『新たなビジネスが「農山漁村」を活性化する』をコンセプトに地域の魅力的な資源や、これを活用した多様なビジネスの農林水産省による起業支援プロジェクト「INACOME(イナカム)」。その一環として、地域資源を活用したビジネスを対象としたビジネスコンテストが開催され受賞者が決定しました。
【最優秀賞】櫻井 杏子さん
テーマ「各産地の師匠の栽培指導のカルテし、オンラインで若手農業者へつなぐ」
栽培指導* をカルテ化・オンライン化するIT「農の相棒Mr.カルテ」を開発しています。
近年、農機の自動運転・ドローンなどで生産性向上や品質の安定化が注目されています。しかし、最も重要な栽培技術(病害虫をださない・広げない技術。結果として最も減肥・減農薬・省力化につながります)の継承のほとんどが、対面対応で、非属人化が困難な状況です。
加えて、高温多湿で病害虫や生理障害が多発する日本やアジア地域では、畑の状況に合わせた栽培管理が求められている一方、農資材の有効成分や、土壌学・気象学・植物生理学上での効能や農薬登録情報等、多岐にわたる情報をよみとり、高度な判断が求められますが、この判断技術を効率的に次世代につなぐ基盤がありません。つまり、農業の産業化や、AIによる分析以前に、栽培現場に即した情報の収集と分類ができていない状況です。
医療分野に例えるならば、処方や診察データなど「結果、判断」を継承する電子カルテと、カルテに付随する膨大な薬剤の有効成分・使用方法・効能等の「データベース」が両輪であるように、農業の分野においても、ビックデータ収集と合わせて、栽培指導・判断を継承するシステムが重要と考え、課題解決のため、まず、栽培指導・農薬肥料の処方情報を分析する「畑のカルテ」を開発しました。
さらに、当社はIT企業ではなく、農業専門企業として、栽培指導、栽培指示のオンライン化という、一番高いハードル越えに挑戦しようとしています。だからこそ、カルテのUIUXも重要ですが、より栽培現場で求められるサービス強化に力を入れています。
その1つが、カルテ導入時、栽培指導者に寄り添って最初のオンライン教科書を作るサポート体制です。また、独自で栽培指導に不可欠な情報のデータベース構築も行っています。当初は肥料・農薬の基本情報からスタートして、現在は栽培現場で大変重要視される付随情報(原料・有効成分・病害虫名から治療・散布方法・散布部位・禁忌等)にまで及びます。
今後も、強みを生かして、各産地の“畑の先生”の栽培指導のオンライン化と、オンライン化した内容を若手農家や異業種参入者へ提供する活動を各地域に広げていきます。
*栽培指導:肥料・農薬メーカー、JAといった農資材を取り扱う企業や栽培コンサルが行う活動。「処方箋」や「栽培歴」といった形で、畑の体質に合わせ病害予防戦略・資材の組み合わせ・使い方など総合的なスケジュールの設計や病害虫発生時の対処を提案。
当社のサービスは、栽培現場に特化したSaaSで、わかりやすく“モノ”がないサービスで、皆さんに分かりやすく伝えられるかいつも考えています。今回選んでいただけたことが何よりもありがたく感じています。
Q. 今回応募したきっかけを教えてください。
創業して、各産地の農家さんの肥料相談や、慢性的な病害の相談を受けてまいりましたが、どの産地にいっても聞こえてくるのは、若手農家さんが、せっかく来てくれたのに、あの育て方でうまくいくか心配 という声です。
Uターン・IターンのPRとセットで、実際に就農して、地域に来てくれた方々のフォローの大切さが伝わればと思い応募しました。
Q. このビジネスプランをどのような方に届けたいですか。
まずは、地域で農業に携わっていて、次世代農業者さん育成にかかわりたいと思っている栽培指導者の方々に。 立場にはこだわりません。農業経営者さんでも、JAさんでも、民間の肥料商さんでも、栽培指導を行っている方に提供したいと思います。 そして、栽培指導者さんと一緒に、新規就農者さんや、異業種参入者さんへオンライン栽培指導を提供していきたいと思います。
Q. 今後の事業展開への意気込みを教えて下さい。
今までアナログだった栽培指導をオンライン化するにあたり、今後も、まずは地道な導入支援に力を入れていきたいと思います。全国各産地に伺います!
【優秀賞】中川雅也さん(株式会社中川)
テーマ「林業用資材運搬型ドローンいたきその活用」
環境の保全や災害の防止など森林の持つ役割はとても重要ですが、伐採されている森林の面積に対し、約4割の森林が植林されていない現状があります。その林業業界における課題解決に向け、植林する人手を確保していく必要がありますが、植林用の苗木は100本で15kg。それに伴い必要な資材も同程度の重さがあり、現場まで急な斜面を片道30分以上、それらを背負って登らなければなりません。
現場作業員の肉体的負担が大きく、効率も悪い。労働災害にもつながる。それら現場課題を解決するために林業用ドローンいたきそを2018年に開発しました。約25㎏まで苗木や資材を運搬することができる大型ドローンで、運搬時間は現場まで約3分に短縮されています。すでに現場でも導入しており、作業員の肉体的負担軽減、現場の効率化に繋がっています。林業初心者や女性でも山に関われる仕事にし、植林面積の増加に繋がっていくだけなく、災害時の支援物資の運搬などにも使用可能です。
林業界でのドローンの普及とともに、地域貢献を考える林業事業体が全国に増え、林業が地方創生の一翼を担うことができればうれしいなという気持ちです。
Q. 今回応募したきっかけを教えてください。
開発したドローンを自社で活用する中で、効率化や女性の林業参入等に寄与する製品だと実感しており、より多くの方が導入し、業界全体で導入していただければと思い、応募しました。
Q. このビジネスプランをどのような方に届けたいですか。
造林を行う事業者様はもちろん、架線の運搬等でも使用できますので伐採を行う林業事業者様、効率化や初心者、女性の雇用等を検討している事業者様にも届いてほしいと思います。
Q. 今後の事業展開への意気込みを教えて下さい。
ドローンの活用だけでなく、IT技術等を使用した現場の効率化や、現場にまだ慣れていない作業員でも働きやすい職場づくりなど引き続き行っていきたいと思います。そのためにもこのような活用事例を多くの方に知っていただき、業界全体として働きやすい環境を整えていければと思います。
【優秀賞】古野蒼空さん
テーマ「水中ドローン活用による磯焼け対策の改善」
私は水中ドローンを活用して、人為的には改善不可能とされている、磯焼け問題から日本の海を守る提案をいたしました。
ドローンで採取した痩せたウニに、地方の農家が出す廃棄葉菜類で養殖することにより、養殖したウニの生食や加工品の収益のみで事業全体の資金を循環できるビジネスモデルを構築したいと考えています。養殖以外でもウニは様々な用途に使えます。農業では、ミネラル豊富な肥料に代わり、服職業では、紫ウニの殻をすりつぶして紫の染料になり、養殖業では、鯛をはじめとする養殖魚の餌になります。教育方面では、海の映像や、海の生物の映像をさまざまな場所に求められるでしょう。死んでしまった廃棄ウニも、陶磁器や、肥料や、アクセサリーに再利用ができます。このように、ウニは多くの方面で利用することができ、企画を大きく広がることができます。
まずは自分が考察した社会貢献できるアイデアが正当に評価されてとても嬉しいです。そして協力していただいた起業家の方々や家族に感謝しています。
Q. 今回応募したきっかけを教えてください。
雲丹の磯焼けという問題を解決できるビジネスモデルを考えついたときに、自分のアイデア力の社会的評価と、自己分析、そして多くの第一次産業で起業している方々とお話がしたいという3つの理由、そして1番の理由は、農林水産省様にアイデアを聞いていただき、国の社会問題を解決する支援をしていただきたいと考えておりました。
Q. このビジネスプランをどのような方に届けたいですか。
まずは日本の水産業をよりよくしたいと思ってる方々、水産物が好きな方々、そして日本の海が好きな方々に届いて欲しいです。
Q. 今後の事業展開への意気込みを教えて下さい 。
まだまだ甘いビジネスプランだと思っていますので、まずは投資家の方々や、農林水産省から支援をしていただけるような実現可能性が大いにあるビジネスプランの形に落とし込むことから始めていきたいと考えております。このプランだけではなく、自分に誇りを持てる立派な起業家なっていきます。
【特別賞】渡部真之助さん(株式会社フォレストーリー)
テーマ「伐採予定地で行うサバイバルゲーム事業」
山の公益的機能が低下し、土砂崩れや河川氾濫などの自然災害の原因の一つと考えられています。植栽から伐採まで約30年から50年かかりますが、木を育てる造林には費用がかかり、山林所有者(山主)の経済的負担が大きいことや造林意欲の低下が放置林が増える原因といえます。
私たちの事業は、山主から森林をお借りして、サバイバルゲームのフィールドを構築します。そこで、サバイバルゲーマーにフィールドとして提供し、利用料をいただきます。その一部を山主に山林管理費として還元します。
さらに、子供でも楽しめる安全な光線銃サバイバルゲームのパッケージツアーを組み、マイクロツーリズムとして都会から利用者を呼び込むことで、地域資源活用(温泉・宿泊施設・食・観光地)に繋げ、町おこしの一環として新たな収益の獲得を促進していきたいと思います。
これにより、地域活性化と山林整備の進展を目指します。
数ある素晴らしいビジネスプランの中で、受賞することができて大変嬉しく思います。人と山をつなぐ架け橋のような事業にしていきたいです。
Q. 今回応募したきっかけを教えてください。
林野庁主催のアクセラレーションプログラム「Sustainable Forest Action 2020」で優勝したときにお声がけいただき、2021年2月開催に応募しました。前回はファイナリストまで進みましたが受賞を逃してしまいましたが、今回は事業スタートして10カ月が経ち、自信を持ってたくさんの人に知ってもらいたいと思ったため応募しました。
Q. このビジネスプランをどのような方に届けたいですか。
三者あります。まずは、山や林業に関心がない人です。山での遊びやアクティビティを通じて山に来てもらい山に関心を持って貰い親しんでもらいたいと思います。自然との触れ合いによりメンタルヘルスや健康に良い影響を与え、心身の健康を保ってもらいたいと思います。次に、町おこしを行う地域です。私たちの事業の舞台は山です。山の利活用を提案し地域資源活用に繋げ、町を元気にしたいと思います。最後に山林所有です。山の利活用が林業の課題解決の糸口になると考えています。
みんなが幸せになれるビジネスプランです。
Q. 今後の事業展開への意気込みを教えて下さい。
私たちの一風変わった取組みで林業界にイノベーションを起こしたいです。人を元気に、地域を元気に、山を元気にしていきます。
【特別賞】平林 馨さん(株式会社ストラウト)
テーマ「静岡の資源を活かす養殖家育成拠点の構築」
弊社は静岡発の水産養殖ベンチャーであり、静岡県の地域資源(富士山の湧水や三保の地下海水)とIoTシステム・循環養殖等の先端養殖技術の活用による県内の淡水ニジマス養殖業(養鱒業)の再成長産業化を目的として設立しました。さらに、タンパク質供給源として注目される水産養殖を全国に普及する上で、養殖人材の養成が不可欠なことから、養殖未経験の個人や法人を、静岡の養殖場で共に働きながら高度養殖人材「プロ養殖家」として育成・独立させるサービスを併せて提供することで、2030年までに弊社グループ全体で年間5,000t以上の養殖魚供給の実現し、日本の水産養殖業を静岡県からリードするというビジネスプランです。
大変光栄に思うと同時に、身の引き締まる思いです。日本の水産養殖業の明日を創るため、より一層、事業を加速させる決意を新たにしました。
Q. 今回応募したきっかけを教えてください。
応募したのは、私のプランがどこまで通用するか確認したかったからです。水産養殖は本当に理解し難いビジネスであり、容易に魚を作れると思われがちですが、実は日々の絶え間ない努力の積み重ねの上に成立しています。一方で、消費者が見えるのは、目の前の魚のみ。
同様に、私が培った経験が何であろうと、結果である課題解決策を知って、共感頂けなければ、養殖業再成長は成し得ません。だからこそ、今回チャレンジしました。
Q. このビジネスプランをどのような方に届けたいですか。
水産だけでなく他業界・他分野で働く方々に届けたいです。
理由は二つあり、一つは人材発掘です。生産現場は地域にあるので、今までの慣習や常識にとらわれやすく、他業界で培った新たな発想を強く欲しています。もう一つは、技術融合です。水産養殖は、様々な業界とのアイデアの掛け合わせ、例えば水産業×ITなど、により無限の可能性が生まれる、数少ないフロンティアだと私は日々感じています。様々な方々と良い意味で「共謀」したいです。
Q. 今後の事業展開への意気込みを教えて下さい。
辛い困難や障害があったとしても「逆境は最高のご馳走さ」と思い、情熱を持って挑み続けます。
【特別賞】村山大樹さん(合同会社ダイバーステイ)
テーマ「若者を農村に呼び込むありのまま民泊の推進」
農村で持続性のある民泊施設の運営です。
農村地域での空き家の利活用として民泊施設はあがるアイディアですが、大規模なリフォームや特別な設備のコストを考えるとビジネスとして成立しないという話をよく聞きます。
私たちは、農村の空き家は大規模なリフォームや特別な設備無しでも若者にとって魅力的な民泊施設になりえると考えています。昨年からの一年間で延べ宿泊者数は600人を超えました。
また、農村の空き家を民泊施設にする上で、難しさは民泊に使わせてもらえる空き家に出会えるかだと考えています。この点においては、空き家管理を組み合わせることで実現可能性を高めることができます。空き家管理をしていた物件から1軒民泊施設として活用する話が進んでおり、2021年12月に2号店をOPENさせる予定です。
本事業は妻と二人三脚で築きました。ご評価いただけたこと大変うれしく思います。まだスタート地点に立った段階なので、これからもがんばっていきたいと思います。
Q. 今回応募したきっかけを教えてください。
知り合いからの紹介でした。空き家の増加は社会問題となっているので、空き家の活用の一つの選択肢として伝えることができたらと考え応募しました。
Q. このビジネスプランをどのような方に届けたいですか。
空き家を活用した民泊施設を地域につくり、継続性のあるまちづくりを考える方に参考にしてもらいたいです。
Q. 今後の事業展開への意気込みを教えて下さい。
ほとんどの農村では高齢化、空き家の増加は急速に進んでいます。空き家を活用した民泊施設の運営は一つのキッカケだと考えています。社会問題に取り組むと同時にビジネスとして成立させ持続性のある農村つくりに取り組んでいきたいです。