曇りや雨の日、あるいは夜になって部屋が暗くなったら、パチンとスイッチを入れて“あかり”をつける。私たちにとってはごく当たり前のことですが、アジアやアフリカには電気が通っていないため無電化地域がまだ多く、電灯を使うことができません。とくに農村部では電化が進んでおらず、アフリカの農村部での電化率は30%以下というデータもあり、世界では約8億人に電気が届いていません。しかも無電化地域は貧困人口が多いこともわかっています(*1)。そんな地域で、あかりとして使われているのが灯油ランプ。手入れが簡単でランプ自体の価格が安いため広く使われていますが、明るさはあまりにも心もとなく、周囲をわずかにしか照らしません。臭いもきつく、煙が発生するため、長く使い続けていると健康を害する人も少なくありません。そこで無電化地域に「ソーラーランタン」を届け、あかりを灯すことで貧困解消につなげる活動を10年以上にわたって行なっているのが、パナソニックです。
はじまりはウガンダからの手紙
「無電化地域でくらす人々は、灯油ランプが放つ黒い煙による健康被害に悩まされています。パナソニックの太陽電池はその解決手段となります。ぜひ力を貸してください」。
パナソニックは、ウガンダの人々のために再生可能エネルギーを使った照明器具、ソーラーランタンを新たに開発し、ウガンダへと届けました。その背景には、パナソニック創業者、松下幸之助の理念がある、と語るのは同社企業市民活動推進部無電化・学び支援ユニットのユニットリーダー、多田直之さんです。
「幸之助は、企業の使命は社会から貧困をなくすこと、と言い続けました。あかりを途上国に届けることは、日本人の暮らしに電気製品を普及させた家電メーカーとして行うべき社会貢献だと考えています」
この寄贈をきっかけに、2013年から5年にわたりあかりのない人々に10万台のソーラーランタンを届けるプロジェクトを開始。国際機関やNPO/NGOなどさまざまなパートナーと連携して届けた国は、アジア、アフリカ、中南米など30か国に広がり、その後は「LIGHT UP THE FUTURE(LUTF)プロジェクト」に受け継がれています。
あかりがあることで暮らしが変わる
「あかりがあることで教育、健康、収入向上など、貧困から抜け出すための選択肢が増えます」と多田さんは説明します。「なによりも、真っ暗だった村にソーラーランタンが灯ったとき、集まった村人たちが『わーっ』と歓声を上げました。いかにあかりが必要とされていたのか実感できました」。
(*3) ミャンマーの寄贈先団体セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンにより提供。2015年から2017年の2年間の出生数より推計。データは保健当局数値を参照。
(*4) ミャンマーの寄贈先団体Seatanarによる集計。年度末に行われる進級テストの9年生の合格率。2014-15年度は23人中13人に対し、2016-17年度は32人全員が合格。
(*5) 寄贈先団体CALICOによるインタビュー調査。1人あたりの労働時間が1日あたり1時間増え、収入は多い月で1,000ルピー程度、年間で3,600〜6,000ルピー増加し、平均年収の約40%程度に相当。
「カンボジアのある村の人からは、『夜、家族みんなで食卓を囲んで食事ができることがうれしかった』と聞き、ソーラーランタンが、私たちの予想を超えた役割を果たしていることを感じました」と多田さんは語ります。
企業の枠を超えて協力を
LUTFプロジェクトは、あかりがあること、電気が通ることによって、人々の生活にどれだけのインパクトを与え、貧困の連鎖を断ち切ることができることを、実例をもって示しています。
こうした取り組みの理解者を増やし、企業の枠を超え、より多くの人の力でソーラーランタンを届けるために始まったのが「みんなで“AKARI”アクション」です。古本やCD、DVD、貴金属・ブランド品などを寄付すると、ソーラーランタンが途上国へ寄贈される仕組みです。
「寄付による社会貢献はハードルが高いと感じる方も多いと思いますが、リサイクル感覚で寄付していただいた古本やDVDなどがソーラーランタンになる。自分の行為の先に、あかりで笑顔になった子どもたちがいると思える仕組みなので、誰にでも取り組みやすいと思っています」。今後は、より参加しやすい仕組みを考えたい、と多田さんは意欲的に語ります。
無電化地域にあかりを灯す--こういうと壮大で個人にはなにもできないと思ってしまいがちだが、LUTFプロジェクトの10年以上の歩みを見ていると、小さなアクションを積み重ね、仲間とともに実行していくことで社会は確実によくなっていくと思えてきます。
あなたも途上国にあかりを灯す仲間になってみませんか?