MENU

人々

【水野誠一 特別インタビュー】創業者の息子、フジテレビを語る<後編>~日枝氏の失態はいつまでも辞めなかったこと~

水野誠一

水野誠一

  • URLをコピーしました!

フジテレビの最大の問題は「メディアの私物化」と一向に浄化しない「上納文化」だった。フジテレビ創業者水野成夫の実子で、ソトコト総研の代表、株式会社IMA(インスティテュート・オブ・マーケティング・アーキテクチュア)代表の水野誠一は、創業の理念が失われたフジテレビに半分応援、半分批判で物申すインタビューの後編。<前半から読む>

目次

日枝さんは早く辞めればすごい人だった

—— 水野さんは先日の10時間以上の記者会見などをご覧になってどう思われましたか。

水野誠一さん(以下、水野) 長くやればいいというものではないよね。あの問題の本質をちゃんと理解して、一人が聞けばいいのであって。なんかみんなが自己顕示欲で次から次へと手を挙げて同じような質問をしてというのはね。ああいう記者会見はマスコミのリテラシーの低さを露呈しちゃったね。あれはどちらにとっても大失敗だった。

唯一良かったのは、後半になってようやく日枝さんの去就問題が質問されました。ところが並んでいる幹部の答えが非常にお粗末で、「親戚のおじさんみたいな存在でした」とか(笑)。

—— ある種のバラエティでした(笑)日枝さんの失態はどこにあるんでしょうか。

水野 いつまでも辞めなかったことですね。40年以上君臨してきたわけだからね。それなりに才能がある、冴えてるヒトだとは思いますが、ただあまりにも長すぎましたね。自らの功名を廃らせてしまった。もっと早く辞めておけば「すごい人だった」で終わったはずです。

ただご本人はもう引き際がわからなくなってたと思います。例えば森喜朗さんなんか、本当に彼と仲が良いなら「もうそろそろなんじゃないの。俺でさえやっと引いたんだから」とでも言うべきだったと思いますよ。そばにいた人たちもね「これから先はお任せください。何か悪いことが出てきたら、我々が全て引き受けますから」と言うべきだった。

彼は人事権をもっていて、どんどん視聴率が落ちてきたら社長の首を1年や2年ですげ代えちゃう。そういうことをやり出したら老害です。ところが、自分の進退について訊かれたら、なんと「人事は会社がやることだから自分では決められない」というのには笑ってしまった。

—— 政治家や財界人が集まる場では、日枝さんのところにみんなが集まってくるという状況があったそうですね。

水野 そりゃ、社長の首のすげ替えが早かったら、社長の顔なんか誰も覚えてやしない。長くやっているから、知名度が高くなるんですよ。それはどこの業界でもおんなじ。あんまり意味のあることじゃない。

メディアは“現代化”する必要がある

—— いったいどうしたら、これからのフジテレビは立ち直れるんですかね。

水野 フジテレビ問題というのは、もはやフジテレビだけの問題ではなくて、日本の経済界全体に共通する問題ですよね。

まずね、メディアというのは、絶えず“現代化”していかなきゃいけない。

“近代化”は流行の流れに乗って自然にできるものなんです。でも“現代化”するということは、経済の中核を担う20~40代世代にとって新鮮に映るかを探っていかなきゃならないということなんです。見ての通り、今テレビがやっていることは、昭和の時代から変わっていないんです。相変わらずお笑いタレント中心のバラエティ番組。むしろ劣化さえしている。

—— 結局、60代以上しかテレビを観ていないから、その視聴率を上げるためにすり寄った番組をつくっているんですね。政治家が選挙で出す公約と同じで。

水野 60歳以上がメインターゲットでは、国際競争のなかで勝っていくこともできないですよね。

他の業界から経営がわかる人を連れてきて社長に

—— フジテレビのなかでも、そういう危機感をもっている人たちがいるんじゃないかとは思いますが。

水野 昔からのフジテレビのありようを把握しつつ、変えようとしている人材はいるとは思いますよ。

西武百貨店から転職した金光修(フジメディアホールディングス代表取締役)なんかは、『カノッサの屈辱』や『料理の鉄人』という常識破りの番組をやったり、『私をスキーに連れってって』などのヒット映画をつくったりしていましたよね。彼がやろうとしたのは「テレビを観ない人に観せたい」ということだったと思うんです。自由に発想する、常識にこだわらないで新しいメディアのあり方を求める。そういうことを許容してきたフジテレビの文化も多少なりとも残っているんではないでしょうかね。

そこには何かしらの、現代化したフジテレビらしさをつくり出せる。

だからね、テレビ局は腐ったと言っても、なかには若くて才能と志のある人もいるはずなんですよ。もはやオワコンと呼ばれるテレビ局に「何かを変えよう」と思って入ってきている毛色の違う人が、一人や二人はいるはず。ノリがいいだけの営業マンになっちゃダメだと思っている人。僕は日枝さんというのはそこはわかっていたと思うんです。自分が言うことの全てにはイエスと言わない人の存在。そういう人が大事なんです。だからそこで日枝さんにイエスとしか言わない人はみんな一掃した方がいい。

—— 金光さんのように、他所から連れてくるというのはどうでしょうね。

水野 全然違う世界から連れてくるのはありですね。マスコミじゃなくて、ベンチャーの経営者とか、メディアの外にいる人の違う視点が必要でしょう。生活に対する好奇心とか、経済に対する好奇心をもっている人を連れてくる。つまり、前職がなんであったとしても関係なく、経営というのがわかる人をね。

—— 水野さんなら、どう経営されますか。

水野 結局、フジテレビの経営はほとんど不動産で成り立っているんですよね。利益という意味ではね。そうしたら、視聴率がいいとか、コマーシャル収入があるとかないとか、関係ない。じゃあ、むしろ、コマーシャルありきという経済原理で番組をつくらないようにしたらいいんじゃないかな。やれるところまで今のままコマーシャルなし(笑)。例えば、最近忖度ばかりで堕落したNHKよりもっとシニカルな番組をつくる。

—— サントリーは鳥井家に戻し、トヨタも豊田家に戻しというように、創業家に戻して最初の信念が引き継がれる、というようなこともあるとは思うんですが。水野さん、いかがですか。

水野 やはりマスメディアはメーカーとは違うんですよ。一応公共のものだから。それをやっちゃあ、物笑いですよ。

小売業なんかは、創業家の客に対する文化や歴史や哲学がいつまでもあっていいのです。でもメディアというのは、公共のもの。僕にはテレビの社長はできません。百貨店の現代化ならできるかも知れないけどね。

<前半から読む>

インタビュー/構成:森綾 http://moriaya.jp/

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね
  • URLをコピーしました!

関連記事