国民食と言えるほど、根強い人気のカレーライス。どんな具材を入れてもおいしく包み込むカレーは、各地のさまざまな名産品や郷土料理をアレンジした“ご当地レトルトカレー”を数多く生み出してきました。
今回は、ご当地レトルトカレー専門店「カレーランド」を営む猪俣早苗さんに、その魅力やこれまで数々のカレーを食べ続けてきた猪俣さんイチオシのカレーを教えてもらいました! みなさんも、ぜひおうちで地域の味を楽しんでみては?
ご当地レトルトカレーの魅力とは?
よく、観光地のおみやげ屋さんや道の駅などで目にするご当地レトルトカレー。地元の素材を使った王道カレーや、「そんなものまで入れちゃうの?!」と言いたくなるような意外な組み合わせのカレーまで、とにかく個性豊かなご当地のカレーは見ているだけでも楽しいですよね。
そんなご当地レトルトカレーの専門店が、東京・浅草にあります。その名も「カレーランド」。この場所を運営するのは、自身もこれまで2,300種類以上のカレーを食べてきたという猪俣早苗さんです。
猪俣さんは、もともとカレー好きのご主人がおみやげでもらったご当地レトルトカレーを食べて、その魅力にハマっていきました。しかし、その当時から、猪俣さん自身は特段カレーが好きなわけではなかったのだそう。それは今でも変わらず、“カレー”というよりは、カレーに落とし込まれている“ご当地”要素のおもしろさに惹かれたといいます。
以来、ご当地レトルトカレーを食べ続け、その約5ヶ月後には専門店「カレーランド」をオープンしました。今年でオープンから8年目を迎えます。
そして現在も各地のカレーを日々食べ続けているという猪俣さん。それほど長くハマり続けるご当地レトルトカレーの魅力は、一体どんなところにあるのでしょうか?
猪俣さん「ご当地レトルトカレーは、自分が知らなかった地域のことを知れるのがおもしろくて。今はインターネットでなんでも調べられますが、自分が知らない地名はそもそも検索しないですよね。そうすると、知らないことは一生知らないままで終わってしまう。私もカレーを食べて気になった地域や食材は調べていますが、少しでも目にしたり耳にしたことがあれば、そうやって調べるきっかけになります。そういう入り口として、カレーは最適だなと思っています」
さらにカレーは、多くの人にとって馴染み深い国民的メニューのひとつ。どんな素材もおいしく取り入れることができ、地域の個性を出しやすい点も魅力的だと話してくれました。
猪俣さん「地方に行ってカレーを探していると、ここまでご当地の食材をきちんと包み込んで魅力を伝えられるものって、やっぱりカレーがいちばんじゃないかと感じます。しかもレトルトカレーだったら、基本的に誰が温めても同じ味が出てくる。そうすると、作った人の込めた思いがまっすぐ伝わりやすいと思っていて。そこにすごく可能性を感じていますね」
温めるだけのレトルトカレーは、基本的に作り方や人によって味が変わることはありません。味が安定しているうえ、食材の味をダイレクトに届けられる。ご当地レトルトカレーには、地域の魅力や個性を届けるパワーがあると感じているそうです。
カレー選びのこだわり。
「カレーランド」に並ぶ商品たちは、猪俣さんがこだわり抜いて厳選したものばかり。実際に食べて気に入ったものだけを取り扱っています。しかも、そうしてお店で販売し始めた商品でも、その後も定期的に食べてチェックしているというこだわりぶり。
たとえばカレーに限らず、久しぶりに買った商品を開けると「あれ?具が減ったな」とか「前はもっとお肉が大きかったような?」ということって、たまにありますよね。そんな変化にも対応するため、猪俣さんは入荷したものを製造日が変わるごとに食べているといいます。そこで具材の大きさや味の変化など、細かな点もチェックしてお店に並べているのだとか。同じ商品だからといって仕入れ続けるのではなく、リアルタイムで常に選び抜かれた商品が並んでいるのです。
では、カレー選びに並々ならぬ情熱を注ぐ猪俣さんは、いつもどんなことに注目してカレーを食べているのでしょうか?
猪俣さん「基本的には、メインとなる食材がどれだけ活きているか、主役になれてるか、ということをいちばん気にしています。ただ単にカレーとしておいしいというよりも、その地域や食材の個性が出ているカレーを選ぶようにしていますね。ひとつのカレーのなかに、自分たちが伝えたいことがどれくらいあるか。そういうことを大事にしています」
その言葉どおり、来店するお客さんには、カレーに使われている食材の魅力や希少性、作っている地域の特徴なども伝えるようにしています。そこで伝えられる情報は、メーカーさんからの受け売りではなく、実際に猪俣さんが食べて感じたことや、気になって調べてみたことがもとになっているのだそう。猪俣さん自身、今もなおカレーをきっかけにさまざまな地域と出会っているのです。
そうして、これまで数多くのご当地レトルトカレーに出会ってきた猪俣さんですが、やはり現地にしか売っていないカレーがおもしろいといいます。
猪俣さん「やっぱり現地に行って発掘するもののほうがおもしろいですね。私たちも特別な場所に行っているわけじゃなくて、サービスエリアや道の駅で探して買っています。現地でも決してひそやかに売ってるわけではないのですが、みんな並んでるカレーに気づいていない。そこでおもしろいものを見つけるのが楽しいんですよ」
日帰りカレー探しの旅🍛👀
栃木県はお気に入りの、ねぎにらグリーンカレーが終売なので早めに次を見つけないとー!ってことで県内ウロウロ中。 pic.twitter.com/DRJmqvcp0B
— 猪俣早苗🍛🐺カレーランド®︎ (@sanaeinomata) November 17, 2020
たしかに、私たちはふだん意識していないだけで、実はおもしろいご当地レトルトカレーに日常的に出会っているのかもしれません。さらに続けて、ご当地レトルトカレーは“一期一会”とも語ります。
猪俣さん「ご当地レトルトカレーは、地元の食品メーカーさんが自分たちの持ってる食材をPRするために作ることも結構あります。そういうところはカレーが本業ではないので、個性的なカレーも多くておもしろいんですよね。でもそのぶん、生産を突然やめたりすることも多いです。『次、買うからいっか』とか言っていると、もう次がなかったりするので。気になるカレーがあったら、ぜひその場で買っておいたほうが良いですよ!」
ご当地レトルトカレーは、おいしくなくてもいい?!
そして、今回の取材で猪俣さんが繰り返し語ってくれたのは、「ご当地レトルトカレーは、地域を知るための最適なツールである」ということ。ご当地レトルトカレーが次のアクションを起こすきっかけになれば、と猪俣さんは考えています。
猪俣さん「少し語弊があるかもしれないですが、ご当地レトルトカレーって、決しておいしくなくてもいいんですよ。100人中100人が『おいしい』って言わなくてもいい。むしろ、たとえば100人のうち半分くらいが『おいしい、好き!』と言って、そのなかの10人のど真ん中に響いてその地域の食材を取り寄せるとか、そのうち2人はふるさと納税をするとか、現地に行ってみる人がいるとか。ご当地レトルトカレーは、そうやって次のアクションにつながるきっかけになるためのもので、100%“おいしい”にこだわらなくてもいいと思うんです」
“おいしい”の基準は人それぞれ。同じカレーでも、好みによって感じ方は異なります。実際にお客さんからは、食べたカレーがおいしくなくても「おもしろかった」というポジティブな反応をもらうことも多いとか。だからこそ猪俣さんは、自分の“おいしい”の基準だけに頼らず、地域の個性がしっかり感じられるカレーを選んでいるのだといいます。
猪俣さん自身、そんなふうに地方への思いを募らせるようになったのは、ご当地レトルトカレーを追いかけるようになってからだった、と振り返ってくれました。
猪俣さん「お世話になっている地方の食品メーカーさんが、現地へ行くとすごくいろいろ紹介したいところがあるって言って教えてくださるんです。私は生まれも育ちも東京ですが、それを自分に置き換えたとき、そこまで強い思いで紹介できるところってあんまりなくて。だからすごく羨ましかったんですよね。よく『地方を元気に』とか『地方をおもしろく』って言うけれど、もう十分元気だし、おもしろいんだと思います。それが外に広がっていないだけなんじゃないかなって。それで、カレーを通じてもっと多くの人に地方のおもしろさを伝えたいと思うようになりましたね」
そうして、ご当地レトルトカレーを通じて猪俣さんが目指すのは、地方に人の流れを作ること。人の気配が地域のすみずみまで行きわたることで、各地で問題になっている鳥獣害対策につながり、自然と共生できる環境の保護を目指しています。
2017年には、「一般社団法人ご当地レトルトカレー協会」を立ち上げました。現在では、専門店「カレーランド」運営のほかにも、ご当地レトルトカレーのプロデュースなども手掛けています。ご当地レトルトカレーの魅力をさらに多くの人へ広めると同時に、カレー通じた社会課題の解決を目指して、さらに活動の幅を広げています。
猪俣さんおすすめのカレー3選!ぜひお試しあれ
おすすめのご当地レトルトカレーはこちら!
さて、お待たせしました! 今回、猪俣さんから、食べればきっと旅に出たくなる今イチオシのご当地レトルトカレーを3つ教えていただきました。今は思うように外出できない日々が続いていますが、その間はおうちで地域との出会いを楽しんでみては? 気になるものがあれば、ぜひ手にとってみてくださいね!
①さらべつ和牛ビーフカレー(北海道・更別村)
「さらべつ和牛」は、北海道更別村のブランド和牛です。もともとこの地域で生まれた牛は全国各地へ出荷され、ほかの地域のブランド牛として育てられていました。
現在もそうした“素牛”として他地域へ供給される牛も多いそうですが、今ではそのなかから地元・更別村で繁殖から肥育まで一貫して手掛けるブランド牛「さらべつ和牛」が誕生しています。しかもこの「さらべつ和牛」は、年間で出荷されるのはわずか約50頭! その希少なお肉を贅沢に使ったのが、この「さらべつ和牛ビーフカレー」です。
以前、こうした「さらべつ和牛」の希少性や魅力を伝えただけで、「買います!」と即決されたお客様がいたそうです。今、猪俣さんが地域や食材の持つストーリーをお客様へ伝えるようになったのは、実はこの経験がきっかけになったのだとか。商品の味や見た目だけではなく、そこに隠れているご当地食材の魅力や価値を伝える大切さを教わったカレーだった、とも話してくれました。
そして気になる中身は、ごろっと大きなビーフをはじめ、玉ねぎやにんじんも入ってとても具だくさんです! 口に入れると辛さよりもクリーミーな甘みが感じられ、二口、三口と進めるうちに少しずつスパイシーに。メインのお肉もやわらかく、とても食べごたえのある一品でした!
②鯖カレー(青森・八戸)
パッケージの写真どおり、サバの半身が豪快に1枚入った「鯖カレー」。青森のブランド鯖「八戸前沖さば」が使われています。
猪俣さんがこのカレーと出会ったのは、なんと知り合いの写真の背景にカレー売り場のようなものが写っているのを見つけ、拡大してみるとこのカレーがあったのだとか! 見つけたあとはすぐに注文し、食べてみて取り扱いを決めたそうです。常にアンテナを張っている猪俣さんだからこそ見つけられたカレーかもしれません。
サバは、カレー粉をまぶし焼いてからカレーにしているからか、生臭さはありません。湯せんで温めたあと、封を開けた瞬間にサバのいい香りがふわっと香ります。カレーのルーにもサバの旨味や野菜の甘味が染み出し、一口でいろいろな味が感じられます。肉厚のサバが半身1枚分入っているので、一皿で大満足の一品です!
③鹿肉カレー(長野・富士見高原)
続いて、パッケージもおしゃれな「鹿肉カレー」は、長野県の富士見高原で有害駆除された鹿を使ったジビエカレーです。野生の鹿肉を使っているため、鹿肉自体の味わいもその時々によって異なります。これも製造日ごとに猪俣さんがチェックし、そのとき販売されているものの味わいを教えてくれます。
ちなみに取材当時に販売されていたものは、猪俣さん曰く「今回は少しワイルドめです」とのこと。実は私自身あまりジビエが得意ではないのですが、それでもこのカレーはおいしく食べられました! ジビエの独特な風味はあるものの、全体的にとても上品な仕上がりで、苦手な方でも食べやすそうです。
入っている鹿肉はほろほろと柔らかく、スプーンで切れてしまうほど。そのとき使われている鹿肉によって味わいが変わるので、何度食べても新鮮に感じられそうです!
カレーでもっと日本を楽しもう!
そして最後に、猪俣さんからご当地レトルトカレーを楽しむためのコツを教えてもらいました!
猪俣さん「ただ食べて終わりではなくて、ぜひその地域とつながりを作ってもらえたら楽しいと思います。ご当地レトルトカレーを作っている方も、それが願いでもありますから。食べて気になったことは、調べると意外にもっと興味が湧くこともあります。そうやって、カレーをきっかけにもっと日本を楽しんでもらえたら良いなと思いますね」
身近な“カレー”をきっかけに、知らない地域に出会える。このことこそ、猪俣さんが考えるご当地レトルトカレーの魅力です。きっとみなさんにも、まだまだ知らない地名やご当地食材がたくさんあるはず。自宅でご当地の味が楽しめるのはもちろん、次の旅先を考える材料としても楽しめます! 個性豊かなご当地レトルトカレーから、ぜひ新たな出会いを楽しんでみてはいかがでしょうか。