千葉県の南端にある南房総市・千倉町は、サーファーに人気の町です。そんな千倉町で地元の人やレジャー観光客に人気なのが、毎月第2・4日曜日に開催される「ちくら漁港朝市」。2023年12月に開催された朝市を訪れた南房総市在住の筆者が、その魅力をみなさんに紹介します。
東京から車で90分。千倉町は関東圏のサーファーに人気の里山&港町
黒潮の影響を受けた温暖な千倉町は、「一足早く春が訪れる町」として有名で、12月下旬から咲く色とりどりの花が、花摘みを楽しむ観光客を集めています。サーフスポットが点在していて、冬の海水温が他県よりも温かいため、冬でもサーファーが集います。千倉町の海に魅了されて移住する人も多く、必然的にオシャレなカフェやレストランも多い町。全国でも珍しい料理の神様を祀る「高家(たかべ)神社」では、庖丁式の奉納が執り行われていて、昔ながらの伝統も受け継がれています。
「ちくら漁港朝市」で、千倉町~京都を山車に乗って往復した観音様にお祈り
2023年12月の開催当日、会場に足を踏み入れると「巡行体験(じゅんこうたいけん)を行います」のアナウンスが耳に入りました。すると、目の前には山車に乗せられた観音様が。千倉町にある高徳院の星住職が今年、京都から観音様を乗せた山車を引いて、千倉町の高徳院まで700キロを2カ月かけ、万民の安寧を祈って行脚しました。前年に千倉町から京都までの往路を終えていたので、往復1400キロの「日本廻国(にほんかいこく)※」を成功させたことになります。
※日本廻国:コロナ禍のような大厄災鎮静後に志願者を集って国と万民の100年先の安寧と繁栄を願って日本全土を観音像と共に歩く歴史ある大修業。(参照:龍光山高徳院ホームページ)
その山車を参加者と一緒に引く体験が、この日特別に行われていました。
観音様の手から伸びた綱を参加者が手にし、願いを込めてもらう御祈祷も行われていて、イメージしていた朝市とは全く違う光景を目にしましたが、これは「ちくら漁港朝市」でしかお目にかかれない光景ですね。
巡行体験や御祈祷はコロナ後の朝市再開1周年記念で行われたもので、初めての試みでした。もしかしたらまた行うことがあるかもしれないので、興味がある方は事前に高徳院のサイトをチェックしてみましょう。
高徳院は、朝市の会場から車で5分ほどの場所にあるので、時間さえあれば実際に訪れることも可能です。参拝の際は、本堂で抹茶の接待や、住職による法話と3分程度の御祈祷をしてもらえます。住職が不在の場合もあるので、御朱印や御祈祷を希望する場合は事前に問い合わせてご確認ください。
■龍光山高徳院
住所:千葉県南房総市千倉町川口418
web:https://koutokuin-chiba.jp/
朝市で南房総・千倉町のうまいものを食べる
朝市の楽しみは、やはり食べ歩きではないでしょうか? まずは、どんな食べ物があるのか全体をチェック。おいしそうな匂いを漂わせながら焼鳥を焼く店や、海鮮、いわしのつみれ汁、メロンなど多種多様。テーブル席では魚介を焼いて食べている人たちもいます。
地元の商店が多数出店していて、漁協や農家、キッチンカーなど、この日は10店以上の出店がありました。獲れたて鮮魚や魚介、海鮮BBQ以外、どこのお店が出店しているかは行ってからのお楽しみ。お気に入りのお店を見つけたら、次いつ出店するか確認を忘れずに。
千倉町の隣り、和田町に店舗を構える「海の食処なむら」で提供されている漁師メンチも、揚げたてが提供されていました。海の食処なむらは、保存料などの添加物を使わずに、イワシやサバを主とした食品作りをしている有限会社『アルガマリーナ』直営のお店。「2016年にっぽんの宝物世界大会」、「南房総名品づくりグランプリ」などで優勝した料理を提供している名店です。そこの「漁師メンチ」を購入してみました。
■海の食処なむら
住所:千葉県南房総市和田町海発196−1
サバが入っているとは聞いていましたが、一口かじるとサバだけがドバっと入っていてビックリです。ソースが置いてありましたが、味付けがしっかりしていたのでそのままでも十分においしい!
地元民のおすすめは千倉町で獲れた海の幸
地元の方に朝市で人気のお店を聞いてみると、千倉町の漁港が販売する朝獲の鮮魚が買えるお店と答えてくれました。目の前に漁港から水揚げされた魚がすぐに朝市へ運ばれるので、とにかく新鮮な魚介が手に入ります。
地元のお婆ちゃんたちも、この鮮魚を目がけて朝市を訪れます。漁協の方に聞いてみると、この日販売したのはアジ、サバ、カンパチ、カマス、シーラ、ソウダガツオ、アオリイカ、ヤガラの8種類で、毎回ほぼ売り切れるそうです。
「ちくら漁港朝市」には、地域のつながりを強固にする役割も
地元の人にとって、朝市の楽しみは買い物だけではありません。10年ほど続くこの朝市の第一回目から出店している「安田農園」の安田さんと、一緒に農産物の販売をしている3人は、中学の同級生です。
「あの店の人も同級生だよ」「今日は珍しい同級生がきた!」など、「ちくら漁港朝市」は地元でもなかなか会わない同級生との再会の場であり、みんなの近況を語り合うコミュニケーションの場でもあります。「商売で来ているわけじゃない」と話す安田さんの言葉に、この朝市が地域のつながりを強固にする、そんな役割があるように感じました。
「ちくら漁港朝市」の新しい名物グルメ「アジフライバーガー」と「タルタルさんがバーガー」
ちくら漁港朝市特製「アジフライバーガー」と「タルタルさんがバーガー」は、この朝市に参加するお店が協力し合ってつくった商品です。バンズは千倉町にある老舗菓子店の特注パンを使い、さんが焼きは「漁師メンチ」を販売している「アルガマリーナ」に特注したもの。生姜味噌は、日本料理の神様を祀る「高家神社」のお墨付きである「高家ふるさと産品推奨品」の認定を受けている有限会社『さんすい漬物』が提供しています。
■高家神社
住所:千葉県南房総市千倉町南朝夷164
web:https://takabejinja.com/
南房総で獲れたアジを使うご当地グルメ「南房総うまアジグルメ」の第二段で、まだ開発途中ですがこの場で反応をみるために販売していました。オーダーを受けてから作る工程を見ているなかで、テーブルに置かれたガスバーナーが気になっていたのですが、チーズを乗せた後にガスバーナーでチーズを溶かす様子をみて、合点がいきました。これはなかなかおいしそう! お客さんの反応もよく、本格販売が楽しみな一品です。
この日、店を切り盛りしていたのはイチゴを生産している「安房こおどりファーム」の多田さん。今日は一周年記念でいつもよりお客さんが多くてバタバタしていましたが、ふだんはもう少しゆっくりお客さんと交流する時間があるそうです。近所の宿に滞在している旅行客やドライブで立ち寄ってくれた日帰り観光客、釣り人やリピーターなど、わざわざここを目指して訪れてくれる人も少なくありません。
グルメ以外にも楽しいイベントを企画している「ちくら漁港朝市」
この日は、コロナ禍で休止していた朝市を再開して一年になる記念日でした。家を建てるときに災いを祓うために行われる「餅まき」ですが、南房総ではほかにも、めでたいことがあれば「餅投げ」を開催しています。私も南房総に移住してから、この日初めて、その光景を目にすることができました。
「こっちにも投げて!」
「こっちまだきてないよ!」
参加者は元気に声をかけ、飛んできた餅やみかんをキャッチ。子どもたちも楽しそう。投げ手も受け手もみんな笑顔いっぱいで、自然と幸せな気持ちになりました。
「ちくら漁港朝市」は小さなスペースで行っている朝市ですが、物の売り買いだけではないコミュニケーションや地域の文化を知る場として、地元からも観光客からも愛されている場所です。
週末や連休に南房総へお出かけを考えている方は、開催日程が合えば、ぜひ立ち寄ってみてください。
■ちくら漁港朝市
住所:南房総市千倉町平舘763-11
web:https://www.cm-boso.com/chikura_asaichi.html
取材協力:ちくら漁港朝市出店者のみなさま
写真・文:鍋田ゆかり