江戸時代から続く「三河屋」は、現在においてどのような役割を担っているのだろう。江戸の伝統食を再現して販売する『銀座三河屋』代表取締役社長・神谷修さんに聞きました。
※一部お取り扱いのない商品もございます。
「三河屋」で酒や味噌、醤油を扱う理由とは。
「ちわーす、『三河屋』です」。アニメ『サザエさん』で登場するサブちゃんが働く店として認識する人も多い「三河屋」。三河屋は、酒を中心に味噌や醤油など醸造品を扱う店の屋号に多い。なぜこの名前になったかというと、江戸時代、「十組問屋」という味噌や醤油を扱う組合に、現在の愛知県東部に当たる三河の国の出身者が多かったから。さらには、三河が味噌や醤油など醸造業が盛んだったからと言われている。
「実は、現在の兵庫県の灘の酒を運ぶ中継地点が三河の国の港だったため、酒を扱う三河屋が増えたらしいです」と言うのは、『銀座三河屋』代表取締役社長・神谷修さん。江戸時代中期、三河の国から江戸へやってきた初代も酒を販売していたが、明治に入ると商売替えして絹糸を扱うように。その後、和装小物専門店として銀座の地で営業を続け、2003年、江戸の伝統食をテーマとした食料品のセレクトショップへとリニューアル。
「江戸のいろいろな食を扱い、文化背景とともに伝えていけば、銀座を訪れる人たちに楽しんでもらえるのではないか」と考えてさまざまな商品を開発。最初に手掛けたのは、「煎酒」と呼ばれる江戸の伝統調味料だった。
江戸の食を知ることで感じる、足元に広がる文化の豊かさ。
「煎酒は室町時代末期からおよそ250年間、日本料理の重要な調味料だったようですが、高級だった醤油を庶民が手に入れられるようになっていつの間にか消えてしまった。江戸の町は肉体労働をしている職人が多かったから、塩分が効いた醤油が好まれたのでしょうね」と神谷さんは推測する。
日本酒に梅干しとかつお節を入れて煮詰めてつくる煎酒は塩分が少なめだからこそ、素材を活かすことができる調味料なのだそう。「私のお気に入りは卵かけご飯。温かいご飯に卵と煎酒をかけ、わさびを添えると、梅の爽やかさが引き立ちおいしいんです」。
江戸の文化は、知れば知るほどおもしろい。上下水道が整い、寺子屋のおかげで庶民の識字率が高く、世界に誇れる100万人都市だった。さらには歌舞伎や落語といった町人から生まれた文化が活発だったことも特徴的。食も同様で、素材は旬の魚と野菜で簡素で素朴な料理が中心。寿司、そば、天ぷらなどといったファストフードも登場した。
「江戸の文化から学ぶことは多い」と神谷さん。だからこそおいしい商品を扱うのは当然としたうえで、背景にある文化や物語を感じてもらうことを大切にしている。
江戸の食を知ることは、私たちの足元に広がる文化の豊かさに出合い直すこと。「ロフコト流の三河屋」を入口に、日本の食文化の豊かさに触れてみてほしい。
『銀座三河屋』が再現した「江戸の味」を現代の食卓へ
煎酒(小) 300ml 962円
梅の酸味とかつお節の旨味が
上品な江戸時代の万能調味料。
日本酒に梅干し、かつお節を入れて煮詰めた「煎酒」は、江戸時代の日本料理を支えた万能調味料。『銀座三河屋』は、1643年に刊行された日本最古といわれる料理書『料理物語』の記述をもとに煎酒を再現。紀州南高梅の梅酢の酸味が、日本酒とかつお節の旨味とまろやかにマッチして、素材の味をやさしく引き立ててくれる。
料理のアイデア
白身魚の刺身のつけ汁、納豆や卵かけご飯、湯豆腐や冷ややっこのかけ汁、ローストビーフのつけだれ、煮付けの下味・隠し味に。
煮ぬき汁 300ml 756円
江戸っ子に愛された
味噌仕立ての麺つゆ。
「煮ぬき汁」は、醤油が普及する以前、江戸の町で一般的に食されていた味噌仕立ての麺つゆ。江戸時代の味を再現したこちらは、ベースとなる八丁味噌にかつお風味を合わせたもの。味噌のコクとかつおの旨味が合わさり、新鮮だが懐かしい味わい。大葉やみょうがなどの薬味との相性がよく、麺としっかりからまる。
料理のアイデア
麺のつけ汁・和え麺に、大根や里芋の煮付け、鍋物、サバの味噌煮、回鍋肉、味噌カルボナーラなど。
即席貝汁(しじみ・合味噌)
木桶で長期熟成した深いコクの豆味噌とやさしい風味の米味噌を合わせ、宍道湖産のしじみとセットに。お椀に入れてお湯を注ぐだけで、ぜいたくなもう一品に。疲労を回復したいとき、飲み過ぎた翌朝にもうってつけ。
とろろ昆布
江戸時代、北前船で将軍へ献上していた北海道産の天然真昆布と天然がごめ昆布をブレンド。醸造酢と合わせて薄く削り出した昆布はとろけるような食感。旨味と甘味が感じられる。お吸い物やうどん、おにぎりに。
甘味噌たれ
愛知県豊田市の桝塚味噌で18か月天然醸造された風味豊かな豆味噌がベース。しっかりと練り上げた甘味噌は、ごまの食感と生姜の後口が爽やかなやさしい風味。おでんや田楽のほか、とんかつや焼きおにぎりにも合う。
若採り里ごぼう
旨味が凝縮している皮の部分を薄く残した若採りの国産里ごぼうを、2種類の醸造醤油に漬けること約1か月。乳酸発酵して爽やかなのに旨味たっぷりで、歯ごたえもいい。細かく刻めば冷ややっこの薬味にも。