延期でも火は消えない!あなたの地域で燃え続ける東京大会とのつながりとは?

延期でも火は消えない!あなたの地域で燃え続ける東京大会とのつながりとは?

「ホストタウン」を知っていますか? 「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京大会)」に参加する国・地域を、日本の自治体がサポートし、交流する取り組みです。2021年に延期になった今、ホストタウンの取り組みはどうなっているのでしょうか?内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局企画・推進統括官の勝野美江さんに伺いました。

日韓ワールドカップの交流をヒントに史上初のプロジェクトが始まった?


勝野様
内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局企画・推進統括官の勝野さんにお話しを伺いました。

ソトコト:ホストタウンって何ですか?


勝野さん:東京大会に参加する国・地域のアスリートや関係者、住民などと、日本の自治体や住民の皆さんがスポーツをはじめ、文化や経済などのさまざまな分野で交流することを目的につくられた取り組みです。


大会は主に東京で行われますが、その盛り上がりや楽しさを全国で共有するためにどんな取り組みができるかを話し合いました。02年に開催された日韓ワールドカップでは、人口1300人ほどの大分県の旧・中津江村(現・日田市)が、アフリカのカメルーン代表のキャンプ地となって選手団を受け入れ、和やかな交流が行われたことが大きな話題になりました。その交流は、18年が経つ今も続けられています。そんなふうに、参加する国・地域と日本の自治体の素晴らしい交流が東京大会でも生まれ、育まれると素敵ですよね。


ホストタウンになることで東京大会が「自分事」に!


ソトコト:ホストタウンになる自治体の狙いは?


勝野さん:ホストタウンの登録自治体数は503、受け入れる相手国・地域の数は176(2020年9月30日現在)です。自治体がホストタウンに登録する目的や狙いはさまざまで、姉妹都市である相手国との国際交流をより深めたいとか、立派な体育館やプールを利用して力を入れている競技をもっと盛んにしたいとか。子どもたちのためにホストタウンになろうとされる自治体も多いです。とくに地方では、東京大会が遠いところで行われるものと感じられ、「ピンと来ない」とおっしゃる方もおられます。それが、ホストタウンになり、子どもたちが海外のアスリートや住民たちと交流することで、東京大会が「自分事」になるのです。普段は体験できない価値ある経験が得られ、子どもたちの可能性も広がるはずです。


ホストタウンは今も受付中です。自治体が相手国・地域と直接話して登録に至る場合もあれば、私たち事務局が紹介してエントリーされるなど方法はさまざま。鹿児島県の与論島(与論町)や沖永良部島(和泊町・知名町)などの離島では私たちスタッフが仲介役となって中南米のカリブの国々を紹介させていただき、ホストタウンになっていただきました。カリブの国の島々は海がきれいで珊瑚礁に囲まれ、ヤギを飼い、サトウキビを育てているなど与論島や沖永良部島との共通点も多かったので、心が通じやすいのではないかと思い、ご紹介しました。


中学の新体操部とブルガリア代表チームが一緒に練習?


山形
新体操交流(山形県村山市)

ソトコト:ホストタウンではどんな活動が行われていますか?


勝野さん:例えば山形県村山市では「市の花がバラ」、ブルガリアの「国の花がバラ」であることから、ホストタウンとして登録されました。新体操の代表チームは2017年、18年、19年と3年連続で東京大会の事前キャンプ「ROSE CAMP」を実施し、他にも市民ボランティア、救護体制としての医師会・歯科医師会・薬剤師会との連携、各地域のおもてなし交流、市内の小・中学生との交流、公開演技会、300人以上が登録するファンクラブの結成など幅広い交流が行われています。


村山市立中学校に県でも有数の新体操部があり、その顧問の先生がブルガリアに友人がおり、同国新体操のファンだったこともあって、同国新体操の代表チームのキャンプ地に立候補しました。キャンプ期間中、新体操部員たちは代表選手と一緒に練習にも参加しバレエのレッスンを取り入れた練習に大きな刺激を受けました。その後、中学生たちはブルガリアを訪れ、新体操クラブチームと一緒に練習し、クラブの子供たちの家庭にホームスティをするなどの交流を行い、貴重な時間を過ごしました。


交流
おもてなし交流(山形県村山市)

さらに、交流のきっかけをつくった顧問の先生は教師を早期退職、市役所のホストタウン担当者になり、むらやま新体操教室(クラブ)を立ち上げ、将来のオリンピアン育成をめざす活動を始めています。加えて、ブルガリア新体操の元代表選手を「スポーツ国際交流員SEA」として村山市に招きコーチとして子供たちに新体操を教えてもらっています。


数年前、村山市の農家がブルガリアから持ち込んだダマスクローズというローズ・オイルを取る品種の苗を植えました。今年、見事にたわわな花を付け、ブルガリアから小型のローズ・オイル精製機も導入し、まずは日本国内初となる村山産の「ローズ・ウォーター」、そして将来「ローズ・オイル」の製品化にチャレンジしています。


また、代表チームが宿泊するホテルではブルガリア料理を提供したり、大手食品メーカーが村山市と提携して商品開発を行うなど、さまざまなかたちの交流が進められています。
ただ、現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で直接的な交流は難しいため、ファンクラブが中心となってブルガリアの国歌を覚え、応援動画を制作して代表チームに送り届けたりしています。そのことがブルガリアの国営放送のニュース番組で紹介されるなど友好関係は続いています。


ホストタウンの高校生がGAPの認証食材で料理を!


ソトコト:選手村に提供されるGAPの認証食材って何ですか?


GAP
試食会(宮崎県×延岡市×延岡学園高等学校×宮崎県立農業大学校)

勝野さん:東京大会の選手村に提供される食材は調達基準が定められています。衛生面や環境面、労働面といった持続可能性に配慮したものを使用します。農畜産物の調達基準にはGAP(Good Agricultural Practice/農業生産工程管理)認証が位置付けられています。その取り組みをホストタウンにも広げようと、GAP食材の使用を推奨しています。さらに、2019年度には全国の農業高校などが参加する「GAP食材を使ったおもてなしコンテスト」を開催し、参加チームは自分たちがつくったGAP食材と地域産の食材を組み合わせ、相手国・地域の選手の食文化や競技の特性にも合った料理を、知恵を絞りながら考案しました。


GAP
試食会(鹿屋市×学校法人前田学園 鹿屋中央高等学校×鹿児島県立鹿屋農業高等学校)

東京オリンピック・パラリンピック担当国務大臣賞*を獲得した鹿児島県鹿屋市の鹿屋中央高等学校と県立鹿屋農業高等学校は、市内の小・中・高等学校やイベント会場等で投票を呼びかけたそうです。そのアピールがGAP食材の認知度向上やホストタウンの理解促進、そして、高校生が頑張っていることも知ってもらえるという、さまざまな効果を生んだと思います。
*大臣賞は鹿屋市×学校法人前田学園 鹿屋中央高等学校×鹿児島県立鹿屋農業高等学校と宮崎県×延岡市×延岡学園高等学校×宮崎県立農業大学校2チームが受賞。


延期になったからこそ育めるオンラインでのコミュニケーション! 


三沢市とカナダ車いすラグビーチームによるオンライン交流
三沢市とカナダ車いすラグビーチームによるオンライン交流

ソトコト:新型コロナウイルスの感染拡大によって、交流の状況は大きく変わりましたか?


勝野さん:新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で大会が延期され、各国・地域の代表選手たちは来日してキャンプを行ったり、自治体の住民と交流を図ったりはできない状況にあります。唯一、群馬県前橋市に滞在しているアフリカの南スーダンの陸上競技選手たちは2019年11月から継続して合宿を行っています。本国では、紛争などによって十分な練習環境が確保できないからです。先日、市は2021年の東京大会終了まで受け入れを継続すると発表し、ふるさと納税でも滞在費の支援を募るそうです。


徳島商業国歌指導
徳島商業国歌指導

ただ、多くの自治体で予定されていた20年度の合宿や交流会などは中止になっています。公表された21年の東京大会の競技日程をベースにしながら、事前合宿や大会後の交流をどう行うかなど、相手国・地域の選手団と約束をしなおした自治体もあれば、これから交渉する自治体もあるという状況です。


しかしながら新型コロナウイルス感染症の影響を受け、今だからこそできるオンラインによる交流が各自治体で盛んになっています。カナダの車いすラグビーの代表チームのホストタウンである青森県三沢市では、チームと共同でFacebook、Instagramページを立ち上げ、過去の交流や情報を発信しあっています。徳島県の徳島商業高校は、東欧のジョージアという国のパラリンピック競技の代表チームのホストタウンでもあります。パラフェンシングの世界ランキング1位の選手をオンラインでインタビューした映像を編集して公開したり、選手が来日した暁にはジョージアの国歌を合唱しようと高校生が県民に教えて回るなど、延期になったことを肯定的に捉え、1年間を選手との対話や住民とのコミュニケーションを深める時間に生かそうとしています。


あなたが住む自治体はホストタウン?調べてみよう!


サイト


ソトコト:自分が住んでいる地域がホストタウンかどうか、気になりますね。


勝野さん:延期になった時間を有効活用するための一環として、事務局では「Light up HOST TOWN Project」というホストタウンについて知っていただくための日本語版・英語版のあるウェブサイトを立ち上げました。ホストタウンを検索する機能もついているので、ぜひ皆さんがお住まいの自治体や故郷の自治体が登録しているか、どんな取り組みを行っているかを調べてみてください。東京大会に出場する日本や海外のアスリートからのメッセージ動画も順次、アップしています。それによって、ホストタウンの持つ力や可能性を多くの皆さんに知っていただき、アスリートと応援する住民の皆さんたちとのつながりを感じてもらえたらうれしいです。


大会が開催される2021年は東日本大震災から10年の節目を迎えます。事務局では、東日本大震災から復興した姿を見せつつ、これまでの支援への感謝を伝えるために、支援をしてくださった相手国・地域の方々や大会関係者との交流を行う自治体を「復興ありがとうホストタウン」として活動をサポートしています。
また、パラリンピアンを受け入れる「共生社会ホストタウン」を増やす取組に力を入れています。パラリンピアンを受け入れる際には独自のケアや工夫が必要となりますが、受け入れることによって、障害者の対応やインフラ、移動面での改善など気づく部分がたくさんあります。その気づきは、ユニバーサルデザインのまちづくりや心のバリアフリーの取り組みに生かされるはずです。ぜひ多くの自治体に取り組んでいただきたいです。


東京大会が終わっても「遠くの親戚」として継続的な交流を!


交流写真
交流事業(書道体験)の様子 (東京都八王子市)

ソトコト:東京大会が終了したら、ホストタウンも終わるのですか?


勝野さん:東京大会が終われば「さようなら」ではなく、大会後も交流を継続してほしいと願っています。継続していくために大切なことは、私は2つあると考えています。


一つは、ホストタウンとサポートする国・地域との関係は、「遠くにいる親戚」のようであってほしいです。テレビでその国・地域のことがニュースになっていたら関心を持って見たり、例えば、大阪府で2025年に万国博覧会が開催されたり、26年に愛知県でアジア競技大会が開かれたりするときに、大会へ参加するだけでなくホストタウンとして交流した自治体に足を延ばして立ち寄るとか、あるいは、ホストタウンから大阪や名古屋に応援に行くとか。肩肘張らずに、親戚のような気軽な交流を末永く続けてほしいです。


もう一つは、「私たちの自治体は教育を主眼に置いた取り組みや交流をホストタウンで行いたい」というような、テーマとなる取り組みを持つことも大切です。そうすることで、目的を持って活動を継続できますし、それが自治体の未来への投資にもなります。


ソトコト:最後に読者にメッセージをお願いいたします。


交流写真
イギリス代表チームとの交流 (神奈川県川崎市)

ホストタウンでは様々な交流イベントに参加してくださる住民やボランティアを募集している自治体もたくさんあります。『ソトコトオンライン』の読者の皆さんも、ウェブサイトでホストタウンのことを知り、関わってみたいと思われたら、ぜひ参加して、東京大会を「自分事」にしてください。
どこか遠くの存在だった東京大会に関わりが持てるきっかけが身近な地域にひろがっています。ぜひ自分の故郷や今、住んでいる地域を検索してみてください。


自治体の広報誌にも情報が掲載されているでしょうし、直接、役所の窓口を訪ね、「何か手伝いたい」とおっしゃってくだされば担当者も喜ばれると思います。意外な国との繋がりで世界や地域の見え方がガラリと変わるきっかけになるかもしれません。


あなたの町はどの国のホストタウン?

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