さおりさん「塾を始める時には、やっぱりいろいろ悩みました。大仙市は豪雪地域なので冬場の塾への送迎はかなり親御さんの負担です。その苦労を減らして、子どもたちの学習の場をつくるためにオンラインで学習サポートをすることにしました」

今年で5年目を迎えたFrasco。開校当初は、今ほどオンライン指導は認知されておらず、生徒募集では苦労することも。大変なことも多かったそうですが、地元の人たちに支えられ少しずつ軌道に乗ってきました。口コミで評判が広まり、今では秋田県全域に生徒を抱えています。

さおりさん「Frascoを始めてみて感じるのは、地域の方が本当に親切なんです。親御さんや地元の方は、私たち夫婦のことを心配してくれて、差し入れをくれることもあるんですが、近すぎず離れすぎず、いつもいい距離感で接してくれます。人が優しいのは大仙市の魅力のひとつだと思います」

Frascoの学習方針は、子どもたちに学ぶ楽しさを知ってもらうこと。学習サポートでは一方的に教えず、生徒の考えを止めないように心がけています。じっくり時間をかけて、ひとりひとりに向き合えるのは個人塾ならではの取り組みです。

さおりさん「進路やテストの点数ももちろん大切ですが、子どもたちには学びを通して、自分で考えて行動できる大人になってほしいと思います。大仙市の子どもたちは素直でまっすぐな子が多いです。これからこの地域を支える子どもたちには、素敵な個性を失わず、大きくなってほしいですね。いつも、たくさんの方に親切にしてもらっているので、私たちはこの場所から、子どもたちの成長に関わることで恩返ししていきたいです」

岩手県矢巾町出身のさおりさんは、大学進学を機に秋田で暮らし始めました。就職で一度秋田を離れますが、全国を旅したり、年齢を重ねるごとに自然に囲まれた生活が恋しくなり、夫婦で大仙市への移住を決意します。登山や農業、写真や音楽など趣味を楽しみながら夫婦で秋田暮らしを満喫中です。

さおりさん「秋田は私の理想の場所です。大仙市に興味を持つようになったのは『大曲の花火』がきっかけで、言葉にならないくらい素晴らしいです。でも、大仙市の魅力は花火だけじゃないんです！

見渡すと果てしなく続く田んぼ、雄大な山々に心奪われました。豊かな暮らしというのは、こういう場所で生きていくことなのかなと感じたんです。大仙市への移住を夫に相談し、半ば強引に話を進めました。いつも味方で歩んでくれる彼には本当に感謝しています」

さおりさん「自然が豊かで心穏やかに過ごせるのもそうですが、大仙市の人って本当に優しい。1人で買い物してると、よく地域の方が話しかけてくれるんです。野菜のことや料理のこと。おせっかい過ぎず、あいさつ程度の会話ですが、親元を離れて暮らす私にはちょうどいい距離感。特に女性は、孤独を感じられずに過ごせる環境だと思います」

塾名の「Frasco」は理科の実験器具フラスコからとったもの。性別や国籍にとらわれず、いろんな人が集まって化学反応が起こる場所になればという願いを込めています。

さおりさん「今は、理想の場所で公私共に私らしい生活ができています。今後は、少しずつお世話になった人や地域に恩返ししたいです。これから大仙市に移住してくる方の手助けもしたいと思っています。塾の場所は駅から遠くないですし、近所にはシェアオフィスもあります。知り合いのなかには、移住者や起業の先輩はたくさんいるので、私たちはこの場所で移住者と地域を繋げる役割を果たせればとも思います」

2019年に大仙市に移住して、一から夫婦で塾を起業した相馬さおりさん。昨年度は、大仙市が主催したオンライン移住体験ツアー「女性が花火のように輝き活躍するまち」に参加し、先輩移住者として暮らしや仕事について語っています。

雪国の生活は、女性には過酷な環境かもしれません。しかし、さおりさんはその状況を悲観せず楽しむ方向に思考を転換。仕事ではオンライン指導に注目し、プライベートでは雪を楽しむためにカメラを始め雪のある生活を楽しんでいます。大変な時は、さまざまな人に助けてもらいながら、この地で暮らす土台をつくりました。今年度から大仙市では、女性起業家のコミュニティが結成されました。繋がりを強化し、情報交換できる場として大仙市の女性活躍を応援しています。今後も、移住者の起業や女性の活躍が期待されます。

【Frasco】
秋田県大仙市大曲丸の内町7−18
公式HP：https://frasco-akita.amebaownd.com/

文・撮影　髙橋蕗子