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道東で愛されるソウルスイーツ。砂糖をまぶしたアメリカンドッグとフレンチドッグ

山﨑 陽弘(やまざき あきひろ)

山﨑 陽弘(やまざき あきひろ)

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グルメの宝庫で食料自給率が国内ナンバーワンの北海道には、まだ広く知られていない食べものがたくさんあります。さまざまな地域があって、それぞれに独特の食文化があるのも当然ですが、筆者が大阪から北海道(道東・別海町)に移り住んだ当時(約15年前)、特に驚いたのがみなさんもよくご存じの「アメリカンドッグ」でした。何の変哲もないホットスナックですが、北海道の道東地方には少し変わったアレンジが存在します。その独特なスタイルが道東地方で広がった背景には、地場産業発展の歴史が大いに関係しているようです。

目次

根室のお祭りで出合った、うっすら白いアメリカンドッグ

筆者が北海道・道東に移住して間もないころの話。根室のお祭りに足を運んだとき、私は小腹が空いてアメリカンドッグをひとつ購入しました。すると、店の主人は出来立てのアメリカンドッグを何やら白い粉の入ったトレイに入れ、何度も何度もぐるぐるさせ、満面の笑みで手渡してきたのです。アメリカンドッグの味付けといえばケチャップ&マスタードしか知らなかったので、とても驚いたのを覚えています。

構造的には普通のアメリカンドッグと変わらないが、その表面には白い粉が。中のお肉も少し違う気が…。

当たり前のようにかけられた白い粉はいったい何なのか? 恐る恐る頬ばると、すぐにそれが砂糖だと分かりました。味はというと、誰もが想像するだろうアメリカンドッグに砂糖の味。でもそれが意外や意外、なまら(とても)うまいのです。

北海道内では、アメリカンドッグに砂糖をかけるのは道東ならではの食べ方

釧路市内にある全国展開のスーパーマーケットにて。お昼になると「アメリカンドッグ(砂糖)」が弁当・総菜コーナーに並ぶ。

北海道には、内地の人がびっくりする砂糖の使い方があります。たとえば、書籍『日本全国 変わり種食紀行』(桜井友里著、彩図社刊)でも紹介されている「納豆に砂糖」。パックひとつに対して小さじ一杯ほどの砂糖を入れると、驚くくらい粘りが出ます。好き嫌いには個人差もあるかと思いますが、「アメリカンドッグに砂糖」と同じく、意外といける味です。

似た話として、北海道の赤飯には小豆ではなく甘納豆が使われるのは有名で、砂糖をはじめとした甘いものが好まれる食文化が北海道にはあります。

アメリカンドッグに話を戻すと、道東にある全国展開のコンビニでは購入の際、ごく普通に砂糖が別添えされるのです。

釧路市内のセブン-イレブンで「アメリカンドッグ」を購入すると、砂糖が別添えされる。

道東地方のお祭りでよく見かけるのは「アメリカンドッグ」ではなく「フレンチドッグ」

そして、道東の釧路を中心に根室、十勝、オホーツク地方の一部では、「アメリカンドッグ」ならぬ、「フレンチドッグ」が定番のおやつとして老若男女に支持されています。

根室市のお祭りで露店に並ぶ、フレンチドッグ。ケチャップやからしも用意されていたが、ほとんどの客が「さとう」を選ぶそう。

「アメリカンドッグ」と「フレンチドッグ」の違いは、

・アメリカンドッグは、中身が豚肉由来のソーセージ
・フレンチドッグは、中身が魚肉由来のソーセージ

と分けられます。道東地方では「砂糖をかけるか、かけないか」のほかにも、「豚肉ベースのソーセージか、魚肉ソーセージか」の違いがあるのです。「砂糖をかける」「中身が魚肉ソーセージ」という2つのスタイルは、道央や道北、道南地方ではあまり見られない食文化。道東地方でこうした食べ方が誕生した背景には、地場産業の発展が関係しているという説があります。

釧路を中心に「砂糖をかけたフレンチドッグ」が広まったのは、石炭鉱業と水産業が盛んだったから(という説)

1970年台後半、釧路市は北海道で第4位、約20万の人口を誇る大都市として栄えました。当時の釧路を支えた産業は、1977年に最盛期を迎えた石炭鉱業と、漁業を中心にした水産業です。現在でも規模は縮小されているものの石炭採掘は続いていますし、魚の水揚げ量は2021年、千葉県の銚子港に次ぐ全国2位(※1)を誇っています。

※1 数値は「北海道・釧路総合振興局」「みなと新聞」のデータより

炭鉱業隆盛の名残、釧路市春採地区にある『釧路コールマイン株式会社』の施設を望む。周辺には住宅地が広がり、生活環境に深く密接している。

1969年から1977年までの9年間、釧路港は北洋漁業の基地として、日本一の水揚げを誇っていました。釧路漁業の主翼を支えたのはスケトウダラ漁です。1960年に道立水産試験場が「冷凍すり身製法」の技術を開発したことで、それまで卵巣がタラコの原料、精巣は白子として食される以外、身の部分は肥料にするしかありませんでしたが、すり身が使えるようになり、釧路を支える主要魚になったのです。

釧路港の漁獲量で今も主力の「スケトウダラ」。

この技術は、当時開発されたものが現代でも受け継がれていて、食品業界では「ノーベル賞に匹敵するほどの業績」(※2)といわれているそうです。

※2 北海道機船漁業協同組合連合会ホームページより

スケトウダラのすり身を原料にした「魚肉ソーセージ」は、1965年に生産量が倍増。現在は年間5万トンほどの生産量ですが、1972年のピーク時は約18万トン(※3)を越えていました。

※3 数値は「日本缶詰びん詰レトルト食品協会」資料より

漁船から水揚げされる、スケトウダラ。2023.12 釧路港にて。

そうした背景もあり、1960~1970年代、高度経済成長期の釧路を支えた食品が「魚肉ソーセージ」でした。書籍『どさんこソウルフード 君は甘納豆赤飯を愛せるか!』(宇佐美伸著、亜璃西社刊)でも、釧路出身の著者がそう回顧しています。

港や炭鉱で働く肉体系労働者にうってつけの「空腹を満たす甘いおやつ」として、豚肉由来のソーセージを地場産の魚肉ソーセージに変えたフレンチドッグに砂糖をまぶす食べ方が、釧路を中心に広まった可能性はあるでしょう。

そして、十勝を中心に製糖業が発展したから(という説)

北海道が国内生産シェア1位を誇る砂糖ですが(※4)、生産の歴史は古く、大正時代に砂糖の原料となる甜菜製糖工場が十勝につくられた時代までさかのぼります。十勝・オホーツク地方が一大生産地となり、現在では原料となる甜菜の生産シェアは北海道が100パーセントです(※5)。

※4 数値は「地域の入れ物」サイトより
※5 北海道ホームページ『てん菜栽培の歴史』参照

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