福井、これからのまちづくりに必要なのは「隙」。
この連載のテーマである「微住」という造語。
昨年春に、台湾のカルチャー雑誌『秋刀魚』とコラボで出版した『青花魚』という本からこの言葉は生まれた。
僕の故郷である福井を舞台に、『秋刀魚』編集部のメンバーと、写真家の川島小鳥さんと共に微住した記録を一冊にまとめた本である。この本の出版以前にも私は福井の観光PRのお手伝いをさせていただいており、この本を出版するきっかけにつながっている。
福井は全国の知名度ランキングでも常に下位、訪日外国人も非常に少ない。そんな福井について3年前、台湾でのトークショーの機会をいただいた際、ほとんどのお客さんが福井のことを知らない人ばかりの中、反応が一番大きかったのが、「福井には空港もないし、新幹線もまだ通っていません」という話だった。私自身も予想していなかったが、PRでは一番隠したい「弱点」にこそ最も興味を示してくれたのだ。
日本のインバウンド関連のイベントやPRは台湾一つ見ても非常に多いが、福井に限らず、どの地方も「ご飯がおいしい、自然が豊富、伝統や歴史が深い」と決まりきっている。正直、台湾人たちもそんなPRに飽きているのが現状だ。
もちろん自分たちの自慢や自信をPRすることは素晴らしいことだが、インバウンドが飽和している現在、それだけでは町に人は訪れない。
人と人との関係と同じで、町も「隙」があるからこそ興味や愛着が生まれるのだと、そのトークショーの時に感じた。
昨今の移民受け入れ問題で揺れる日本だが、今後、日本にやって来る外国人の中には、日本で新たな関係性や居場所を探す外国人も増えてくるだろう。そして微住もそのきっかけになる。そんな時代を迎えるにあたり、受動的でも楽しめる観光地に負けないようにと強がるのではなく、むしろ欠点や脆さをも素直に出し、訪れた人たちが主導的に街の隙に入り込める、「余白」こそ大切だし、それこそ観光地にはできない地方の強みだ。
「が」の時代から「も」の時代へ。
どんな宣伝やPRでも「自分“が”一番いい」と言ってしまうのはしようがないことだと思うが、そもそもそこに大きな落とし穴がある気がする。インバウンドのPRでもどの地域も「うちの〇〇“が”日本一!」ってことばかりを発信して、本当にそうなのかもしれないが、聞く側は素直に聞き入れられない。人間同士の会話でも自慢話はあんまり聞きたくないのと同じ原理だ。
この「が」の意識こそ最大の難点で、提案したいのはそこを「も」に変えていこうということだ。
従来のインバウンドに対するPRは常に「うちに来てください、来てください」ばかりだった。だから旅行者に対して去り際、「またぜひお越しください」と言うのが当たり前だろう。
しかし、福井微住の終了の日、現地のみなさんは「次は我々が台湾に会いに行きます!」と口々にしてくれた。
去年11月、台北の中山エリアの『誠品生活南西店』での「青花魚展」の開催もあり、本当に福井の人たちが『秋刀魚』のメンバーに会いに行くことに。普通の旅行とは違い、この双方から何層にも重ねて積み上げられる関係性こそ微住ならではである。
微住をきっかけに認め合う内部。
台北での「青花魚展」を無事終えた中、福井から素敵なお知らせが届いた。
今回台湾を訪れたのは、微住中にお世話になった福井市の東郷地区と、大野市の人たち。世代もバラバラで、同じ福井でも距離的にもかなり離れていて、普段はあまり接点のない2つの町。この2つの町が帰国後、「勝手に友好都市宣言」をしたという連絡だった。
外からの新しい息吹によって、これまでなかった内側同士の関係もつながっていく。以前の観光目線であれば、きっと「うち“が”! うち“が”!」となっていた内側同士。今後は双方のよさを認め、共有していこうというのだ。これも微住者を受け入れた町だからこその産物。
「うち“も”いいけど、あなた“も”いいよね」。この感覚が芽生えた町の未来はこれから明るい。