調味料、漬物、酒、魚介珍味に謎の"ガラパゴス発酵"。47都道府県の発酵文化を訪ねているうちに、日本の発酵文化の体系がだんだん見えてきた感があります。今回は僕が足を使って考えた仮説をちょっと聞いておくれ。
海・山・街・島
バリエーション豊かな日本の発酵文化は、海・山・街・島の4つの軸に分類してみると納得感のある体系にまとまりそうです。まず海(と川)。これは主に魚介を使った発酵食品で、海系だと秋田県のしょっつるなどの魚醤、石川県の季節のごちそうかぶら寿司、そしてフナやアユなどの淡水魚でつくるなれずしなど。シーズンに大量に獲れて、生では食べきれない魚介類を保存するために発達した文化です。魚介はすぐに腐ってしまうので、めちゃいっぱい塩を使ったり実は腐っているんじゃないか? というパンチある風味になるのが特徴。繊細というよりは強烈。酒の肴に合いやすいのがこのカテゴリー。
次に山の発酵。こっちは野菜や果物を使ったものが多くなります。例えば長野県・木曽地方のすんき漬け。山間で塩が採れないので塩を使わずにカブの葉をザワークラウト状に酸っぱくする。あるいは山梨県・甲府盆地地域のワイン文化。甲州種という山葡萄的なブドウを使って醸す山国ならではの発酵食品です。物を運ぶのが難しい山間地ではその土地で採れるものをその場所で醸すというローカルスタイルが基本になります。
そして街の発酵。山の発酵とは逆で「遠くで取れたものを加工する」というスタイルが特徴的。神戸市灘区や京都市伏見区という都市に併設して水運の発達した場所では日本酒が、広島県尾道や愛知県知多で発達したお酢など、醸造することで原料に付加価値をつけ、遠くに運搬できる発酵食品が街に富をもたらしました。
最後に島の発酵。例えば東京都・伊豆諸島新島のくさや、長崎県・対馬のせん団子、鹿児島県・奄美諸島のソテツの毒を発酵により解毒して醸すなりなど、外界から隔絶しているが故にカテゴライズ不能なハードコア発酵、あるいは島に自生する野生菌のみで醸す東京都・青ヶ島のあおちゅうなど日本の発酵の原型を留めるルーツ発酵が多いのが特徴。島の発酵には「発酵遺産」と名付けたい逸品が数多くあるんですよ、奥さん。
相反する要素が共存する
ある程度体系化して眺めてみると、発酵にはいくつかの相反する要素が共存していることに気付きます。基本的にその土地から出られないローカル性(甲州ワイン)と土地をまたぐことを前提としたグローバル性(日本酒)、食材の不足を補うマイナスのデザイン(すんき)とハレの日用の豪華絢爛なプラスのデザイン(かぶら寿司)。山と海、都市と離島、富の蓄積と辺境でのサバイバル。日本では発酵をめぐってプラスとマイナスがせめぎ合っている。日本文化のマイスター・松岡正剛さんの言う「和魂・荒魂」あるいは「みやび・ひなび」のせめぎ合いがあるのではないかしら? つまり日本の発酵文化を体系化して見るということは、日本文化のダイナミズムを見るということなのかもしれない。
さてこの僕なりの発酵文化の体系化、4月から渋谷ヒカリエで始まる展覧会でお披露目予定。どうぞお楽しみに!