株式会社サイバーエージェントに新卒で入社し、約20年の勤続を誇る、専務執行役員石田裕子さんにお話を伺いました。
さまざまな挑戦を経験し、その過程で感じたことすべてが仕事とプライベートを区別しないという、ワークライフインテグレーションの考え方につながっているそうです。
RULE1.自分らしくあり続ける
RULE2.無理をしてまで100点は目指さない
RULE3.やりがいや幸せなどをポジティブな感情で追及する
石田裕子(いしだ・ゆうこ)さん
●株式会社 サイバーエージェント 専務執行役員
2004年新卒でサイバーエージェントに入社。広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、Amebaプロデューサーを経て、年及び2014年に社の100%子会社代表取締役社長に就任。2016年より執行役員、2020年より専務執行役員に就任。人事管轄において採用戦略本部長も兼任。
産休後の復職時は、大きく働き方を変化
石田さん:今までの中で一番大きく働き方を変えたのが、出産を経て復職した時だと思います。変わったというよりは、抜本的に働き方を変えないと無理だと思ったという表現が正しいと思います。限られた時間の中で、どのようにパフォーマンスを出していくのかということを追求していきました。
それまでは、自分のペースで働けていたのが一変して、働く時間に限りが生まれたので、生産性を意識するようになりました。優先順位を見誤ってしまうとすべてが崩れてしまいますし、一番大きな働き方の変化だったように思います。
フェムテックtv:時間の使い方ということですか?
石田さん:そうですね。例えば、私が20代の頃は働き方改革という言葉はなかったですし、簡潔に言うと、9時に始業してからその日の業務が終わるまで仕事をしていました。IT業界は変化が激しいですし、比較的忙しいと言われる業界でもあり、がむしゃらに働いていたのが20代です。
そこから出産を経て復職した際に、子どものお迎えがあるため18時に切り上げなくてはいけない状況になり、初めて制約ができました。そんな中で、20代の産休前の働き方で出していたパフォーマンスと同等のものを、またはそれ以上のものを限られた時間の中で出していかなければ、役職もついていましたし、存在意義というか、役割という側面でも意味がないなと。
自分の中でかなりプレッシャーをかけていたところもあり、時間の使い方にプラスしてパフォーマンスというところで、その掛け算が大変でした。
フェムテックtv:石田さんは29歳と32歳で出産をされたと伺いました。特にはじめての出産時はいわゆるIT業界の成長期といいますか、けっこうハードな働き方だったのではないかと想像したのですが、健康面で壁にぶつかることはありましたか?
石田さん:ありがたいことに健康でした。身体を壊さなかったのは私の取り柄でもあったくらいです。それもあって自分の時間が多少削られたとしても、パフォーマンスの質を落とさないように努力できましたし、自分で仕事の進め方やマネジメントの仕方など、ある程度コントロールできる社風や雰囲気がありました。業務の管理・執行をしていく過程においてもかなりコントローラブルだったというのはあります。
フェムテックtv:ともに働く方々も同じようにハードだったと思うのです、周りから健康課題にまつわる声が届くことはありましたか?
石田さん:女性が働き続けるという意思決定の中で、異変を早く察知して適切にセルフマネージメントをしなければいけないというのは、当時も、今もあると思います。
例えば、女性ならではの、生理が止まってしまったとか、逆に生理がずっと続いているというような症状があった場合、今は産業医に相談することができますし、ストレスチェックやメンタルチェックなどの機会を自分で設けて体調不良の原因を把握することもできます。当時はまだまだ情報量が足りていなかったと思いますし、ソリューションも多くはなかったので、そういう意味では異変に気付きながら自分だけで抱え込んでしまっている、もしくは仕事優先で無視しながら働いている人は少なくなかったと思います。
使われる制度にするために、ネーミングも見せ方もこだわる
石田さん:サイバーエージェントは、社員の声に耳を傾けて、必要な制度を必要なタイミングで適切な形でバージョンアップさせていくということを前提としてやっている会社だと思っています。福利厚生の観点では、『マカロン』という女性活躍促進制度があります。“ママ(mama)がサイバーエージェント(CA)で長く(long)働く”という意味があるのですが、ママと言いつつも、女性社員すべてに対しての制度です。人事制度を設計する時に意識しているのは、ただ福利厚生だけを充実させればいいというわけではないということです。制度は使われなければ意味がないと思っています。
仕事をしていく中で社員のボトルネックになっているものは何かを考え、取り除いてあげられるような制度設計をしていく必要があるのではないかと。それはずっと意識しながら会社の中でも適応してきています。
フェムテックtv:具体的に利用してよかった制度はありますか?
石田さん:私自身は使ったことがないのですが、「『エフ休』という制度を利用してよかった」という声は多く聞かれます。
女性特有の体調不良の際に月に1回取得できる特別休暇です。いわゆる生理休暇なのですが、Female(フィメール)のFを取って『エフ休』とすることで、利用用途が分からないようにし、取得理由の言いづらさや取得のしづらさをなくしました。
フェムテックtv:石田さんは利用したことがないということですが、そこまで生理は重たくはなかったということですか?
石田さん:私は我慢してきたんだと思います。つわりも我慢する、生理痛も我慢する。世代的にも育ってきた環境的にも、休むという習慣がなく、なかなか休むという選択が取れなかったです。
フェムテックtv:ということは、生理痛もあったんですね。
石田さん:はい、ありました。ただ、生理痛も人によって程度が違うので一概に言えないですよね。だから、周りの社員も「エフ休はありがたい」と、口を揃えて言ってくれました。
休む理由を男性の上司に言わなくていい休暇なので、生理痛かもしれないし、ただの体調不良かもしれないですし、ちょっとリフレッシュしたいだけかもしれない。月に1回、理由を言わないで休めるというのは、今もありがたいという声が届きます。
フェムテックtv:確かに呼び方を変えるだけで見え方や印象が変わってきますよね。そのあたりも意識しての制度設定でしたか?
石田さん:そうですね。当社は、福利厚生に限らず、すべての施策においてネーミングを工夫する会社として認知されているのではないかと思います。利用する側が利用しやすい、親しみやすい、覚えやすいといったように。
先ほども申し上げましたが、制度は使われなくては意味がないので、認知しやすいようにネーミングにも、見せ方にもかなりこだわっています。
フェムテックtv
:石田さんは社員の働き方について考える立場でもありますが、ご自身のワークライフバランスはどのように捉えていますか?石田さん:サイバーエージェントで約20年働いていて、大変だって思う時もたくさんありましたが、一言でいうと自分らしくあり続けることがワークもライフもどちらも調和させることにつながっているのかなと思います。
人事担当で役員という立場でもあるので、そういう意味でも、社員が仕事もプライベートも充実させながらやりがいを持って働いてくれるような環境を作っていくという役割を担っているとは思っています。ただ、私自身は「仕事もプライベートも両立しなきゃ」「どちらも完ぺきにやらなきゃ」という風に思ったことがないんです。
どちらか無理だなと思ったら、手を抜く、やらないことを決める、精度を下げるなど、いくつか使う選択肢があって、自分らしくいられないなら何かを止める。自分が壊れてしまうくらい無理してどちらも完璧にし続ける必要はないんだって。あまり気負っていないというか、100点を目指してないというのがあると思います。
フェムテックtv:そのさじ加減が難しいのかなと思うのですが、どのように調整していますか?
石田さん:自分なりのリフレッシュ方法があるといいのかなと思っています。
100点を目指さないと言いながらも、根っこの部分では完璧主義のようなところがあって勝手に自分で課している部分はあるんです。今日やらなければいけないことは、今日のうちに絶対やりたいタイプなんですけど、それをいつでもし続けると、何かがつまらなくなってくるし、ただの義務だけで続けることになってしまう。
「今、つまらなくなっているかも」「ちょっとパフォーマンスが落ちてきている」と、何かを察知した時ほど、何かを変える。休憩を取るでも、仕事の進め方を変えてみるでも、自分の引き出しにないインプットを意図的に取るでも、その方法はなんでもいいと思います。
自分なりに何かを変える、リズムを変える、物事の捉え方を変えるなどを意図的にするようにしています。
フェムテックtv:切り替えは上手にできますか?
石田さん:そうですね。これはトライ&エラーだと思っています。結局、それも経験なんですけど、自分なりの自分にあったベストな答えを見つけようとしているというのがあります。
自分を取り巻く環境やその状況にあったソリューションを自分の中で貯めていくしかないと思います。
フェムテックtv:いろいろ試して経験する中で、これだけはやらないと決めたことはありますか?
石田さん:話が飛躍してしまうかもしれませんが、例えば、子どもたちに仕事がつまらなそうだな、大変そうだなと思われたくないんです。大変だということは、いい意味で理解してほしいというのはありますが、大人になって仕事をするのって嫌だなと思ってほしくない。常に楽しんでいる姿を見せたいと考えた時に、私が笑っていると家族も笑顔になっていくので、周りの人に悪影響が出るくらい追い込みたくないというのはあります。
仕事を通じて自分ももちろんですが、周囲の人にも楽しく、幸せな気持ちになっていてほしいという思いがあるので、それが壊れるラインまでやり続けないというか、そうなりそうだったら何かを変えるようにはしています。
フェムテックtv:その都度見つけながらやっているんですね。
石田さん:そうですね。仕事を頑張ることで、自分にとっても周囲の人にとっても何かを犠牲にして負の感情の連鎖を起こしたくないので、バランスをとりながらその時々でベストなやり方を見つけられるようにしています。
フェムテックtv:後編では、会社組織として必要だと感じていること。また個人として大切にしていきたいことを伺います。
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