、何も考えずぼーっとしたい時などに行くという「妙見野自然の森展望公園」。多良木町を含む人吉球磨盆地を一望できる。秋から冬にかけては雲海が盆地をすっぽりと覆い幻想的な風景になる。

3年弱の試行錯誤を経てたどり着いた「未利用資源」の活かし方

ソトコト:震災をきっかけにして「ここ!」と思える町に出合ったストーリーは印象的です。放置竹林の整備やメンマづくりのお仕事は、地域おこし協力隊として多良木町に移住した当初からのプロジェクトだったのでしょうか?

矢山:最初は「未利用資源の活用」というミッションから、町内で使われていない「資源の発掘(洗い出し)」と、それを「どう使うか?」の事業計画づくりから始めました。さまざまな地域資源を見つけては「どう生かそうか?」という試行錯誤と模索を3年弱繰り返して、最終的にたどり着いたのが「放置竹林」からの「塩漬けタケノコ」「メンマ」だったんです。

ソトコト:活用すべき資源としての「放置竹林」ということですが、矢山さんはどんなところに価値を見出したのでしょうか?

矢山:まずは多良木町に竹林がたくさんあるということ。素材として考えたとき量が豊富で、毎年生えてくるので枯渇しません。同時に竹林は整備しないと木々の成長を阻害し、土砂災害や倒木の危険性も高まるので、何とかしてほしいという地域のニーズもありました。

ソトコト:うまく資源化できれば、事業としても多良木町としてもWin‐Winかもという……?

矢山:はい、そこで放置竹林の整備活動に着手しました。

多良木町の放置竹林

整備前は竹が密集していて、陽の光もあまり入らない暗い竹林だった。
多良木町の整備された竹林

矢山さんたちが整備をした竹林。整備後は陽の光が入り明るい竹林になり、風がよく通る気持ちのいい場所になった。
ソトコト:「メンマにする」というアイデアの着想は何だったのでしょうか?

矢山:竹にまつわるビジネスをいろいろ調べるなかで、福岡県の糸島が「国産メンマの発祥の地」であることを知り、製造元の一つである地域団体にコンタクトを取って研修に行かせてもらいました。そこで「塩漬けタケノコ(メンマの原材料)」の製造方法を習えたことがきっかけです。

2021年に「塩漬けタケノコ」の製造を始めて、その後、知り合いのツテで宮崎県の「延岡メンマ(LOCAL BAMBOO株式会社)」を紹介してもらった折に「一緒にやりませんか?」と言ってもらえて、2022年から「多良木メンマ」の製造に着手して販売するところまで至りました。

多良木メンマ2種

商品化し販売も行っている多良木メンマの柚子味噌味(左)と梅味(右)。
ソトコト:「多良木メンマ」が完成して、まちのみなさんの反応はどうでしたか?

矢山:みんな喜んでくれています。ふるさと納税の返礼品にしようとか、まちの物産店でも販売しようとか、積極的なサポートもあって本当にありがたいです。

「多良木メンマ」のパッケージ

「多良木メンマ」のパッケージ。

2023年夏に「多良木メンマ」のおにぎり屋、その先には見据えるのは……

ソトコト:「多良木メンマ」を通じて、矢山さん的に今後の展望はいかがでしょうか?

矢山:多良木メンマは「おにぎりに合うメンマ」として開発をしまして、その多良木メンマをおにぎりの具として使用するおにぎり屋を今夏、人吉市役所のとなりにオープンする予定です。多良木メンマの味を一番引き立ててくれる、おにぎりの具として食べていただきたい、との想いからおにぎり屋のオープンを決めました。

多良木メンマを具にしたおにぎり

多良木メンマ(梅味)を使ったおにぎり。
長期的な目線で言うと、竹を使ったビジネスで人を雇用することが僕の目標です。多良木町でも昔はタケノコがいい値段で取引されていて、さまざまな竹製品を作って販売したりもしていたそうです。今はプラスチックの台頭もあり、「竹では昔のように利益を生み出せない」と人が離れていった状況で、これが放置竹林の原因だったりもします。「竹で稼げる!」ということを証明したいですし、このプロジェクトを「地域にある当たり前のものに、たくさんの価値がある」ということに気が付くきっかけにしたいです。

あとは竹以外にも見過ごしている素晴らしい資源があるはずなので、多良木メンマがそれを発掘する後進たちのロールモデルビジネスにできたらと思っています。

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