“粉もん”といえば、やっぱり大阪!しかし名古屋にも、独自の粉物文化が存在するのを知っていますか?ワンハンドで食べる“名古屋流”お好み焼きに、ソースではなくしょうゆ味の“名古屋流”たこ焼き。なぜこのような食文化が根付いたのか、その発祥の謎に迫ります。
名古屋のお好み焼きはてのひらサイズの“ホットスナック”
まずはお好み焼き。大阪vs広島でのお好み焼き論争はたびたび巻き起こっていますが、名古屋はその外野で全く異なるスタイルを確立しています。
商店街やスーパーの売店、お祭りの屋台で見かけるのが、小ぶりな食べ歩き用のお好み焼きです。二つ折りにして銀紙に包まれており、片手で食べられるのが特徴。手軽に小腹を満たすにはぴったりです。
…そう、名古屋周辺の人々はファストフード感覚でお好み焼きを食べるのです!
(もちろん、自宅や飲食店で“主食”としてお好み焼きを食べることもあります)
他地域ではあまり見かけないスタイルですが、この文化はどこから生まれたのでしょうか?
“名古屋流お好み焼きの発祥店”だという噂を聞いてやってきたのは、名古屋市西区の円頓寺本町商店街にある「名古屋甘太郎本舗」。
店に入ると、注文カウンターの上にずらりと貼り付けられたメニュー札が目に入ります。「お好み焼 肉だけ玉子なし 1枚130円」「お好み焼 イカ・玉子入 1枚150円」「お好み焼 肉・玉子入 1枚150円」…少し心配になってしまうほどの安さです。
「昔に比べれば少し値上げしましたが、それでも100円台で買えることにはこだわり続けています」と説明する店主。
名古屋甘太郎本舗は、創業60余年の老舗店です。当初は鉄板で焼いたお好み焼きを店内で食べる、一般的なイートインスタイルで営業していたといいます。
「今のようなテイクアウトのお好み焼きを始めたのは、40年ほど前のことです。商店街で毎年七夕まつりがあるのですが、お祭りで食べ歩きしやすいようにと、ハンバーガーのように紙で包んだお好み焼きを販売し始めました」
これが、名古屋流お好み焼き誕生の瞬間。後に定番メニュー化され、気づけば名古屋中に同様のスタイルでお好み焼きを販売する店舗が増えていったのだとか。
「最初のうちは200〜300円で販売していたのですが、売れ行きが伸びず…。いっそのこと100円にしてしまおうと。1枚ずつ焼くのではなく、一度にたくさん焼いて切り分ける方法で、手間をかけずに低価格で提供できるようになりました」
そう店主が話す通り、厨房を覗くと、手際良くお好み焼きを切り分けてソースを塗る様子が見られました。
包みを開くと顔を出す、ほかほかのお好み焼き。食欲をそそる香りの濃口ソースは、特注で仕入れているという長年変わらぬ味です。キャベツがたっぷり入り、小さくても食べ応え充分。銀紙で保温されているため、多少時間が経っても温かいまま食べられます。
店先には、次々と商品を買い求めにくるお客さんの姿が。今も昔も、地元で親しまれている店なのでしょう。
名古屋のたこ焼きは何もかけずに食べる“しょうゆ味”
…さて、たこ焼きにかけるのはソースにマヨネーズ?
いえいえ、“名古屋流”のたこ焼きには、何もかかっていません。生地自体にしょうゆで味付けされているため、そのままおいしく食べられるのです。名古屋市内には“大阪流”のたこ焼き店も増えていますが、ローカルな老舗店にはまだまだ“名古屋流”も多い印象。
取材に訪れたのは、名古屋市熱田区にある「吉川屋」です。住宅街にありながら、土日には行列のできる人気店。創業50年弱とのことで、現在は3代目が切り盛りされています。
「吉川屋」は“名古屋流”たこ焼き発祥の店だと言われることもありますが、真相はいかに?
店主に尋ねると、「テレビ番組でリサーチされたことがあるのですが、その結果によると、しょうゆ味のたこ焼きは大阪発祥のようです。ただ、キャベツが入っているのは名古屋独特かもしれませんね」との回答が。
大阪のたこ焼き店でキャベツを使うことはほとんどありませんが、東海地方のたこ焼き店ではキャベツ入りのほうがスタンダード。つまり、「しょうゆたこ焼きの発祥は大阪だが、キャベツ入りしょうゆたこ焼きの発祥は吉川屋かも…しれない」ということのようです。
キャベツを入れる理由は「具材がしっかり入っていたほうが長時間形が崩れず、おいしく食べられるから」。
タコとキャベツの他、ネギ、紅ショウガ、天かすが入ったたこ焼きは、やや小ぶりでシンプルな見た目。熱々を頬張れば、外はカリッと中はふんわり柔らかな食感です。ほのかなしょうゆ味で、飽きずに何個でも食べられそう。
5個200円、10個400円、15個600円…とお値段はかなり良心的。店頭でたこ焼きを買っていくお客さんを見ていると、「40個ちょうだい」「50個ね!」と大量買いしていく人が多いようです。
「おやつとして買っていく人もいれば、家族全員分の夕食として買っていく人も。冷めてもおいしいですし、何もかけていないので手でパクパク食べられます。昼休みを車で過ごすビジネスマンが、片手でつまみ食い…という場合もありますね」
味付けや調理方法は昔から変わらず、3代にわたって口伝で引き継がれているそう。創業時から通う常連客もいれば、「SNS投稿で知った」という若者も増えているといいます。昭和の名古屋の味は、令和まで愛され続けているようです。
“なごやめし”として大々的に持ち上げられることは少ないお好み焼きやたこ焼き。ひつまぶしのように豪華でもなければ、台湾ラーメンのように派手な味でもない。ただ、素朴で旨い。「名古屋ならではの食文化」と言われて初めて気づく地元民も多いほど、当たり前に日常にあるローカルフードなのです。