埼玉県所沢市の西部エリアに、2019年1月にオープンして1年が経つ『SAVE AREA』。倉庫をリノベーションした大きなシェアスペースで、「村」のような人のつながりと、小さなチャレンジが日々生まれている!
大人も子どもも関わり合う、「村」をつくりたい。
以前はある会社の倉庫だった建物が、今は刺激的でユニークな場『SAVE AREA』に生まれ変わっている。1階と2階には、個性あふれる12の個人店舗がスペースを借りて雑貨や古着、おもちゃやゲームなどさまざまなグッズを販売する『C.V.Cモール』がつくられ、スケートボードのミニ・ランプでは、常連の男性が練習に打ち込んでいる。3階には、日替わりで出店する飲食店やレンタルスペースなど多彩な楽しみ方ができる場が設けられている。「レジ回りの駄菓子を子どもたちが楽しそうに買って食べていますが、奥に進むと体に優しいマクロビオティックの食品を販売する店もあるというこのギャップが、『SAVE AREA』のカオス感を生み出しています」と笑って話すのは『RPG』代表の戸巻由高さん。角田テルノさん、岡田悠美さんと3人で『SAVE AREA』を経営している。
年末の日曜、そんな『SAVE AREA』を訪れたのは、市内でネギ農家を営む関口研一郎さんだ。長男で7歳の龍心くんと次男で5歳の穣くんと一緒だ。「龍心が正月に独楽で遊びたいというので来ました。テルくん(角田さん)に聞けば何とかなるかなと思って」と。角田さんは『SAVE AREA』を運営しつつ、ヴィンテージトーイ『ADDiCT3』も出店しているおもちゃの専門家だ。角田さんが独楽を探すあいだ、関口さんに声をかけた。聞けば、5年前、神奈川県横須賀市から就農するために所沢市に移住してきたそうだ。「引っ越してすぐの頃は知り合いもいなくて不安でしたが、『SAVE AREA』に来てユニークな人たちと仲間になれ、暮らしの質が上がりました。僕はここでネギを販売したこともありますが、子どもたちは今日が初めて」と兄弟の肩に手を置く。兄弟は独楽以外のおもちゃや駄菓子に目を奪われながら、建物の前のスペースで戸巻さんからスケートボードを教わった。戸巻さんはスケートボード&ストリートカルチャーショップ『巻ノ家』を出店し、スケートボードのミニ・ランプも設置した“スケボー大好き人間”だ。兄弟はひとしきりスケートボードで遊ぶと、「また来るね。バイバイ!」と手を振り、帰っていった。残念ながら独楽は見つからなかったが、角田さんが引き続き探してくれる。
兄弟の背中を見送りながら戸巻さんは、「僕らが子どもの頃、近所の大人が見守ってくれていました。悪さをしたらゲンコツを食らうこともありましたが、それは地域で暮らす安心でもあったのです。ここでレジを担当している店長のサカナくん(高田洋貴さん)も、『順番守れ!』と子どもたちを叱りますが、子どもたちがいいことをしたら、『すごいじゃん!』と褒めます。親でもない、先生でもない、地域の大人が子どもの成長に関わるのは大事なこと。そんな小さな『村』みたいな場をここにつくりたいのです」と、『SAVE AREA』のコンセプトを語った。
以前からコミュニティづくりに関心があった戸巻さんは、長男が小学6年生のときから4年間、PTAの会長を務めた。それだけに、地域の子どもたちの成長が人一倍気になるのかもしれない。また、『SAVE AREA』は小学校の真ん前、住宅に囲まれて立っている。地域との関係も大事にしたいところだ。「『SAVE AREA』を拠点にしながら地域とどういう関係を築くかは大きな課題です。村のような小さな集合体を築けるなら、互いの顔を知っているので、地域で何か活動や仕事をしたいとき、そのつながりを生かすこともできます。あるいは、誰かがピンチになったときやいつもと違うと感じたときも、『大丈夫?』と気づいて声をかけてあげられる。そんな、地域のセーフティネットにもなり得るような場を築いていきたいのです」と戸巻さんは話した。
相手との間に生まれる「渦」に巻き込まれ、人が集まってくる。
この倉庫を見つけたのは角田さんだ。2016年、所沢駅前のビルで『ADDiCT3』を営んでいた角田さんは、おもちゃを保管する倉庫を探していた。ある日、不動産屋さんとうどんを食べていると、隣席の男性が声をかけてきた。「倉庫、探しているのですか?」と。突然のことに「はあ」と生返事の角田さん。「近くにいい倉庫がありますよ」と誘われてついていくと、この倉庫だった。「デカすぎ!」と角田さん。「この20分の1でいいです」と男性に言った。
ただ、角田さんには夢があった。15年前に仲間と古民家を借り、おもちゃや雑貨や飲食を提供するシェア店舗を運営しようと企てたが、頓挫。「この倉庫ならできるかも」と頭をよぎったのと同時に、思い浮かんだのが「戸巻さんの顔」。戸巻さんも仲間と工房を立ち上げようとしたことがあったからだ。「PTA会長や自治会長を経験され、行政とのつながりもある戸巻さんに社長になってもらおうと思って」と笑う。当時、会社を辞めて1年が経つ戸巻さんも次の仕事を探していたタイミングだったので、意気投合。岡田さんにも声をかけ、3人で合同会社を設立。倉庫を借りて『SAVE AREA』をオープンした。
目指すのは、「買い物だけでなく、ふらっと立ち寄って話をして帰る『寄りどころ』となること。そこで、得意技を披露している人に出会って刺激を受け、『自分も何かチャレンジしたい!』と思ったら、『手伝いましょうか?』と僕らは背中を押す感じです」と戸巻さん。料理が得意なら飲食店も出せる。戸巻さんも、「家でお酒のつまみをつくって、架空の居酒屋の名前でFacebookにアップしていたら、バズって。ぜひリアルで、と勧められ、週一で『居酒屋巻巻』を開けています。こんな僕でもできますから」と出店者を募る。
角田さんの場づくりのポイントは、「『何もできません』と言うこと。すると相手は、『しょうがないな。自分でやるよ』と事を始めます。でも、カレー屋を出店したいけど寸胴鍋がない。そんなとき、『用意しましょうか?』と僕らはサポートする。『何もできない』と言っておきながら。そんなやり方。自分で事を始めた意欲から、その人は自ら発信者となり、ここに人を呼び集めてくれるはず」。 相手に巻き込まれながら、相手を巻き込む。そこに生まれる「渦」が多様であるほど、多様な人が集まる。『SAVE AREA』は、そんなスタンスで人を集めている。
『SAVE AREA』はこんなところ!
C.V.Cモール
「CRAFT-クラフト」「VINTAGE-ヴィンテージ」「CREATIVE-クリエイティブ」の頭文字を取ったショッピングスペースで、雑貨や古道具などの個人店が現在12店舗、家賃を払って区画を借り、出店している。レジは1か所で、『SAVE AREA』のスタッフが販売業務を代行するので、店主不在でも開店することができる。普段は本業や家事のある人も気軽に店を持てる。例えば、出店者には、趣味で集めた大量のフィギュアをたくさんの人に見てもらいたいと、ここを借りて非売品として展示しながら保管している『Toy’s Sunperche』というショップは、アレルギー対応の樹脂製のピアスなどをつくり販売している。イギリス発祥のミニチュアゲーム「ウォーハンマー」を取り扱う『Craft labo』も2階に。岡田さんがプロデュースする、体と心に優しい食品とレンタルボックスの『PEP』は女性に人気だ。
SPACE FORREST
3階のカフェスペース。一日の昼・夜の単位で借りられるシェアキッチン。岡田さんが店主の『ちりん亭』をはじめ、スリランカ家庭料理や発芽熟成玄米を使ったランチ、自家焙煎コーヒーなど個性豊かな10店舗ほどの飲食店が、ほぼ曜日ごとに日替わりで出店中。DJブースや座敷スペースがあり、貸し切りパーティも楽しめる。ヨガやダンス、レッスンやセミナーの利用も可能だ。
Relax&Workshop ROOM
3階にある和個室ルーム。広さは12畳で、3時間1単位で気軽に借りられる。ヨガ、マッサージ、鍼灸、将棋教室、学習塾、同好会など、使い方は自由。エアコンや電気、水道(別室)の利用ももちろんOK。畳敷きの空間であることをうまく、心地よく活用してほしい。駅前やまちの通りに店を出す前に、「ここから始めてみようかな」という方のチャレンジも応援!
巻ノ家修練場
スケートボード大好きな戸巻さんが友達につくってもらった、大人も子どもも楽しめるスケートボードのミニ・ランプ。登録料500円を払えば、一日500円で利用可能(小学生250円・未就学児無料)。戸巻さんが教える体験会も開催。
屋外スペース
第2・3金曜には建物の前で、体にいいコトをコンセプトにした「FRESHマルシェ」、ジャンクな掘り出し市「JUNK LUCKYマーケット」などのコンセプトマーケットを開催。マーケットがない日も出入りは自由! キッチンカーが営業する日もある。
『RPG』代表・戸巻由高さんの人が集まる場づくり3つのポイント
コミュニティを行き交う。
『SAVE AREA』を運営する3人が、領域が異なる互いのコミュニティを行き交うことで、活動の幅が広がり、厚みも増す。
運営者が場を楽しむ!
ワクワク感が伝わると注目され、みんなから行ってみようと思われる。そのためには、運営者自身がその場を楽しむこと!
場を和ませる笑顔。
大切なのは、やっぱり笑顔。笑顔があふれるオープンな雰囲気のなかで、人は「この場と関わってみたい」と思うだろうから。
人が集まって生まれたこと、変わったこと。
村のようなコミュニティを。
生まれたのは、「村をつくりたい」という気持ち。安心感のある地域に。