大正ロマン薫る「岡山禁酒会館」で食すライスカレー

大正ロマン薫る「岡山禁酒会館」で食すライスカレー

岡山城からほど近い、丸の内の道路沿いに佇む「岡山禁酒会館」。大正時代に建てられた情緒あふれる建物の1Fに静かな喫茶店がある。店主が丁寧に煎れる珈琲もさることながら、週末に数量限定で出されるカレーが地元の人や観光客に人気だという。実は禁酒会館の歴史とも深い関係があるというこのカレー。その味わいと背景を取材した。

登録有形文化財指定の岡山禁酒会館


路面電車の「城下(しろした)」駅からすぐ、2本の大きな木に挟まれるように建つ洋館が「岡山禁酒会館」だ。ここだけ時代が違うような独特のたたずまいに、通りかかれば誰しも足を止めずにはいられないだろう。
大正12年に竣工した建物は第二次世界大戦での岡山空襲による消失も免れ、必要な改修は行われているもののほぼ当時のままの姿を残し、文化庁の登録有形文化財にも指定されている。


岡山禁酒会館
大正12年に建てられた木造3階建ての岡山禁酒会館

電車の音と鳥の声、穏やかな時間が流れる喫茶店


禁酒会館の1Fにあるのが「珈琲屋ラヴィアンカフヱ」で、店頭に出された黒板には「ライスカレー」とある。そうそう、これが食べたくて訪れたのだ。


ラヴィアンカフェ看板
「ラヴィアンカフヱ」の店頭に出された黒板。

店内は落ち着いた雰囲気で、BGMはかかっていない。外の路面電車の音と奥にある中庭から鳥のさえずりが聞こえるが、それがかえって店内の静けさを際立たせ、穏やかな空間を演出している。ここが岡山市街地であることを忘れそうなほどだ。


ラヴィアンカフェ店内
「ラヴィアンカフヱ」の店内

店主・阪本雅人さんに案内されて奥のテーブルにつき、早速ライスカレーと珈琲のセットを注文。待っている間に店内を見渡すと、カウンターの向かいに小さなギャラリースペースが。阪本さんの母・サミ子さんによる、色とりどりの毛糸で編まれたバッグや帽子が並んでいた。


ラヴィアンカフェ店内ギャラリー
貸しギャラリーとしても利用できるスペース。

どこか懐かしい"喫茶店のカレー"


昔懐かしいソースポットに入ったカレーが、いい匂いとともに運ばれてきた。銀のプレートにライスが盛られ、もちろん福神漬けもある。ソースポットから移して一口いただくと、「これこれ」と頷きたくなる親しみ感のある味わいだ。タマネギの甘みとチキンのうまみ、ほどよい辛さとまろやかさ。かすかに感じる酸味はトマトだそう。今やカレー専門店は多種多様にあるが、日常的に食べたくなるのは、やはりこういうカレーなのだ。


禁酒会館カレー
この上なく「ごちそう感」があるソースポットに入ったカレー。
禁酒会館カレー
ごろっと大きめのチキンが入っている。

カレーのあとの珈琲ほど贅沢なものはない


喫茶店でカレーがあるとつい食べたくなるが、食後に飲む珈琲と相性がいいからかもしれない。「ラヴィアンカフヱ」には店内に焙煎室があり、自家焙煎した豆を丁寧にドリップして煎れてくれる。深い香りとほどよい酸味をゆっくりと味わいながら、先ほど食べたカレーのおいしさを思い出し満足感に浸る。最近忘れていたけど、こうした贅沢な時間の使い方もまた外食の醍醐味だ。


ラヴィアンカフェコーヒー
自家焙煎による珈琲。
ラヴィアンカフェ焙煎室
店内に焙煎室があり、その奥は中庭になっている。
 


「禁酒会館のカレー」復活の理由とは

岡山禁酒会館の歴史


大正12年に建てられた岡山禁酒会館。目的はその名の通りで、禁酒運動のシンボルとして建設されたものだ。景気が悪くなり社会不安が募ると飲酒に逃れ、さまざまな健康被害で悩む人が増える。大正10年頃、このような社会情勢を愁い、禁酒運動家たちによって建設が進められた。
戦時下の空襲でも消失を免れ、一部は改修されているが、ドイツ壁風と白のタイル張りを組み合わせた正面のデザインや小さな部屋がいくつも入り組んだ構造は今でも残されている。
当時は、岡山禁酒会の定例会や講演会、展覧会などが行われていたそうだが、現在でも作家の展示会やセミナーなど文化活動の場として利用されている。


禁酒会館廊下
2Fの廊下。左側に部屋がいくつかあり、右側の窓からは中庭が見える。
禁酒会館待合
2Fのベンチ横には懐かしい黒電話が。
禁酒会館資料室
2Fの資料室では、禁酒会館の歴史が学べる。
禁酒会館中庭
1Fの中庭。奥に見える石垣は隣にある重要文化財「岡山城西手櫓」の一部。

想いをつなぐカレーで町のよりどころに


禁酒会館の食堂で初めてカレーが提供されたのは昭和6年。戦後も形をかえつつ提供され庶民に親しまれていたが、昭和40年代半ばに食堂が閉鎖し、ここのカレーも味わうことができなくなった。食堂のあとは長年レコード店が入っていたが、平成14年に「珈琲屋ラヴィアンカフヱ」がオープン。


「禁酒会館といえばカレーという人も多く、特に高齢の方にはおなじみだったそうなんです。店のオープン当初、町おこしのNPOのみなさんがかつての食堂のシェフを探し出して、当時のレシピで復活させたカレーを提供していたこともありました。ただその方も亡くなってしまい…。でも町の人々にとって、"禁酒会館で食べるカレー"は大切なもの。その想いだけでもつなぎたいと、いまは当店オリジナルのカレーを出させてもらっています」と話す、店主の阪本さん。


ラヴィアンカフェ店内看板
カレーは金・土・日のみ。数量限定なので電話した方がベター。

町に元気があり、人々が集まる場所だった禁酒会館。カレーはその時代の活気の象徴であり、ここで歴史に思いをはせながら食べることに意味があると、阪本さんは言う。


ラヴィアンカフェ店主とお母さん
店主の阪本雅人さんと母のサミ子さん。

「私が提供できるのは"喫茶店のカレー"です。特別感はないけれど、『また食べたい』と記憶に残るような"いつもそこにある味"を心がけて作っています」


どこか懐かしく親しみ感のある味わい。一番のスパイスは、長い歴史に刻まれた人々の"禁酒会館のカレー"という記憶と、それをつなぐ阪本さんの想いなのかもしれない。


 


岡山禁酒会館
住所:岡山県岡山市北区丸の内1-1-15


珈琲屋ラヴィアンカフェ
岡山禁酒会館1F
電話:086-227-2237


※ご紹介したメニューは記載当時の情報のため、提供の有無・価格などが異なる場合があります。


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