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漁村集落・赤崎でのぞいた能登の暮らし。

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石川県羽咋郡(はくいぐん)志賀町(しかまち)という地域を知っていますか? 能登半島のほぼ中央に位置し、西には日本海を望み、農林漁業を主産業とするのどかなまちです。今回ソトコトオンラインでは、この志賀町の西岸にある漁村集落・赤崎地区の古民家宿「TOGISO」を訪ね、「能登の冬の暮らし」を少しだけのぞかせていただきました。

目次

石川県羽咋郡志賀町、そして赤崎ってどんなまち?

石川県羽咋郡志賀町の赤崎地区は、能登半島西岸にある漁村集落です。かつては漁師町として栄え、当時を偲ばせる美しい家並みを今に残しながら、約90世帯が暮らしています。
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赤崎地区の目抜き通りと街並み。
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海側から見るとトーンがそろった家並みだと分かる。
アクセスは、金沢市街からは車で約1.5時間。東京からだと、羽田空港から能登空港へ飛び(所要フライト時間は約1時間)、そこからふるさとタクシーを利用して40~50分ほどです。

遠洋漁業で財を成し、贅沢に造られた民家を宿に。「TOGISO」。

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「TOGISO」の外観。
赤崎で「TOGISO」という名の宿を営むのが、東京との2拠点生活をしながらオーナーを務める佐藤正樹さん(42)と、管理人として埼玉県から家族で移住してきた中島誠康(よしやす)さん(28)です。「TOGISO」という屋号の由来は、この地域の旧町名「富来町(とぎまち)」に由来します。
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オーナーの佐藤さん(右)と、管理人の中島さん(左)。
佐藤さんが海の近くで古民家を探していたところ、偶然インターネットでTOGISOになる物件を見つけました。内覧に来たときに赤崎の街並みにほれ込み、『赤崎の景観を次世代に引き継ぐプロジェクト』の拠点として「TOGISO」をつくりました。とはいえ東京で仕事を持つ身の佐藤さんは、赤崎に常駐することができません。そこで管理人を募集し、エントリーして埼玉県から家族で移住してきてくれたのが中島さんです。
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「TOGISO」の玄関前から……
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玄関に入ったところ。向こうが囲炉裏のある部屋で、左側に共有スペースの居間がある。
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続いて共有スペースの居間、囲炉裏、廊下。
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そして、居間の奥に和洋折衷のダイニングと陽が当たるウッドデッキ。豪勢な古民家の雰囲気を残しつつ、こだわりの調度品と工夫で過ごしやすい空間になっている。
夏の赤崎のようすはこちら

「TOGISO」滞在で体感する冬の能登。

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取材当日、おぼろ太陽の光が薄曇を抜けて赤崎の海を照らす。

2月下旬、風は強く移ろいやすい天候。真冬の天候はやはり厳しい?

筆者が赤崎を訪れたのは2023年2月24日。冬に北陸を訪れるのは初めて。能登半島ということもあり「さぞかし寒いのだろう……」としっかり防寒の準備をして訪れましたが、思いのほか天候に恵まれました。東京とさほど変わらない暖かな時間帯もあるほど。日本海沿岸地域特有の変わりやすい天候で、日が差したり曇ったり、雪が降ったり強風が吹いたり、刻々と移り変わる天候に驚くも、春の足音がそろそろ聞こえてきそうな雰囲気。
TOGISOで管理人として常時暮らしている中島さんに、「能登の本気の冬はどうだった?」と聞くと、「赤崎での初めての冬は訳あって1人で過ごしていたので、宿泊客がいない日はとても寂しかったです。日があまり差さないので、ご近所さんもあまり外出はしません。人のと交流が減ったことも寂しさを増幅させました。夜寝るときは強風の音や荒波の音が聞こえて、耳栓をしないと安眠できませんでした」と、慣れない冬模様に四苦八苦した様子でしたが、同時に自然の負荷に耐えながら暮らすことで、この集落をつくってきた先人たちの偉大さを感じることができたとも話します。
「春のよろこびを知ることができるのは、厳しい気候で暮らした者の特権」
そう感じたという中島さんは、冬の洗礼を乗り越えたからなのか、移住して1年足らずとは思えないくらい地域に馴染んでいるように見えます。今では地域の消防団にも所属し、その縁もあって別の古民家を近隣の方の紹介で、自宅として購入した中島さん。はじめての能登の冬に戸惑いつつも、着実に「赤崎での暮らし」を自分のものにし始めています。
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後日、佐藤さんからいただいた雪が降った日の写真。
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今まではTOGOSOに住み込みながら管理人をしていた中島さんが、最近購入した家。
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道路を挟んで母屋の正面にある納屋の1階。前の家主さんが置いて行った家財道具の一部が今も残る。

豊かな海がもたらす、赤崎周辺で獲れる冬の食材。

焼きガスエビ

囲炉裏で網焼きしたガスエビ。
赤崎がある志賀町の特産品は、農産物なら「コシヒカリ」、「ころ柿(干し柿)」、海産物なら「甘エビ」や「ズワイガニ」など。これら食材は町内の道の駅『ころ柿の里』、『とぎ海街道』でも販売されています。「甘エビ」と「ズワイガニ」は冬の能登ならではの旬味で、赤崎の隣の地区にある「西海市場」に行けば、都市部では考えられない安さで購入できます。
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本ズワイガニ(左)と毛ガニ(右)。赤崎の隣、西海地区の網元さんからのおすそわけ。
今回の取材でも隣の地域の網元さんから、「本ズワイガニ」「毛ガニ」、たくさん獲れた「メギス」「甘エビ」、そして「ガスエビ」と呼ばれる商品にはならない地元でしか食べられていないエビの差し入れ(おすそわけ)をいただきました。TOGISOではこうした食材で、同地域の観光の目玉になるようなメニューができないか思案しています。
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網元さんが差し入れてくれたメギス(左上)と甘エビ(右上)。能登半島で冬に食される「まつも」と呼ばれる海藻。正式名称は「アカモク」(左下)。冬野菜(右下)はご近所さんからのおすそわけ。
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メギスは佐藤 さんが捌いて刺身に。塩ゆでして ごはんのおかずにも。甘エビは生でもおいしいけど、焼くとさらに濃厚な味になる。茹でると一気に彩りがよくなる「まつも」。 ごはんの友として重宝する。
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水揚げ時の処理の関係で市場には出回らないガスエビ(上)。新鮮なら生でも、焼いてもまるごと食べられる(左下)。小さいけど、エビらしい濃厚なうまみは健在。まつも飯(右下)。味付けは生卵と醤油で。
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囲炉裏の使用は古民家宿ならでは。赤崎の一般家庭で今も使われている訳ではないが、昔ながらの暮らしを彷彿とさせる。
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西海風無地区で網元をしている西崎洋英さん(左)と、同じ日に次の管理人候補として栃木県下野市からTOGISOを訪れていた金井由貴さん。金井さんは夏に一度、宿泊で訪れて赤崎に魅せられた若者。

美しく力強い赤崎の家並みと住まい。

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突堤から眺める赤崎の家並み。
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写真左側が海に面している建物。風除けの納屋として使われるものも多い。右側はおもに母屋が並ぶ。
赤崎の美しい景観を織りなすのが「家」です。海沿いに軒を連ねる住宅群は、1938年に大火事で1/3が焼失した集落を再建する際に形成されたもので、 素材や色調がていねいに揃えられています。

地元の方曰く、中能登の伝統的な家の造りで、屋根瓦が厚く黒光りするのは潮風から家を守るために釉薬を厚塗りしているから。ほかにもこげ茶色の木造外壁、漆塗りの板戸、囲炉裏で燻された驚くほど太い梁など、力強さを感じさせる設えが見られます。

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強風で外れた屋根瓦を修繕する中島さん(右)。強風で崩れた納屋の屋根瓦(左)。数十年かけて囲炉裏で燻された立派な梁(下)。
「基本的に古民家なので冬になると室内は寒いです。畳の下に断熱材を入れたり、暖房器具を取り入れたり工夫しています。家が大きすぎることに加え、雰囲気を維持するために家全体の断熱はあきらめていて、くつろぎのスペースを襖や戸で区切ることで、人が集まる場所を暖かく保つようにしています。」

と話す佐藤 さん。家を住みやすくするには工夫がいるようですが、その甲斐もあり、確かに居間と囲炉裏の部屋、寝室などは寒さで震えるほど冷え込まず、快適に過ごせます。

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宿泊客が使用する2階の寝室。時代物の箪笥が目を惹く。
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1階の共有スペースの居間は、暖房も効いて快適。リモートワークにも困らない。

空き家になった古民家を譲ってもらう場合は、蔵・納屋付き。

取材中、佐藤さんが購入を検討している空き家と、中島さんが最近購入したという古民家を見学しました。家を売りたいという地元の方がいれば、できるだけ買い取って赤崎の景観を未来に残すプロジェクトの礎にしたいと、常々話していた佐藤さん。なかにはその「本気度」を地域のみなさんに知ってもらう目的で購入した家もあると言います。こうした熱が伝わることで少しずつ、「この人になら売ってもいいかな」という雰囲気が醸成されたそうです。
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この日内見したTOGISOの向かいにある空き家。今は家主さんが年に数回、まちから手入れに来ているため、少しだけ生活感が残っていた。
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既に買い手が決まったという立派な家。納屋付き。
TOGISO管理人の中島さんも、「赤崎の消防団に入ったことで『彼は赤崎に住み続けそうだな……』と思ってもらえたと考えています。 ここで家を購入できたのもその影響かな」と話します。

いくつかの空き家・古民家を見学してユニークだったのが、「蔵」や「納屋」が付いてくる物件が多いということ。特に海沿いにある家だと、強い海風から母屋を守る目的で納屋を建てたケースも多いのだとか。漁業で栄えたこともあり、豪勢な造りの家が多いのも特徴です。

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TOGISOの海側の庭に建つ納屋。今後、リノベーションをして宿の施設として活用するのだとか。美しいオーシャンビューが望めそうな立地。
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別の家屋にある蔵の2階。
蔵や納屋の中をのぞかせてもらうと、以前住んでいた方たちが残していった家財があちらこちらに。現代の暮らししか知らない人間からしてみると、食器類や衣類、古書など、初めて見るものも多く「何かすごいモノが眠っているかも……」というワクワク感もあります。
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蔵にはレトロな風合いのブラウン管テレビ、古い教科書(?)、古い外国の紙幣など、1周して新鮮に感じられる生活用品が取り残されていた。さながら宝探しの気分。
「金銭的価値が高いものが残っていることはありませんが、『好きな人が見たら宝物』『資料的に価値のあるもの』が見つかる可能性はあると思います。実際、今では手に入らない食品メーカーのノベルティグラスなんかは、TOGISOでも販売しています」と話す佐藤さん。

ちなみに、以前多数のメディアでニュースになった『80年前のセメダインCをセメダイン本社に寄贈』 のセメダインCは、このTOGISOの収納から見つかったものです。

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TOGISOで販売しているレトロ可愛いデザインの「ノベルティグラス」も、蔵から出てきた逸品。TOGISOの居間には、ゆかりの「セメダインC」クッション。
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蔵から出てきた輪島塗のお椀で作ったお洒落な照明。

冬の遊びはやっぱり釣り? 浜辺でサザエも獲れる。

夏は磯遊びに海水浴、銛を使った魚突きなど、楽しい海のアクティビティが多い赤崎ですが、冬の遊びについては、「何か新しいものを……」と考えている佐藤さんと中島さん。
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浜辺にセットしたテントサウナ。
今考えているのが冬の強風を生かした「風気浴」。テントサウナを用意して、サウナから出たら日本海から吹く冷たい風を全身に浴びて「整う」というアクティビティを準備中です。ほかにも日本海の強風を生かした「本気の凧あげ」など、大人も子どもも楽しめる案を練っています。

今回の取材では、近所の突堤で海釣りを楽しんできました。夕暮れ時で少し波もありましたが、たった数分で立派な「カサゴ」が釣れました。季節によっては「スズキ」や「アオリイカ」「メバル」などが釣れるそうです。

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近所の突堤で釣り。この日の釣果は立派なカサゴ。
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近所の浜でサザエを獲っていた赤崎の区長さん。この浜ではタコも獲れるのだとか。
また遊びではありませんが、TOGISO管理人の中島さんには、アクティビティが減る冬の間にすることがたくさんあります。新しいアクティビティの開発と同じく、日々試行錯誤しながら「宿づくり」にいそしんでいます。
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強風で崩れた宿裏の納屋の壁板を片付ける中島さん。
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丸ノコで壁板の処理に参戦する金井さん。斧や丸ノコで割った板は、薪に整えてくべる。

「TOGISO」を、赤崎に人の流れを呼び込む拠点に。

能登の旅の拠点として楽しい時間が過ごせる赤崎の「TOGISO」ですが、オーナーの佐藤さんと管理人の中島さんは、集落の美しい景観や魅力的な資源を使って、もう少し赤崎に「人の流れ」を呼び込みたいと考えています。
「いきなり赤崎に移住して暮らすという決断は難しくても、夏だけ赤崎を生活拠点にしてもらう、1年のうちの決まった時期だけTOGISOの管理人業務をしに来てくれる、新しいことを始めるときに知恵を貸してくれるとか、細く長く関わってくれる仲間があと数人いれば次の流れがつくれるなと思っています。」

と話す佐藤さん。具体的にイメージしている事もいくつかあります。

「たとえば今回、網元さんが差し入れてくれた、買い手がいなくて捨てるかあげるかしかできない海の幸(ガスエビ)を使ったスナックフード、名物スイーツを開発するとか、赤崎周辺ではおいしい食材が安価で手に入るので、それに合うおいしいパンを作る職人を呼ぶとか、やってみたいことがたくさんあります。」

そして、その目は「外から来る人」だけではなく、いま赤崎で暮らす地域の皆さんへも向いています。

「同時に、赤崎は住民のほとんどが高齢者という過疎地域でもあるので、赤崎が好きで暮らし続けているみなさんの生活も、もう少し便利にしてあげたいと考えています。たとえば、地域のみなさんのために『ご用聞き』をしてamazonで注文してくれる方や、大工仕事(小さな加工でも)を助けてくれる人など、できる人がいれば継続的に仕事として頼みたいです。もちろん生計を立てられるほどの仕事ではないので、『本業が別にあって…』『仕事がフルリモート勤務で…』『赤崎のことを気に入ってくれて…』など、いくつか条件は付いてしまいますが、人の流れができれば『私、やりますよ!』という人が現れるかもしれません。だから少しでも興味がある方がいたら、赤崎を見にTOGISOに来てみてください。」

TOGISO

住所:石川県羽咋郡志賀町赤崎ロ58-1
HP:https://togiso.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/p/Cpe0_mdS8bq/

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