書店主のあふれる書物愛と、厳選された本、そして紡がれる言葉の数々。ついつい長居をしてしまう、全国のオリジナリティあふれる本屋さんをご紹介します!
誰かに、何かに出合えるライブ感ある絵本店。ママにやさしい、スペースも充実!
東京都 ブックハウスカフェ 店主 今本義子さん
150軒を優に超える書店が集まる本のまち、東京・千代田区神田神保町で唯一の新刊絵本専門店として子どもたちに愛されている『ブックハウスカフェ』。もともと、この建物は1902年創業の洋書専門店『北沢書店』で、2005年には1階を数社の出版社が出資する『ブックハウス神保町』としてリニューアルするも、17年2月に閉店した。『ブックハウスカフェ』代表で、『北沢書店』の末娘として神田神保町に生まれ育った今本義子さんは、「なんとか絵本の店を存続できないかと、3か月後に『ブックハウスカフェ』をオープンしました」と話す。
インターネット、そして少子化の時代に路面の絵本店を経営することは大きなチャレンジだったが、コンセプトの一つに「出会いのある店」を掲げ、毎日のようにイベントを開催。絵本作家のトークイベントをはじめ、読み聞かせ、手話教室、紙芝居教室、読書会、コンサートなど多彩なイベントを開き、インターネット書店にはない実店舗ならではの「ライブ感」あふれる絵本店として展開している。
そして、『ブックハウスカフェ』は、「明日への言葉」に出合える場でもある。今本さんは、『ビロードのうさぎ』(ブロンズ新社)という絵本からこんな言葉を紹介してくれた。「クリスマスに男の子のうちにやって来たウサギのぬいぐるみ。男の子に愛され、幸せな日々が続きます。でも突然、男の子との悲しい別れが。そのとき、ウサギが流した涙から現れた妖精が言葉をかけます。『さあ いまこそ あなたは ほんとうのものに なるのです』。何かを愛するピュアな心を子どもたちに育んでもらえたら」。
親に読み聞かせてもらえば、その言葉は大人になってからもきっと心に残るはず。家族で一緒に過ごした時間、そのあたたかい思い出とともに。
南阿蘇村の駅舎を村から借りて週2日、営業。客と地域との交流が生まれることも願いながら。
熊本県 ひなた文庫 店主 中尾恵美さん
熊本県・南阿蘇村にある、読み仮名で日本一長い駅名の「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」の駅舎内で、中尾友治さん・恵美さんご夫妻が金曜と土曜に開いている『ひなた文庫』。駅と言っても、田んぼに囲まれたのどかな無人駅。近隣の畜産農家から牛の鳴き声が聞こえてくることもある。「店を開けるたびに、阿蘇の風景に感動します」と恵美さん。学生時代に知り合った同村出身の友治さんの実家の飲食店を手伝いつつ、本に携わる仕事がしたいと思ったが、村には書店も図書館もなかった。ならば、「できる範囲の本屋さんを」と考えていたところ、たまたま観光で降りた白水高原駅の駅舎に心を動かされた。別の駅舎でカフェを営む店主から、「村に駅舎を借りて営業している」と聞き、「自分たちも役場にかけあったところ、承諾してもらえました」と『ひなた文庫』開業の経緯を語る。
恵美さんは子どもの頃、親から本は読みたいだけ買ってもらえた。「小学校で夏休み前に本の注文リストが配られ、欲しい本に丸をつけて先生に渡すと終業式の頃に届くという仕組みがありました。私はたくさん丸をつけたので、持って帰るのが大変。本は束になるとすごく重いと学びました」と笑顔で話すほどの本好きだ。今も寝る前に本を読み、印象的な言葉や場面は翌日、頭のなかで反芻しているとか。
そんな言葉の一つが、谷川俊太郎の詩「からだの中に」。「悩みも悲しみも、自分ひとりが感じているものではないと改めて気づかされました。それを意識することで、行動も変わる気がします。朝、この詩を声に出して読むと、最後の『人はそれ故にこんなにも ひとりひとりだ』という部分で、『今日も頑張ろう』と気分を新たにすることができます」と恵美さんは言う。
開業して4年目。本の販売だけでなく、熊本地震以降は「本屋ミッドナイト」という、夏の夕暮れに星空を眺めながら本について語り合うイベントも開いている。「地震の爪痕が残る南阿蘇ですが、変わらない美しい景色があり、南阿蘇を盛り上げようとしている地域の皆さんがいます。イベントやご来店と一緒に、南阿蘇の素敵なスポットも楽しんでもらえたら」と恵美さん。白水高原駅はまだ不通なので、ぜひ車で訪れてみてほしい。