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廃校の屋上でのアーバンファーミング(東京都世田谷区池尻)と農村部でのマイクロファーマー連携モデル(兵庫県神戸市北区)が始動

ソトコトオンライン編集部

ソトコトオンライン編集部

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東京・池尻の廃校屋上と神戸の山間部で、都市住民を巻き込んだ新しい農業スタイルを提案するプロジェクトが始まっている。2050年には世界人口の7割が都市住民になる時代に、「人と自然の共創」が生み出す未来とは?

目次

廃校が生まれ変わる「都市の農園」

2025年4月、世田谷区池尻にある旧池尻中学校が「HOME/WORK VILLAGE」として生まれ変わった。働く、遊ぶ、学ぶが緩やかにつながる小さな村のような複合施設だ。

その屋上で今、注目のプロジェクトが始動している。都市住民のための農園「ART FARM IKEJIRI」だ。7月のグランドオープンに向け、現在クラウドファンディングで仲間を募集中(目標350万円、6月23日まで)。

発案者が都内12カ所のアーバンファームを取材してまとめた書籍「Urban Farming Life」がきっかけだった。都市生活者が農的なライフスタイルを取り入れることで、心と身体に良い影響を与えることを実感。「人と自然の共創から都市に循環と粋な文化を育てる」場所として、この屋上に可能性を見出した。

なぜ今「農」なのか?データが示すウェルビーイング効果

世界的に注目されるアーバンファーミング(農地ではなく、都市の空きスペースを利用して行う都市型農業)。その背景には、現代都市が抱える深刻な課題がある。

猛暑や水害といった気候変動、生物多様性の枯渇、食料自給率の低下、地域コミュニティの衰退、孤独感──。2050年には世界人口の7割が都市住民になると予測される中、解決の鍵は「都市の変革」にあると指摘されている。

調査によると、アーバンファーミング参加者からは「今まで関わっていなかった人とも話すようになった」「菜園で土を触ることで無心になって自分らしくいることができる」といった声が聞かれた。定量調査でも、肉体的・精神的・社会的なウェルビーイングに良い影響を与えることが確認されている。

「ART FARM IKEJIRI」プロジェクトが目指す6つの取り組み

ART FARM IKEJIRIでは、以下の6つの領域で展開を予定している:

【SHARE FARM】 家族や仲間と野菜や果物、ハーブを育て、隣のロングテーブルでFarm to Tableを体験

【VINEYARD】 ワイン品種のぶどう栽培から郊外ワイナリーと連携した醸造まで

【WORKSHOP】 アーバンパーマカルチャーや季節の暮らしに関わる講座

【MARCHE, EVENT】 週末の農家マルシェやトークイベント、茶会、アートイベント

【COMPOST】 微生物発電や堆肥回収など、様々なコンポスト愛用者の交流拠点

【KITCHEN】 畑の野菜を調理できるキッチン(バイオジオフィルターで排水をろ過)

神戸で実践する「米と味噌」の価値転換

一方、神戸市北区では「米と味噌」プロジェクトが展開中(目標200万円、7月31日まで)。有機米事業者とマイクロファーマー(小規模農業従事者)が協力し合う拠点づくりを目指している。

このプロジェクトが着目するのは、日本の山間部に残る「使いにくい農地」の活用だ。機械化農業には不向きな不整形で小さな農地を、都市からやってくるマイクロファーマーが手植え・手刈りの稲作や野菜栽培に活用する構想だ。

「AIが事務仕事をしてくれる時代だからこそ、農業は若い世代が活躍できる良い仕事」──発案者はそう語る。

国の政策とも合致する「みどりの食料システム」

このタイミングでの取り組みは偶然ではない。国は「みどりの食料システム戦略」で2050年までに有機栽培面積を25%にする目標を掲げている。この実現には、国土の大部分を占める水田の有機化が不可欠だ。

また、カーボンニュートラル社会実現のため、植物による炭素吸収が重要視される中、有機稲作面積の拡大は環境政策の観点からも注目されている。

新しい農村モデル「棲み分けと協力」

神戸プロジェクトが提唱するのは、現代農業との「棲み分けと協力」だ。区画整理された広大な土地では機械的手法で稲作を行い、整理されていない小さな土地ではマイクロファーマーが活動する。

鍵となるのは、手間のかかる苗づくりや脱穀、乾燥などの機械作業をハブ施設が請け負うインフラ整備。これにより、マイクロファーマーが大きな経済負担なく稲作に挑戦できる仕組みを構築する。

価値観転換の時代に「温故知新」な未来

両プロジェクトに共通するのは、従来の経済成長モデルへの疑問だ。「このまま右肩上がりの成長を是とする経済・社会・暮らしで良いのか?」という問いかけから、新しい未来のヒントを日本古来の米や農的生活に求めている。

「米を買い、味噌を買うという経済活動が、自分たちの理想の未来へのアクションになる」──そんな価値転換を目指している。

全国に広がる可能性

これらの取り組みは、単なる地域プロジェクトにとどまらない。都市部での屋上農園モデル、農村部でのマイクロファーマー連携モデルとして、全国展開の可能性を秘めている。

2050年に向けた都市の変革、食料自給率向上、環境問題解決、コミュニティ再生──。複雑に絡み合う現代の課題に対し、「農」を通じた新しいアプローチが示すのは、技術革新だけでない「人間らしい未来」の姿かもしれない。

都市住民が土に触れ、自然の循環を体感し、人とのつながりを再生する。AIが事務をする時代だからこそ、改めて注目される「農」の可能性に、多くの人が共感を寄せている。


プロジェクト詳細

ART FARM IKEJIRI

米と味噌プロジェクト

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