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連載 | 都市計画家 山崎満広の「明るいまちづくり相談室」 | 4

井波ミライフォーラムによせて 【前編】

山崎満広

山崎満広

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「世界一住みたい街」と呼ばれるアメリカ・オレゴン州のポートランド。2012年から、このポートランド市開発局にてビジネス・産業開発マネージャー、国際事業開発オフィサーを歴任した“サステナブル都市計画家”・山崎満広さんのコラム。今回から2回にわたって、2023年3月に開催された「井波ミライフォーラム」を経て山崎さんが得たインプレッションをお届けします。

目次

「井波ミライフォーラム」が開かれた富山県・南砺市

去る今年の3月8日に富山県南砺市にある井波という街で自社で主催したフォーラムがありました。井波という街は2021年から私が街づくりに関わり、地域の事業者や南砺市と共に新たな仕組みを作ってきたところです。

今は都会の若者にも注目されており、少しずつですが人口も増えてきています。このフォーラムの内容の抜粋から今抱える地方都市の問題点や課題、また将来の方向性のヒントを得ることができれば幸いに思います。

今回の「井波ミライフォーラム」、南砺市市長のお言葉を頂いたあとの第1部では、慶應義塾大学環境情報学部教授、一般社団法人「残すに値する未来」代表の安宅和人さんの講演がありました。安宅さんは脳神経科学、マーケティング、データサイエンスをバックグランドにもち、データとAI時代の基礎教養、技術・デザインを包括した富山県出身の課題解決のプロフェッショナルです。講演の内容は、これからの地方都市の未来をどう考えるか、そしてどうしていくべきかという内容で、大変示唆に富む内容を問題提起と共に提示してくださいました。

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フォーラム開始前、井波彫刻の生みの親―前川三四郎像に安宅さんをご案内。

安宅さんの講演より抜粋——「都市」VS「疎空間」

日本は国土の3分の2(約68パーセント)は森で、土地に占める森の面積割合は世界一の熱帯雨林で有名なブラジル(約56パーセント)より10パーセント以上多い、世界の先進国では北欧諸国ぐらいしかないレベルの森林国です。森の大半は人口密度が1平方キロメートルあたり5を割り込む、ほぼ人の住んでいない空間であり、いかに人口が都市に集中しているかを示しています。そんな森の大部分は地方の村や町に属しており、夕張、羅臼、湯沢のような全国区で知られる地域ですら人口減少が続き、0歳から15歳未満まで人口密度が1ないし2前後と、すでに普通に子どもを育てられる最小の人口密度を割り込んでしまっています。

このような地域の多くは自然の恵みも豊かで数千年におよぶ歴史を持つ、古くから人が住み続けてきた空間が多くを占めます。しかしながら、これらが社会的にも経済的にも維持できなくなる現象は、ヨーロッパや米国など世界中で幅広く起きています。

まず理解しなければならないのは、この問題の本質が、よく言われている「都会」VS「田舎」ではなく、「都市」VS「疎空間」であるということです。なぜなら、たとえ地方であっても人口の大半は都市部に集中しているからです。

疎空間が疎空間ならではの広々とした景観価値を持ちつつ生き延びようとするならば、都市に出て行ってしまう人にとっても価値のある空間となる必要があります。なかでも、まずは職場に縛られずに生きていける人たち、すなわちクリエイティブ・クラスの方々にとっても価値ある空間にすることが重要です。たくさんの人を抱える職場や巨大な学校を疎空間に持ってくれば、それはすでに都市であり、もう疎空間ならではの価値を失ってしまうからです。ほとんど直視されていませんが、これがいわゆる村おこしの多くが直視していない根本的な矛盾、課題のひとつです。

とはいえ、いま喋っているような街中ではなく疎空間の大半は、現在のところ、疎空間ならではの空間・景観価値を失い、そのうえ通信インフラすら整っておらず、ちょっと仕事のために来たり、数週間滞在してアウトプットを生み出そうとしても快適にステイする場所もありません。つまり、クリエイティブ・クラスが仕事をすることはほぼ不可能な場所がほとんどなのです。これではその疎空間が蘇ることはないでしょう。

これらの空間が蘇るためには、第一に疎空間ならではの美しく、魅力的な景観を土地の記憶を生かしつつ生み出す一方、第二に様々な人達が学びや知的交流、知的生産を行うための十分な基礎インフラ、社会インフラ、例えば上下水道、ごみ収集と処理、電気、通信、教育、ヘルスケアなどの仕組みを疎空間であっても維持可能な形で構築することが必要です。

疎空間の空間価値についても少し考えてみましょう。僕ら「風の谷を創る」検討メンバーが長年検討してきたのは、都市集中型社会に対するオルタナティブとしての疎空間です。

単に経済的に回すだけであれば、リゾート化してしまうというのは一つの方向性としてありますが、これは相当に土地を選びますし、すでに経済的な解がある上、これは都市集中型社会に対するオルタナティブとは言えません。特別にブランディングされた土地を除けば、10年単位の持続性についても疑問があります。

ではどうしたらいいのか。僕らは、都市に出ていく面白い人達が、あるいは都市にいる面白い人達が来ようと思う場所、そこで新しい価値創造ができる場所が生み出せるかが重要だと考えています。具体的には、その土地ならではの美しさ、魅力を持ち、その上で、手を使ったものづくり、知的生産が可能で、短期的なだけでなく中長期的に滞在できる空間が生み出せるかが大きなポイントになると考えています。長い歴史を持つ土地の記憶、景観の特徴と背景を理解し、それを活かすことがまず第一歩となるでしょう。

とはいえ、これは選択です。その土地に住み、未来を生み出そうという方々のなかで、リゾート、風の谷、どちらの方向を目指すのかはとても大切な分岐点になると思います。なおリゾートが間違っているということではありませんし、風の谷的な空間にリゾート的な機能がゼロであるべきといっているわけでもありません。リゾート的な空間づくりだけを念頭に置いていては都市集中型社会に対する代替とはなり得ない、土地らしさも維持しかねないということです。

インフラについても少し考えてみましょう。疎空間で都市スペックのインフラを都市のような形で、つまりグリッド依存型、かつ都市スペック(仕様)のインフラで整備することは経済的には全くmake senseしません。インフラ構築にかかる費用は舗装道路1キロあたり最低でも億円単位と莫大であり、母数である人口が少なければ、その投資は永遠にペイしない可能性が高いということです。

これはスケール則というべきものであり、皆さんの本能的な感覚に反しているかもしれませんが、実は人の密度が高ければ高いほど一人あたりの経済負荷、そして環境負荷も格段に低いのです。現在も世界中どこでも疎空間はすべて都市からの資本流入、経済的な補填、輸血によってギリギリで動いています。自立できていないのです。

その上で、疎ではあるものの、そこに集う様々な人が交わり、楽しめるような「場」も必要です。自然、つまり森、川、海などの魅力だけでぼろぼろになった民家や山小屋で野宿かテントでもしなければステイできないような空間では、そういうことが趣味な人、自然愛好家(ラバー)ぐらいにしか価値がないからです。またアスファルトやコンクリートといった固いインフラは、経済的にmake senseしないだけでなく、生態系を痛めることは科学的なコンセンサスであり、ほぐしていく必要があります。

ここまで言っておきながらなんですが、我々の調べでは、実は疎空間の空間維持コストで圧倒的に高いコストは土木インフラではありません。医療及び年金に代表されるセーフティネットとしての社会保証費用です。これを踏まえてお金の流れをどう考え、どう改善していくかはとても大切な課題です。

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『シン・二ホン』の著者、安宅さんの講演。

「疎空間」の未来

「未来」について日々僕は誰かに聞かれますが、僕の見解では「未来の生み出し方」には基本的な「型」があります。「夢×技術×デザイン」です。これは、どのような課題意識を持ち、どのような未来を目指すのか、という夢を、何らかの技術、テクノロジーで解決し、それをデザイン的に価値のある形にパッケージする、ということです。疎空間を残すに値する空間とするためにあるべき姿、夢、は、ここまで述べてきた通り、僕らはかなり明確にしてきましたし、土木インフラ、人の育成(教育)など大半のサブ課題領域についてこれまで相当にまとまった検討を行い、整理してきました。ただ、この実現には例えば疎空間の水道インフラ一つをとってみても、グリッド依存を最小化するためには通常数十年レベルの時間と相当にまとまった費用がかかります。

多様性を失った森の再生、水や空気の循環の健全化にも50年単位の時間が掛かるでしょう。人が住む場所を作る程度であればまとまった投資をすれば比較的短期間でできますが、他のインフラがうまく回せない時にいきなりそれだけの投資をすることは経済的にmake senseしない可能性がそれなりにある。つまりこれは世代を超え、少なくとも100年は続けるつもりでバトンを渡しながら行っていく取り組みになります。

推進する土地にしっかりと足の生えた人がそれなりの数いるかどうか、それがすべての出発点になるはずです。

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著者もジョインしてフォーラムは進行していく。(井波ミライフォーラムによせて Vol.2に続きます)
文:山崎 満広、Ocean child Loves Piano

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