「ただ住むだけじゃもったいない」「自分たちの住むまちをおもしろがる」そんな掛け声で集まったローカルを思う存分楽しみたい3人(北海道より畠田大詩・東京より竹中あゆみ・福岡より中村紀世志)の新連載。第二回は、『ソトコト』に在籍している編集者の竹中あゆみが、東京で暮らす日常を写真とことばでお届けします。
新参者ですが、どうぞよろしくお願いします。
今回の書き手:竹中あゆみ
思い返せば、私は今まで自分の住むまちに “関わった”ことがない。
生まれこそ大阪府だが、物心ついた頃には千葉県に移り住んでいた。小学生から社会人の数年まで暮らした家は、県の記録によると1964年から動き出した都市づくり事業の一環でできた新興住宅地に建てられた団地。引っ越してきた当初周りにはまだまだ雑木林や空き地が多く、ベランダにはカブトムシが飛んできたり、地域の打ち上げ花火を遮るもののない景観で楽しんだり、道路脇に大きな雪だるまをつくって遊んだりと、いわゆる大自然ではないが、程よい豊かな自然の中でのびのびと暮らしてきた。
これまで宅地として使われていなかった土地ということもあり、小さい頃の私の行動範囲内には古くからの続くお店や商店街などはなく、このまちの文化や歴史に触れることは少なかったように思う。次第に盛んになっていく駅前や大型ショッピングモールの建設、進んでいく宅地化など、まさに発展していくまちこそが、私の日常であり“普通”だった。
今やカブトムシはいなくなり、ショッピングモールは特段珍しくもなく、馴染みのお店もなかったので、わざわざ「うちのまちに来てよ、連れて行きたいところがあってね」というお誘いをしたことはない。これからこのまちがどうなっていくのかなんて、日々急激に発展しているまちの中で私には考える発想もなかった。
大学生、そして社会人になって色々なところに旅するようになり、次第に単なる観光ではない、土地と人のおもしろさに出合うことが増えた。同時に、自分のまちをおもしろがっている人の話や熱量に触れて、ただただ憧れを持つようになった。こういうところに暮らし、関わっていたらどんなにおもしろいのだろうかと。
私も今住むまちに関わってみたい――。まるで海外から帰ってきた際に、外国語をまた勉強し、「いつかは海外で暮らしてみたい!」と息巻くのと同じように、まちと人の熱気に当てられて、何度もそう思ったことがある。どうやってきっかけをつくればいいのかと相談した際にもらった「行きつけの店をつくり、顔を覚えてもらうところからは?」というアドバイスを実行するため、仕事帰りに一人、居酒屋に行ってみたりもした。が、こんなときに限って人見知りが爆発。店主と2、3話をするだけで終わり、お酒を飲むわけでもないので長居する理由もなくなり退散することもしばしば。さらに居酒屋に通うというのはなかなかの出費となり、どんどんと縁遠くなっていた。小さなやる気が潰れると「東京でまちに関わるのは、私には難しいこと」「仕事が忙しい」と勝手に線を引いていった。
そんな東京生活を過ごす中で昨年、墨田区に引っ越すことに。もともと同僚が墨田区内に住み、地域に関わるプロジェクトに参画していたこともあって、地元の不動産屋・『丸善商事』の角田晴美さんをつなげてくれたのだ。コロナが少し話題になってきた大変なタイミングだったのだが根気よく探していただき(本当に感謝しています!)、空気のよく通る素敵な部屋を見つけることができた。またその同僚は、墨田区生まれで地域のさまざまなプロジェクトに関わっている細田侑さんと、『東向島珈琲店』のマスター・井奈波康貴さんも紹介してくれた。みんな、このまちの玄関のような人たちだ。
細田さんは、「今日みんなでご飯たべるけどよかったら」「公園でイベントをやるよ」「紹介したい人が!」などちょこちょこ気にして声をかけてくれた。こういうありがたい人がいるから「小さなやる気」が潰されずに育っていく。
また、おいしいのはもちろんのこと、井奈波さんの人柄や居心地のよい空間に惚れ何度か通う中で、『東向島珈琲店』はかねてより熱望していた“馴染みのお店”となった。「カウンターにどうぞ」とマスターの真向かいの席に案内していただいたときには、勝手に何かまちに迎え入れてもらえたように思い、嬉しく、小躍りしたのを思い出す。カウンターに座ってマスターとお話をしているといつだって地域の方がきて、「こんにちは」「これ、いいですよね!」「今度またね」という会話が繰り広げられる。そうそう、これこれ! こんな交流があの時の居酒屋で求めていたことなんだ。そしてこんな居場所を求めているのは私だけではないんじゃないだろうか。
そうやって少しずつ知り合いが増えていくようになると、どんどん素敵な場所やプロジェクトが見えてきて、いつの間にか知人に「墨田にぜひ!」と言っている自分がいた。だからこそもっとこのまちを知りたいとも思うように。
ただ暮らすまちから、関わるまちに。いつか、「うちのまちは〜」と言える日が(言えるほど役に立てる日が)来たらいいなと思いながら、墨田区にそして東京というまちに関わって、おもしろがっている様子を外に伝えていきたい。まちに関わっていきたいと思っている人がどんな気持ちで右往左往しているのかも、日本各地の「地元の方」にそっと伝わればいいなという思いも込めて。