岐阜市の中央を東西に流れる長良川には昭和初期まで12か所の渡しがありました。現在は地元の人でさえその存在を知る人が少なくなりましたが、唯一「小紅の渡し」という渡船場が現存しています。利用客は1日10人弱で、物珍しさで乗船する観光客や散歩ついでの方がほとんどですが、観光船ではなく、あくまで県道173号(文殊茶屋新田線)の一部として“無料”で運行されているところに、地域固有の営みを残そうとするまちの思いを垣間見ることができます。今回は、そんな「小紅の渡し」の魅力をご紹介します。
県道173号(文殊茶屋新田線)の一部として無料で運行
現在「小紅の渡し」は、県道173号(文殊茶屋新田線)の一部として認定され、渡船料も無料となっています。25年ほど前までは通勤や通学で利用する人もいましたが、現在は観光客や遠足の子どもたち、側にある鏡島弘法の縁日に向かう参拝客などの利用がメインとなっています。
実際に乗船してみる
堤防の下の護岸に停泊している船まで一緒に下りて行き、出港の準備をしてくださるまで約5分。安全のため、救命胴衣を着て乗り込んだら出港です。
決められた出港時間はなく、渡りたい時にいつでも無料で川を渡らせてもらえるというのはとても便利。「小紅の渡し」が観光船ではなく“あくまでも県道の一部”として運営されているのが実感されるポイントでした。
約1分の優雅な乗船時間
造船は平成27(2015)年にコスト面や耐久性を考え、木造から繊維強化プラスチック製に切り替わり、船外機も付けられました。基本的には船外機で進みますが、発岸や着岸する時は船頭さんの棹裁きが光ります。
観光船としての周遊はNG
近年、通勤や通学での利用はなく、観光客などの乗船が多くを占めています。観光目的の場合、往復の観光乗船を希望する方もいらっしゃいますが、あくまで県道の一部として運行しているため、対岸についたら一旦船から降りて岸に上がらなければなりません。戻る場合は再度乗船して戻ることになります。
船頭は鮎漁の漁師さんなど3名が在籍
今回お話を伺った藤田さんはベテランの鮎漁師さん。長年長良川を見つめていらっしゃるそうで、長良川河口堰ができる前は今よりも水面が2メートルほど高かったことや、近年の温暖化で川の水温が上昇し、夏場は鮎が住みにくい25度以上になることも多く岐阜市内の長良川での漁獲高が下がっているというお話を聞かせていただきました。
訪れる乗船者は少ないため、どの船頭さんもお話を聞くと丁寧に対応してくださいます。「小紅の渡し」のすぐ下流に長良川の鮎の自然産卵場があり、毎年10月頃になると数千匹の鮎の群れを見ることができるとのこと。藤田さんの鮎漁の船はちょうどそこに停泊しており、シーズンの夜に来たらアユ漁をやっているということなどを教えてくださいました。
筆者は岐阜に住んでいるのですが、長良川に関してまだまだ知らないことが多いことを実感しました。普段は長良川に架かった橋を車でビュンビュンと行き来してしまいますが、たまには水面から長良川を眺めて、船頭さんとお話するのもいいなと感じました。
岐阜では長良川の観光船の鵜飼も有名ですが、地元に昔から根付く“渡し”を味わってみるのもおすすめですよ!
■小紅の渡し
右岸:岐阜市一日市場
左岸:岐阜市鏡島(鏡島弘法 乙津寺 北)
運行時期:4月1日~9月30日 8:00~17:00、10月1日~3月31日 8:00~16:30
休航日:毎週月曜日(祝日または鏡島弘法縁日21日と重なる場合は、その翌日休航日)
その他:悪天候、増水、強風等により、休航となる可能性あり
問合せ:058-214-4719(岐阜市土木管理課)
写真・原稿:各務ゆか