バスの折返場を改造し、「職住一体」のまちをつくる。
今回は、バスを活用した「まちづくり」の最前線を紹介する。場所は東京都武蔵野市のJR武蔵境駅からバスで12分ほど行ったところにある「桜堤折返場」を中心とした運営施設。バスの待機場を「職住一体の暮らしの場」として転用しようという斬新な発想だ。
バス会社からすれば、眠らせていた土地を活用できる。地域の人にとっては、バスの待機場がオシャレな店舗付き公園に早変わり。いつかお店をやってみたかった人は、都心の住居家賃と同程度で、住みながら店舗にチャレンジできる。まさに「三方良し」である。具体的な建築は、1階が店舗、2階が住居という、いわゆるショップハウスの形を連結させながら、中庭をつくる。この中庭はほどよく開いた感じなので、イベントの日はまちのお祭り広場のようだし、日常に訪れると住んでいる人の暮らしの場としての“敷居”を感じる。実によい塩梅だ。
こだわりのパイ・タルト屋、パン屋、副業的にやっているインディペンデントな本屋、植木ショップが軒を連ねて、商店街のようにお店っぽ過ぎない感じで居心地がよい。
企画・デザイン・運営は、まちづくりデザイン界をリードする『ブルースタジオ』だ。今回はデザインから運営までトータルで見ることができるという、彼らの強みが各所に生かされている。事業主は『小田急バス』。こういった開発がバス会社主体であるというのも珍しい。住民に話を聞いてみると、デザインはもちろんのこと運営に対する好感度が非常に高かった。地域の交通の要衝にていねいに空間をデザインし、事業主と運営者が連携し、ルールを変えながら柔軟な運営を行っている。バス会社がつくるまちの未来像が見事に体現されている。コロナ禍を経て、ようやくイベントが開かれているようになった。ぜひ、バスに乗って訪ねてみてほしい。*2023年8月で閉店。
藤原徹平
ふじわら・てっぺい●建築家。1975年横浜生まれ。2009年より『フジワラテッペイアーキテクツラボ一級建築士事務所』主宰。2010年より『一般社団法人ドリフターズインターナショナル』理事。建築、地域計画、まちづくり、展覧会空間デザイン、芸術祭空間デザインと領域を越境していくプロジェクトを多数手がける。2012年より横浜国立大学大学院Y-GSA准教授。受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞など。
photographs by Kohichi Ogasahara & Kenya Chiba
記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。