おいしいものを食べたり、きれいな風景を眺めたり、かわいい土産物を見つけたり……。そんな“観光”はきっと楽しい。でも、小誌読者なら、さらに一歩踏み込んで、その土地の本当の魅力、価値と出合う旅をしたいはず。ソトコト流「東京宝島 離島歩きガイド」のはじまりです! part2では、新島と式根島を紹介します。
新島
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面積 約24平行キロメートル
周囲 約42キロメートル
人口 約2100人
▶新島へのアクセス 東京・竹芝客船ターミナルより ジェット船:2時間20分 大型客船:往路8時間30分/復路7時間5分 調布飛行場より 飛行機:40分
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新島といえばくさやが知られているがサーフィンのメッカであり、美しいビーチもまた有名だ。1970年代に巻き起こったという離島ブームの折、ここ新島にも当時の若者たちがこぞって集まったという。彼らを虜にしたのが美しい砂浜と波。抜群の白さを誇る新島のビーチは東京の離島では稀有な存在。玄武岩質の真っ黒な火山岩と異なり、新島は白い流紋岩で形成されているのがその理由だ。
数々のサーフィンの大会が開催されてきた歴史に加え、個性的な音楽イベントも大いに人を集めた。2018年でラストとなった伝説のビーチラウンジ・イベント「WAX」は、14年間島民のボランティアで運営されてきた。島の自然環境とともに、新島は人にも求心力があった。
今回はハブ的な存在の二人に出会えた。一人は『民宿富八』の富田桂介さん。「ここは本当に人がつながる島。若い人やクリエイターも多く集まるし対話の中で新しいアイデアが生まれることも多い。なにか企画を一緒につくりましょう!」。『Hostel NABLA』の宮川隼人さんは根っからの„つなぐ"気質の人。「まずは旅人同士、そして島民とつながってくれるのがゴールかな。冬は時間もあるし、おもてなしし放題なので遊びに来て!」。
『Hostel NABLA』管理人|宮川隼人さん「人と人とをつなぎたい。」
新島にしかない「コーガ石(黒雲母流紋岩)」を使った建物を残したいと、もともと映画館や民宿として使われていた現在の建物を『Hostel NABLA』のオーナーが買い取り、リノベーションしたゲストハウスです。僕は地元出身で、一度は島を離れましたが縁あって島に戻り、この仕事に就いています。大学時代にワーキングホリデーでカナダで1年間暮らした経験から、帰国後には留学生の寮の管理人をやったりしていました。お世話をしたり、人と話したり、つなげたりするのが好きですね。でも、実は人見知りだったりしますが(笑)。自然な感じで、お客さん同士の交流が生まれるような雰囲気づくりを大事にしています。迎えるというより、誰かの友達を招くような気持ちで接していますね。初めての土地で緊張するぶん、ここで“油断”してもらえたらうれしいです!
『民宿富八』三代目店主|富田桂介さん「島の未来を一緒に考えていけたら。」
新島でいち早くサーフィンを始めた父の影響で、自分も小さいころから海に入るようになり、プロを目指して大会に出ていたこともありました。『日本サーフィン連盟新島支部』支部長や観光協会の副会長などもやってきましたが、肩書が苦手なので後輩に譲り、今は島で楽しく暮らしています(笑)。そんな中でもやっぱり島の未来のことは考えます。自分は宿をやったり、ガイドをしたり、映画の撮影のアテンドなどを仕事にしていますが、島ではこんな自由な働き方は珍しい。これも、島の若い子たちに見せたい気持ちが大きいですね。自分で考えればなんだって仕事になるとわかれば、島に戻ってきても楽しいと思える場所を自分でつくれますから。島の人だけでなく、外からの人も新島はウェルカム。対等に、島で生きる仲間として一緒に島の未来を考えていけたら最高です。
式根島
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面積 約4平方キロメートル
周囲 約12キロメートル
人口 約500人
▶式根島へのアクセス 東京・竹芝客船ターミナルより ジェット船:3時間 大型客船:往路9時間/復路7時間35分 調布飛行場より 飛行機+連絡線(新島経由)で可能
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外周約12キロメートルで高低差が少なく、海上から見ると平らな式根島。心身をリフレッシュできる場所がいくつもあり、電動アシスト自転車や徒歩でさっと行けるのが魅力だ。天気のよい日には富士山、伊豆半島、 八丈島を除く伊豆諸島の島々を見られる神引展望台をはじめ、足湯に浸かりながらパソコンを広げることもできる『松が下雅湯』や露天温泉3か所に室内温泉と自然の恵みにあふれている。
この島は海水浴やダイビングを目的に訪れる人が多く、オンシーズンの5月から9月までは観光客でごった返す。しかし、オフシーズンとなると島内は閑散とする側面も。この冬の課題解決のため、そして対話しながら島民との関係性を築いていくために、島では独自のワーケーション事業(アイランドワーケーション)を実施し、活気あるコミュニティづくりに奔走中だ。
さらに、島内で人を迎え入れる準備が進み、島外の人には不便と思われる点を改善。観光スポットや宿でWi-Fiにストレスなく接続できたり、多くの商店や宿で電子決済が可能であったりと、都会での日常を持ち込みながら島の暮らしも楽しめる。仕事も遊びも充実させて、島民ともつながりたい人は、式根島に足を運んでみては。
『Shikinejima Coworking Space』運営|下井勝博さん「仕事がきっかけになれば!」
学生のころにダイビングにはまってアルバイトで東京の島々に通い、中でも人との距離感が近い式根島のコミュニティに引き込まれて2001年に移住しました。本当はダイビングインストラクターと漁師をするつもりでしたが、島の事業者を支援する商工会の仕事に就きました。今一番力を入れているのが、『Shikinejima Coworking Space』の運営です。夏はカフェとして営業している場所を、10月から4月までの限定でコワーキングスペースにして、 アイランドワーケーションの拠点としています。2019年からこの“二毛作スタイル”で始めました。竹芝ふ頭より大型船で約9時間かけて旅情を高めながら島に向かい、最低3泊以上、できれば1週間以上島に滞在するのがおすすめです。ストレスのない通信環境で日中は仕事に取り組み、気分転換にさっと散歩や温泉に出かけたり、島民とゆっくり話をしたり。島のことを深く知って好きになる、そんな人が増えたらと期待しています。
『ゲストハウス&ダイビングサービス ひだぶん』店主|肥田光代さん「島内外の人をつなぎたい。」
宿の仕事をするようになって36年になります。3年前の台風被害で屋根がはがれて浸水したのを機にリフォームし、宿内の2か所をドミトリー(相部屋)にしました。個室での長期滞在はもちろん、素泊まりで共用のミニキッチンを利用することもでき、さまざまな旅のスタイルに対応しています。企業からモニターで参加されたコワーキング利用の方の意見を踏まえて、宿でもさらに仕事がはかどるように改善を重ねていきたいと思っています。若い頃に本土の東京で8年間暮らした後、再び島に戻ってきました。プライベートな時間がない状況を窮屈に思ったこともありましたが、今では信頼関係があり、助け合って生きる島の暮らしを心地よく感じています。元々人の出入りの多い家で、アルバイトで来た人や宿泊者が島の人と友達になったり、ここでの出会いが縁で結婚したケースもあり、もっと気軽に島民と交流できる居酒屋経営もしてみたいと思案中です。
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photographs by Yuki Inui & Yusuke Abe text by Yuki Inui & Mari Kubota illustrations by Hitohisa Isogai
記事は雑誌ソトコト2022年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
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