初めまして、大学3回生の川村佳恵です。『ソトコト』のオンラインコミュニティ「ソトコトと。」で実施されているプログラム「聴きすぎる時間」には、コミュニティメンバーが話を聞きたい人にとことん質問できる機会があると知り、地域コミュニティを研究している私が手を挙げました。
インタビューを通して、この疑問を解消したい私は、『ツクルバ』(※1)取締役・中村真広さんに取材を申し込みました。中村さんは『ツクルバ』にて『co-ba(コーバ)』(『ツクルバ』で運営する会員制シェアードワークプレイス)や『cowcamo(カウカモ)』(中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム)など、人とのつながりを大事にしたサービスを運営されていて、まさに“コミュニティ”を仕事にされている方だと感じていたからです。
この記事は、2021年8月に『ツクルバ』本社にて中村さんに「コミュニティを仕事にするとはどういうことか」をテーマにインタビューを行い、ソトコト編集部の方にサポートいただきながら(取材企画書、質問項目づくり、原稿作成から校正まで)、約4カ月かけて執筆した記事です。
“コミュニティ”―この言葉を意識するようになったきっかけ。
中村真広(以下・中村):今回は“コミュニティの人”として扱っていただいてうれしい反面、自分自身ではその自己認識はあまりないです。コミュニティデザインという言葉を『studio-L』代表でコミュニティデザイナーの山崎亮さんが提唱され始めていたとき、僕らはコミュニティの専門家ではなかったし、人と人がつながる仕組みをデザインするということをやったこともなかった。そんななかで勝手に始めたのが、人と人がつながる場をつくり運営することでした。当時参考にしていたのは、ワークショップデザインを専門とした方々の書籍から、“ワークショップ的な”場の開き方を学んでいました。
川村:“ワークショップ的な”とは、いろんな人が集まって一つのテーマのもとに語り合う中でインスピレーションが湧く、みたいなことですか?
中村:そうですね。当時、東京大学大学総合教育研究センター准教授兼東京大学大学院学際情報学府准教授だった中原淳先生(現、立教大学経営学部教授)が「大人のための学び場」としてお酒や食事、さまざまな人との交流を楽しみながら講演会形式のセミナーを受ける『ラーニングバー』を主催されていて、その実践の記録と知見をまとめた本『知がめぐり、人がつながる場のデザイン―働く大人が学び続ける“ラーニングバー”というしくみ』(英治出版刊)をたまたま僕が手にとったんです。こうやって見ず知らずの人たちが関係性をつくり出していくんだ、新たな関係性が生まれインスピレーションが湧く場の設定ってこうすればいいんだ、ということを学びました。なので、はじめはあまり「コミュニティ」とは言っていなかったと思います。建築学科を卒業してからいろんな仕事や活動をやってきたので、コミュニティを専門にしているという自己認識はないですね。ただ、今の自分たちの活動の輪郭をどう表現するんだろうという時に、世の中で「コミュニティ」という言葉を多く使われ始めていたのもあり、この言葉が当てはまりやすかった感じはあります。
川村:認識していなかったけど、取り組んでいることがコミュニティづくり、コミュニティマネジメントと呼ばれるものだった、みたいなことでしょうか。
中村:結果的にそうなっていました。コミュニティと呼んだほうが収まりがいいと感じ始めていた中で、僕も意識し始めたという感じかな。
コミュニケーションから意識する「共に前を向く関係」。
中村:会社が大きくなって、社内外にさまざまなステークホルダーが増えていく中で「社内と社外」という境界線を引くと対峙する関係になってしまいます。その時にふと『co-ba(コーバ)』(『ツクルバ』で運営する会員制シェアードワークプレイス)の初期の経験を思い出しました。運営者と利用者の線引きをすればするほど「向き合う関係」になってしまいますが、「一緒にこの場を作る仲間じゃん」という意識をもって「共に前を向く関係」で場のコミュニケーションを図っていくと、みんなでこの場を保っているという感覚になれたんです。これを会社経営に応用できないかなと思って、その頃から「コミュニティ経営」という言葉を引っ掛けながら『ツクルバ』を経営してきたというのはあります。
川村:お話の中で出てきた「向き合う関係」「共に前を向く関係」について、詳しくお伺いしたいです。
中村:「向き合う関係」を、僕は「境界線を引く」という意味で捉えています(ポジティブな捉え方もあると思いますが)。サービスの提供者とお客さんという向き合い方をすればするほど、お客さんと提供者側という垣根を超えにくくなる。それよりも、共通の旗を立てて、そこに対してお互いが共感し、その上で参加している状態を作るというのが、僕の示す「共に前を向く関係」です。
“内輪ノリ”にならないために、意識していること。
中村:難しいですよね。
川村:場の当事者になればなるほど、自分のいるコミュニティに新たに入ろうとしている人への配慮が難しくて。なのでそれをうまくやられている中村さんは本当にすごいと思っています。
中村:内輪にならないという視点はめちゃくちゃ重要です。内輪ノリになればなるほど、境界線を無意識に作ってしまう。仲間内でのみ通じる言葉、方言みたいな。それがわからないと楽しめないというふうになってしまうので。そこをいかに方言にならないようにするかを考えています。
川村:内輪ノリにならないように、中村さんがコミュニケーションをとる時は何を大切にしていますか?
中村:言葉です。僕は東京工業大学で建築を学んでいた当時、塚本由晴先生(東京工業大学大学院教授)の研究室に所属していて、そこでの学びが大きいです。建築家である塚本先生は言葉の扱いがとてもうまい方で、僕自身も「今からやる事業には社会的にどういう意義があるのか」というところの言語化を創業時から続けてきました。
コミュニティ的なアプローチで仕事をする。
中村:どんな職種であれコミュニティ的なアプローチはできると思っているので、コミュニティを直接仕事にするという考え方をしなくてもいいと思いますね。会社経営でも、例えば株主とか取引先とか、いわゆるステークホルダーとの関係を「向き合う関係」もしくは「共に前を向く関係」として定義することができる。「向き合う関係」だけではなく「『共に前を向く関係』も大事にしていこう!」とアプローチをすることがコミュニティ的なアプローチだと僕は理解しています。それは、会社経営、コワーキングスペースの運営、飲食業など、どんな職種でもできると思うんです。コミュニティ自体を仕事にするというより、仕事をする時にコミュニティ的なアプローチでするということなのかなと。
それでいうと『カウカモ』というサービスも同じです。このサービスは中古やリノベーション物件の流通プラットフォームで、一見すると不動産仲介というビジネスモデルになりますが、そこもコミュニティ的なアプローチで介入できると思っています。例えば、物件を作って販売しているリノベーション再販事業者のみなさんを一同に集めて、「どういう住まいづくりをしていったらいいか」を一緒に考えたり、購入者の人たちを年1回ホームパーティと称して招待したり。そこで購入者が別の人を呼んできて、その人がお客さんになることもあります。このように、ステイクホルダーのつながりを大事にしながらビジネスをやるということは『カウカモ』でもやっています。ビジネスとしては不動産仲介だけど、コミュニティ的なアプローチでお客さんと接することもできるんです。
川村:どんな仕事でも、利用者も運営者も「共に前を向ける」ようなコミュニティ的なアプローチを意識して行動することで、コミュニティ的なサービスになるということですね。
中村:そう思います。コミュニティ自体をいかにお金にするかではなくて、お金にするところは別でいい。『カウカモ』も物件を買ってもらうことでお金が発生しますが、そこの関係性を、売って終わりなのか、それとも、もっと長いスパンで関係性を構築しようと思うのか。『カウカモ』で物件を買ってくれた方がより良い暮らしができるために僕らはどういったサポートができるのかと考えたら、住み始めてからも共に前を向ける状態を作ることだった。だから、マネタイズポイントとコミュニティは別でもいいんですよ。
中村さんの考える地域コミュニティへの関わり方。
中村:地域のコミュニティ拠点についても、機能としては何でもいいと思うんです。おにぎり屋さんだったり、コーヒースタンドだったり、はたまた、まちの図書館だったり。その場に持たせる機能をコミュニティ的なアプローチで拠点運営していくかどうかというところだと思います。
ただ、地域のコミュニティというものにお金っているのかな、とは思います。それこそ、核家族を救うためのいろんなサービスがあります。お金でそのサービスを買って生活をサポートしてもらうこともできますが、ご近所に頼れる仲間がいたら、ベビーシッターを頼まなくても面倒をみてもらえたりする。そこにお金は発生しないし、サービスとしてのマッチング仲介業みたいなものはなにもない。互いの信頼による助け合いで成り立っているわけです。それを、どこか場所を大きく借りて家賃を毎月支払って、場を持って運営しようとするとけっこう大変かもしれません。仮にそれがなくても、使われていない屋上を一時的に活用するとか、公園にブルーシートを敷いてお花見をするとか、仮設の場でもつながりは作れるし、お互いの家を活用すれば場所に関係なく子どもを預けることもできます。なので、お金が必要かと言われると、地域コミュニティに関しては必ずしも必要ではないのかなと思います。
川村:中村さんは、職場でも家でもない地域のコミュニティについてはどのように関わられているのでしょうか。
中村:地域のコミュニティの話でいくと、ちょうど『カウカモ』を始める時に、自分自身もリノベーション物件で暮らしをつくっていかないと実践者になれないと思っていたので、築40年近いマンションに移り住みました。そこで「やれることをやりたいな」と思ったので、マンションの管理組合で数年間理事をやっていました。コロナ禍前だったので、公園でのお花見や、夏は屋上での流しそうめんを企画していました。マンションコミュニティで隣の人がどういう暮らしをしているのかがわからないと、助け合いもできない、自助・共助・公助みたいなものを遊びから始めてみようと考えました。「子どもをいっぱい呼んで流しそうめんをやるからみなさん来てください」とご案内すると、意外とウケが良くて。「私たちのときもこういうことをやったよなあ」と言っておじいちゃんたちが来てくれたり。そういうふうに交流が始まりました。マンションの理事をおもしろくやろうと思えばできるんだ! ということを実践していましたね。
川村:すごい! 私の勝手なイメージだと、仕事をバリバリしている人はプライベートや地域のコミュニティについては無頓着だと思い込んでいたので、仕事でもプライベートでもコミュニティを大切にすることはなかなかできないと思います。
中村:でももちろん、下心みたいなものはあります。都心で核家族で子育てをするのは大変です。やっぱり家族の内だけで完結することはしんどい。そうすると、ご近所というのが重要なんですよね。仲良くするにも、突然「仲良くしましょう!」といくわけにもいきませんし、なにか“言い訳”がほしいんですよね。その“言い訳”をちゃんとデザインしようというところで、先程も言ったような流しそうめんなどを企画していた面もあります。それは僕だけのニーズではなくマンションの理事会のみんなもそうだった。だから、「いざという時に助け合いたいですよね」という話から仲良くなっていったのはあります。
僕も少し前なら、自分で選べる縁である“ 選択縁”というか、価値観の合う人とだけつながっていればいいというような、むしろ価値観の合う人との居場所が好ましいというような、それだけで十分だった時期もありました。もちろん今でもそういう場所も重要だと思いますが、子どもが生まれると、状況によっては社会的に助けが欲しい場合もあって。子どもが突然熱を出して、奥さんも今は動けない、でも「誰か助けを呼ばなきゃ!」という時に顔なじみの家族が身近にいると救われることがあるんです。子どもが熱を出した時に、選択縁の仲間が助けてくれるにはちょっと距離がある。やっぱり、自分が弱い存在になり得るかもしれない時には、リアルに顔が見えるご近所さんが必要だということは感じていました。
肩書「コミュニティマネージャー」の考え方。
中村:元『greenz.jp』編集長の兼松佳宏さんの著書『beの肩書』はご存知ですか? 兼松さんは数年前から自分に「beの肩書」を付けようおっしゃっています。仕事って「do」じゃないですか。「何をやっている人ですか?」と聞かれて「ソトコトの編集です」と答えるような仕事上の肩書は、その仕事の内容によって変わっていきますよね。ですが、「beの肩書」は自分の在りたい姿としての肩書を自分でつけていいという考えなんです。『ツクルバ』でも「beの肩書」ワークショップをやってもらったり、一時期、自分の名刺の裏側に「beの肩書」を入れられるようにしていました。例えば、とある会社のセールスマネージャーをやっているけど「beの肩書」としてはコミュニティマネージャーをやっているという人もいるかもしれない。コミュニティ的なアプローチで仕事をするというスタンスであれば、コミュニティマネージャーには常になり得ると思います。なので、「doの肩書」とは別に「beの肩書」としてコミュニティマネージャーがあるというのも僕は全然成立すると思うんです。たぶんそこを一致させようとすると、コミュニティをマネージメントすることでいかにお金を稼ごうかという話になるので、結構辛くなってくるんですよね。週末はコミュニティマネージャーで平日は別の仕事をしている、とかではなく、本業があってそれをコミュニティマネージャー的にやるという二段構えというのが楽しいと思います。コワーキングスペースのコミュニティマネージャーだって、本業としてやっていることは会議室の清掃や受付管理の仕事ですが、コミュニティマネージャーという肩書があるから「せっかくだから誰かと誰かをつなごう」というふうに振る舞うことができます。それを考えると、むしろ「beの肩書」のほうがよっぽど大事なんじゃないかと思います。
川村:お話を聞いていて、自分は仕事、場所、お金といった言葉に縛られていたような気がして、今回のインタビューでそこから解き放たれたように感じました。
どんな仕事でもコミュニティ的なアプローチを意識して取り組むことで、より豊かな精神状態で仕事をできると思いますし、人と人とをつなぐという自分の思いも実現できると思いました。今回のお話をもとに、改めて自分の将来や本当にやりたいこと、自分の考えるコミュニティについて考えたいと思います。
ありがとうございました!
なかむら・まさひろ●1984年生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。建築家・塚本由晴氏のもとで学ぶ。不動産ディベロッパー、ミュージアムデザイン事務所、環境系NPOを経て、2011年、株式会社ツクルバを共同創業、代表取締役就任。2019年東証マザーズに上場、2021年8月より取締役。株式会社KOUの創業に参画し、2019年には同社代表取締役に就任。対話サポートツール「emochan」を開発中。プライベートでは、感謝経済でまわる助け合いの集落づくりを進めている。著書に『自分とつながる。チームとつながる。』(アキラ出版刊)ほか。
やがて文化になる事業をつくり続ける場の発明カンパニー。「『場の発明』を通じて欲しい未来をつくる」というミッションのもと、デザイン・ビジネス・テクノロジーをかけあわせた場の発明を行っている。事業内容は、中古・リノベーション住宅のマーケットプレイス「cowcamo(カウカモ)」の企画・開発・運営、シェアードワークプレイス「co-ba(コーバ)」や空間プロデュースを含む不動産企画デザイン事業。