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特集 | ソトコト流 東京宝島 離島歩きガイド

島の未来を担う!? アイランドワーケーションとは。【式根島・前編】

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観光客で賑わう「夏」ではなく、オフシーズンの「秋冬」に式根島に人を呼び込む手段として、2019年から力を入れ始めたワーケーション事業。働きながら日々の過ごし方も充実させる、この島らしい“アイランドワーケーション”のカタチをつくり、式根島の魅力を上げていこうと、新島村商工会の下井勝博さんを中心に、宿や商店などの事業者でもある東京宝島事業のメンバーらが奮闘中だ。

(取材は2021年11月に行いました。撮影時にのみマスクを外しています)
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伊豆・小笠原諸島の海の玄関口である東京都港区の「竹芝客船ターミナル」から22時に大型客船に乗り込むと、約11時間の旅を経て朝9時に式根島に到着する。外周約12キロメートルの小さな島で、約500人が暮らしている。

夏になると海水浴などを目的にたくさんの観光客が訪れるが、シーズンが終わると静かな島の日常へと戻ってしまう。主たる産業が観光業であるこの島にとって、観光のオフシーズンにどう人を呼び込むかが課題となっている。

その解決策の一つとして、今この島で力を入れ始めたのが、ワーケーションだ。これは、「Work(ワーク)」と「Vacation(バケーション)」の造語であり、普段とは違った場所で働きながら余暇も充実させるという働き方のことである。

この事業を中心になって推進しているのは、式根島の海とそのコミュニティに惚れて2001年に移住した、新島村商工会の下井勝博さん。4年ほど前に和歌山県で行われていたワーケーションの事例を知り、式根島に合った方法を模索してきた。

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アイランドワーケーションを中心になって進める新島村商工会の下井勝博さん。島の商店や宿への電子決済の導入も積極的に進めてきた。
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式根島の観光マップ。外周約12キロメートルのコンパクトな島だから、レンタサイクルなどでも十分にまわれる。
「通年観光を目指して体験ツアーや島案内などのコンテンツづくりをしましたが、オフシーズンは高齢の方の参加が多く、一度来島されたら満足して次の場所に行ってしまい、式根島のリピーターになりづらい傾向が見られました。そこで、オフシーズンでもリピートしてもらえる“ワーケーション”に可能性を感じました」と下井さんは説明する。

下井さんと一緒にこれに取り組んできたのは、東京の島のブランド化を目指す取り組みである「東京宝島事業」のメンバーたち。民宿や商店の経営者や整体師など、事業者に声をかけてこの島のワーケーションのカタチを模索してきた。事業者を巻き込んだのには理由がある。

「日帰りができない式根島の場合は、ワーケーションで訪れると必ず宿泊を伴って、ここで数日間暮らすことになります。そこで、必ず関わることになる業種の島の事業者にまず声をかけました。宿や商店にお金が落ちて経済が回ることも重要なんです。さらには、少子高齢化が進む島の本当のゴールは移住・定住者を増やすことですが、それを全面に出すとあまりにも重たい。だから、ワーケーションをきっかけに島民とつながり、この島のファンになって、さらには将来的に式根島で暮らすことが選択肢の一つとなればという気持ちがあります」

ワーケーションは、島に人を呼び込むための手段。島の暮らしを体験し、島民とじっくり話をして関係性を築くことで、島の将来を豊かにできたらと、島を思うメンバーたちは奮闘しているのである。

オフシーズンに行う“二毛作型”ワーケーション。

ワーケーションの拠点として、島内にコワーキングスペース『Shikinejima Coworking Space』を設けた。夏はカフェとして営業している物件を秋冬の間のみ模様替えしてデスクやチェア、複合機など仕事に必要な機器を取りそろえ、ネット環境も整えた。セキュリティ対策としてID、パスワードをデスクごとに変えているため、機密性の高い情報を扱う際にも安心だ。

「ワーケーションは秋冬限定。10月に機器を搬入して、4月には搬出してしまいます。夏は観光客で宿や飲食店は忙しくなり、ワーケーションで来た人を受け入れる余地がありません。逆に秋冬なら島民に時間の余裕ができるので、比較的ゆっくりと話せます」と下井さん。

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左/建物脇に掲載されている看板。コワーキングの利用時間は、基本的に9時から17時まで。右/コワーキングスペース内の廊下。陽が差し込む心地よい空間。
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可動式の机と間仕切りが使われているため、使用者によって容易にレイアウト変更可能。また、長時間座っても疲れない椅子を採用。
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コワーキングスペース内の会議室。大型モニターが設置されているので、会社やクライアントとオンラインでつないで会議をするのにも便利。
コワーキングスペースの営業時間は、原則9時から17時まで。仕事の前後、合間に自然の中を散歩したり、温泉(海中温泉!)に入ったりとすぐに気分転換をはかれるのが魅力だ。また島内各所にWi-Fiに接続できるスポットがあるので、足湯に浸かって旅気分を味わいながらパソコンを広げてひと仕事も可能。さらに、宿では島の恵みを感じる朝食や夕食をしっかりいただくことで体のリズムが整い、心も落ち着いてくる。式根島でワーケーションを行うと数々のメリットがあると下井さんは力説する。

そして、こだわる点がもう一つある。それは、来島の方法だ。早さを求めるなら、調布飛行場から飛行機で新島に飛び(所要時間35分)、新島からは式根島までは連絡船に乗る(所要時間15分)方法もある。しかし下井さんは、竹芝桟橋から大型客船に乗ってくることをおすすめしている。

「夜行船は言ってみればアクティビティのようで、仕事で来ているのにワクワク感が増しテンションが上がります。また、夜10時に出発して朝9時に式根島に到着するため、寝て起きたら島に着いている。飛行機は日中の時間を使ってしまいますが、夜行船なら着いてすぐ、午前中から仕事に取りかかることができます」。

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夜10時に竹芝ふ頭から出航する直前のさるびあ丸。これから始まる船旅にワクワクとした気持ちで乗り込む。
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出航して間もないころ。海から見る都会の光が旅気分を上げる。段々と光から遠ざかっていくことで旅情がさらにかき立てられる。
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船から早朝に見えた富士山。海から見る珍しい姿に感動して、思い出がまた一つ増える。
2021年には、式根島らしいワーケーション“アイランドワーケーション”の可能性を探るため、同島とつながりのある渋谷区と港区の企業に限定してモニターを募集した。その前年には2泊3日のアクティビティ中心のモニターツアーを実施したが、今回は月曜日から金曜日までの5日間、仕事を中心に過ごすワーケーションに。いずれもリモートワークが可能な企業に所属する4社5人が参加した。

モニターからの意見を踏まえて式根島らしい事業へ。

式根島は徒歩や自転車で事足りる、コンパクトな島だ。宿泊する宿とコワーキングスペースは自転車で数分の距離にあるので、ワーケーションの参加者には毎朝出勤前に海沿いをランニングしたり、宿に帰る途中で温泉に立ち寄ったりしたという人も。また、有休を取って隣の新島に観光に行った人や、ダイビングを行ったという人もおり、思い思いの働き方、楽しみ方をしていた。
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岩に囲まれた泊海水浴場。秋冬に訪れて、青い海をボーッと眺めるだけでも贅沢な時間を過ごすことができる。
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地鉈温泉近くにある松が下雅湯。足湯ができ、Wi-fiもあるので、こんな風景の中でひと仕事することも可能。
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左上/島のあちらこちらで自生している明日葉。おひたしにしたり、天ぷらにしたりと島の食事にも登場する。右上/九州や沖縄などの暖かい地域で生育する七変化(しちへんげ)。左下/『池村商店』で販売する人気商品の揚げパン。島内や観光客がおやつに買うのはもちろん、お土産に買い求める人もいるそう。右下/『池村商店』の店先のベンチに座って食べるのもよい思い出に。
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神引展望台から観た夜空。星座や流れ星を見つけながら過ごす特別な時間。
4日目を終了した後、意見交換会が行われ、働く場所として式根島をどう思うか、率直な意見が飛び交った。通信環境については問題がなかったが、一人で集中して作業したり、会議に参加したりするのには宿の個室の方が向いていたという意見も。また、島でワーケーションをするから効率が上がるというものではなく、逆に普段の仕事を100パーセント持ち込むのは難しく調整をしなくてはいけなかった、という厳しい意見も出た。
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ワーケーション参加者との意見交換会。参加してみての率直な感想や、企業対象にする場合のワーケーションの在り方などが2時間にわたって話し合われた。
そこで参加者から提案されたのは、個人でワーケーションをするよりも、まとめづらい議題について長時間話し合ったりする会社のオフサイトミーティングや、チームビルディングで利用する方法だ。「カジュアルに話せるのがオフサイトの良いところ。宿を貸し切り、中長期的なことについて話し合う場として、式根島にも可能性があるのではないかと思いました」と参加者の一人は話してくれた。
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ワーケーションに参加した一人、緒方史乃さん。コワーキングスペースで仕事に集中する以外は、早朝のランニングや仕事後の温泉などを楽しんだそう。
「オフサイトミーティングという言葉も初めて知りました。また、企業の誰に向けて実施するのか、どんな方法で企業が予算を確保するのかなど、これまでに運営チームで議題にのぼらなかったポイントも参加者から上がり、有意義な意見を聞くことができました。今回のモニターの意見を受けて事業の内容をブラッシュアップし、式根島らしいワーケーションをつくっていきたいです」と下井さんは力強く語った。
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ワーケーションを終えて、式根島をさるびあ丸で出る際には、宿の女将さんや下井さんらが見送ってくれた。
photographs by Yusuke Abe  text by Mari Kubota  model Mitsuka Ogasawara
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