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サスティナビリティ

連載 | 都市計画家 山崎満広の「明るいまちづくり相談室」 | 6

サステナブルでウェルビーイングなまちづくりって何?

山崎満広

山崎満広

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「明るいまちづくり相談室」の第6回目。今回は地方都市の駅前再開発を請け負うデベロッパーの企画部門で働く、30代前半の担当の方(以下、Aさん)から 「最近よく言われている『SDGs』ですが、未だに何をすればよいのかわかりません。また、ポートランドのような“サステナブル”かつ“ウェルビーイング”なまちをつくるためのノウハウを教えてください」 という相談をいただきました。Aさんが今すぐ実践したくなるよう、 詳しく答えていこうと思います。

目次

理想の未来像を描き、小さな変化を起こしてみよう

ポートランドの街中。

日本でもよく聞かれるようになったSDGsやウェルビーイングですが、都市計画家を生業にする私のもとには、Aさんのように「まちづくりの視点」でいったい何をすればよいのかいまだによくわからないという声がよく届きます。そこで今回は、サステナブルでウェルビーイングなまちづくりの先進地域として知られる、アメリカ合衆国・オレゴン州ポートランドのまちづくりのノウハウを元に、みなさんのモヤモヤに答えていきます。

今、「SDGs」や「サステナブル」、「ウェルビーイング」などを会社の号令として進めている企業も多くなっています。しかしプロジェクトの蓋を開けてみると相変わらず経常利益が先行し、単年度の成果ばかりを求めていることに残念な思いをしている新入社員も少なからずいるのではないでしょうか。

それを目指す経営トップ層と今まで成果を上げてきた古いやり方を固辞する50代、60代の事実上の運営上層部でギャップがあるのは否めないところです。すべてを「サステナブル」に変えるには時間とお金が必要だから 、とりあえず企業は既存のものに「サステナブル」というラベルを貼り付けて商品を売ってしまうことが先決だ、という現象があるのではないかと推察されます。

もし、あなたのいる会社がそのような状況だったら、あなたにできることは何でしょうか? 自分の思い通りに組織を変えることはとても難しいので、先ずは自分が変わることを意識してみましょう。そして、いつか自分が上司の立場になって会社を少しずつ変えていけるように、自分のキャリアを長いスパンで考えてみ ることが重要です 。

一人ひとりが、自分が思い描く会社の理想の未来像を考え、それに向かって少しずつ自分なりの丁寧なアクションを積み重ねていくことで、日々の暮らしの中で徐々に周囲に認知してもらう。そして周囲の人がそれに影響を受ける。自分の小さな努力は微力ですが、微力は無力ではないのです。

このような小さな変化が本当の「サステナブル」な社会を目指すための大きなうねりへと変化していきます。

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「サステナブル」を“自分ごと”にするアクション

自分ごとにできていなければ、「サステナブル」なまちづくりを叶えていくことは難しいのではないかと感じています。

例えば「ペットボトルをやめてなるべく水筒を使う」とか、「公共交通機関を使って移動する」とか「その地域ならではのものを買う」など、日常からサステナブルな生き方を心掛けてみる。流行りのファッションやワードに乗るのではなく、人にどう思われてもその行動を持続する強い精神を持つことが必要です。その気持ちと行動は、次第に周囲にも拡がっていきます。

また、みなさんは「ご近所さん」のことをよく知っていますか? 隣人や家族を愛することや地球を大事にすること、普段使いであるものに感謝をすることなど、身の周りのものごとを知り、思いやることは、サステナブルを自分ごとにするための最も大切なアクションです。

「0地点」から周囲との距離感や関係性をイメージする

まずは0地点にいる自分を囲んで、そこから円を広げてみましょう。そこに存在する人々の距離を測っていくと分かってくることがあります。中心に自分、そして次に家族、そして友人、知人、そして仕事の知人というように自分からの輪は広がり、自分からの距離感が分かってきます。

心の距離だけではなく物理的な距離もあります。家、そして地域、そして国、世界といった中から一番近い距離にあるのが自分の住む地域の人です。「サステナブル」の意味から地域の関わりは重要なのですが、今の日本、特に都市部においてはその関わりが薄れてきていることが、“サステナブルであること”を難しくしている要因の一つになっています。地域のイベントの顔出しや、地域を美しい景観にするための清掃、防犯の意識、地域の人たちとの挨拶などに心を配ることも「サステナブル」の大事な要素だということも覚えていてほしいと思います。 

地域のつながりがもたらすものは、さまざまな年代の方々との交流であり、地域の歴史の流れや風土の理解であり、そういった関わり合いから自然な世代交代ができるようになるのが理想です。もしそれが難しいならば、まずはイベントなどに積極的に参加をするだけでもよい距離感と関わり方を構築するチャンスになるでしょう。

コミュニティが人とまちを育てていく

「コミュニティ」は顔を合わせることから始まります。

何かあればすぐに助け合えるようなつながりが「コミュニティ」の最も大事な要素のひとつです。自分が生活している一番身近なところに居心地の良い関係をつくることができたら、それが、よいまちづくりへの力強い第一歩になることを知らない人が意外と多いです。

また「コミュニケーション」とは情報を共有するということですから、世間話をしながら自分が見て感じた地域の出来事や思いを共有することで信頼関係が生まれてきます。そこで気づきがあり、新しいものやアイデアがつくり出される。それが「イノベーション」の種になるのです。それは案外日常のちょっとしたことから発見できるところでもあります。それは全て「頻度」と「信頼関係」があってこその現象ですね。

居心地のいいコミュニティが「ウェルビーイング」につながる

地域やコミュニティに属する場合、どうしてもそこに「慣れない」「なじめない」という方もいると思います。もし自分の居場所でくすぶってしまうときは、生活する地域を変えて、新しい環境に身を置いてみてはどうでしょうか。

私も地元の高校を卒業する時に進学も就職もできず、日本のレールの敷かれた社会に馴染めず、思い切ってアメリカに身を置いたことで新しい環境とコミュニティの中で自分を開発し、成長することができました。自分自身がウェルビーイングであることは大切です。その結果、今の自分が存在しているということを身をもって感じています。

どのような環境に身を置くかはとても大事で、環境によって物の見方や感じ方はだいぶ変わります。今自分は閉塞感にさいなまれていると感じている人は移住してみるのも一案として考えてみてください。

また、逆に今いる場所に腰を据えて、自分がそこの環境を変えていく働きかけをして行くのもよいでしょう。どこにいても自分の感度を高めることができるのであれば、その地域で自分が成長していけるということになります。自分をどの環境に置くかを見極めることは、あなたが「サステナブルな生き方」にシフトするためのとても大事な布石であると言えるでしょう。

まちをつくるのは、建物や設備ではなく住人の意識

ここで大事なことはサステナブルでウェルビーイングなまちをつくるのは建物や設備ではなく、最終的にはそこに住む人の意識が一番大きな要素だということです。一人ひとりが「サステナビリティ」や「ウェルビーイング」を意識しながら行動することで、まちであれ会社であれ、時間とともに少しずつ変わっていくと信じています。

ぜひ、できることから始めてみてください。

最近「Effectuation(エフェクチュエーション)」という言葉が使われはじめました。

「エフェクチュエーション」とは世界的経営学者のサラス・サラスバシ―氏が提唱した理論で、熟達した起業家は実はきっちりとした計画よりも目の前のチャンスを大事にして、自分なりに損失可能なくらいのリスクを取りながら新しいことに果敢にチャレンジし、徐々に自分の目指す方向に進んでいくという考え方です。日本の昔話にある「わらしべ長者」に似たアプローチですね。

リスクを恐れずに、今できることに全力で対峙していくことを続けていけば、自分の生きる方向が明確になってくるはずです。ぜひ、読者のみなさんも「エフェクチュエーション」を実行してみましょう。

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