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場づくり・コミュニティ

特集 | 関係人口入門 2023

「179リレーションズ」がつくる“関係の入り口”。

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北海道札幌市内をベースに、若者のアイデアやパワーを道内の地域に届ける事業を展開するNPO法人『ezorock』。彼らが2020年から本格稼働したのが、道内の関係人口創出を図るプロジェクト「179リレーションズ」。『ezorock』代表の草野竹史さん、コーディネーターとしてプロジェクトを牽引する水谷あゆみさんに話を聞きました。

TOP写真:右上/札幌市からクルマで約1時間半。海山に囲まれた風光明媚な土地・石狩市浜益区。「179リレーションズ」の拠点もある。右下/北海道胆振東部地震で被害の大きかった厚真町では、主に子どもの居場所づくりに奔走した。左上/2022年12月にオンラインで関係人口の創出を目指すイベントも。左下/ボランティアのプロジェクトメンバーたちが活動を支える。
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「179リレーションズ」のコーディネーター・水谷あゆみさん。京都府南丹市出身。環境や野生動物について学びを深めたいと北海道にある『酪農学園大学』へ進学。学外での活動を模索していた中で『ezorock』と出合った。地域づくりの中核的な役割を担う専門人材の「社会教育士」でもある。
『ezorock』が取り組むプロジェクト「179リレーションズ」。「179」とは、北海道にある市町村の数。北海道各地で、持続可能な地域を目指し、行われているさまざまな活動から、場所や世代を超えてその地域や活動に関わる人々をつないでいくことが、プロジェクト名には込められている。
活動に参加するのは主に札幌市を中心とした学生や社会人たち。プロジェクトメンバーと呼ばれる25人ほどのボランティアを中心に、『ezorock』の事務局スタッフ数名がさまざまなプロジェクトを運営する。これまでの活動の様子はウェブサイトで公開され、その投稿はすでに150を超える。関わる地域も道内40市町村までに広がっているという。

NPO法人『ezorock』とは?

1999年から続く、北海道石狩市で開催される国内最大級の野外ロックフェスティバル「RISI
NG SUN ROCK FESTIVAL」。その会場で出るゴミの問題、分別やリサイクルなどに関する課題を解決するチームが母体となり、2001年に発足。10年以上前から都市農村交流の一環で、若者を地域の環境保全の現場などへ送る取り組みも。2011年の東日本大震災では、北海道各地で受け入れた『ふくしまキッズ』の現地でのケアをする人材として、道内各地から多くの若者を派遣した。
目次

関係性の線"を、いかに太くするか。

現在、「179リレーションズ」のコーディネーターを担う水谷あゆみさんも、もともとは『ezorock』が関わる地域との活動を知り、子どもたちや若者に森で使われていない木を使った薪割り体験を提供するプロジェクトなどに関わっていた一人だ。縁あって2018年4月に『ezorock』へ就職。その半年後、水谷さんの人生に大きな影響を与える出来事が起こる。北海道胆振東部地震だ。「震災後の2日後から毎日、ハイエースに大学生などを乗せて現地へ。被災地では主に子どもの居場所づくりに関わりました」。被災自治体の職員や、地域づくりをしている人たちが、最前線でギリギリの闘いをしているのを目の当たりにした水谷さんは、ここである思いを抱く。
「いつものつながりが、いざというときの力になる」
災害が起きたとき、「あの人、大丈夫かな?」という気持ちが起きるような関係を、普段からつくっておくことの大事さ。人との関係はセーフティネットのようなものでもあり、非常時でない時に“関係性の線”を太くしていくことが、結果的に自立した、かつ持続的な地域をつくるのではないか。「それまで、都市部から、人手が少なくなっている地域に若者を送る活動をしていましたが、実際は地域には若者もいて、当然ながらがんばっています。そんな人たちと“対等に”まちづくりを考えたり、補ったりという関係性を築いていくことこそ、自分たちがすべき活動なんじゃないかなって。同時に、それを北海道全体で展開していくことが、私たちがやっていくことだと思い至りました」。

活動の基本は、「若者たちが社会課題や環境保全に取り組むことを後押しする」こと。

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右上/厚真町内にある公園につくられた子どもの居場所「ハッピースターランド」。「179リレーションズ」はここへ、子どもたちと遊ぶ若者を数多く札幌市から運んだ。中央上/旭岳での活動の様子。写真は2019年の様子。雪解けで歩きにくくなった散策道を補修したり、腐敗したベンチの撤去作業を行った。左上/自然保護活動だけでなく、地域文化にも関わる。写真はアイヌ民族の儀式でもある祭礼の様子。当日、ブース展示のお手伝いなどもした。右下/厚真町の「ハッピースターランド」の敷地内の小川で子どもたちと遊ぶ、「179リレーションズ」のボランティアスタッフ。中央下/北海道のほぼ中央に位置する鷹栖町での取り組みの様子。都市部の若者が地域内の古民家DIYイベントを切り口に地域を知り、関わるプログラム。左下/鷹栖町の古民家DIYイベントは、コンクリートづくりから行う本格的な内容。町の人たちと参加者との交流も深まったという。

『集落の教科書』づくりを通して変わる地域と参加者たち。

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「179リレーションズ」が深く関わる地域の一つに、石狩市浜益区(旧・浜益村)がある。改修した空き家を拠点に、年間延べ250人以上のボランティアをイベントや第一次産業の現場に送っている。
そんな浜益区で2021年におもしろい取り組みがスタートした。『浜益版 集落の教科書』づくりだ。『集落の教科書』とは、京都府南丹市を拠点に活動するNPO法人『テダス』の事務局長・田畑昇悟さんが考案した移住・定住促進のガイドブックのこと。コンセプトは「よいことも、そうでないことも、ちゃんと伝える」。
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『浜益版 集落の教科書』。「179リレーションズ」のウェブサイトからダウンロードも可能。
https://179relations.net/action/128
「道内の大学生や、私たちの活動がきっかけになって浜益に移住した地域おこし協力隊隊員が中心となって、調査シートを元に地域の方々をインタビュー。漁師さんや農家さん、行政職員、スナックのママさん、中学生など、さまざまな職業、年齢の人にお話を聞きました」と水谷さん。1年という期間をかけ、ていねいにつくり上げた『浜益版 集落の教科書』は「179リレーションズ」のウェブサイトで公開されている。内容は、地域の慣習やルールなど、なかなか知ることができないリアルな情報ばかり。しかし、『ezorock』代表・草野竹史さんは指摘する。「つくるプロセスが非常に重要。取材の中で、地域側にも新たな発見が生まれることがおもしろいポイントです」。
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2021年5月に行われた『浜益版 集落の教科書』を制作するワークショップの様子。浜益住民も多く参加し、活発な意見交換が行われた。『浜益版 集落の教科書』は、『テダス』の事務局長・田畑さんにオンラインでアドバイスをいただきながら、地元の人たちと一緒につくり上げた。
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『集落の教科書』のつくり方は書籍にも。「179リレーションズ」に飾られていた『移住者を助けるガイドブック 「集落の教科書」のつくり方』。

オンラインで北海道をつなぐ「リレフェス」の大きな可能性。

関係人口を創出するさまざまな取り組みを実践する「179リレーションズ」の最新の取り組みが、2022年12月に行われた「リレーションズフェス(通称・リレフェス)」だ。二次元のバーチャル空間上で、地域との関わり、自分と地域のつながりを考えるオンラインイベントで、基調講演のほか、北海道各地から14の団体も出展し、参加者に地域で開催されるイベントなどの情報を共有したり、地域の課題を話し合ったりと、充実した内容であった。
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オンラインイベント「リレフェス」の会場のインターフェース。ゲーム感覚で楽しく参加できる。
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地域の出展ブース。地域の取り組みに興味を持った参加者は、ここで直接地域の人と会話できる。
参加人数は、2日間で延べ110人以上。北海道はもちろん、東京や九州などからも参加があったといい、時間と場所を選ばない、オンラインならではのよさも見えた。「こだわったのは、北海道のさまざまな地域から、さまざまな団体に出展してもらったところ。まち単位はもちろん、実行委員会、地域おこし協力隊が出展するなど、多彩な顔ぶれとなりました。12月に開催したのも実はポイントです。北海道は、冬は雪もあって移動を伴う関係人口を生み出しにくい。この時季にオンラインでつながれる『リレフェス』を冬の定番にしていきたいですね」と水谷さんは手応えを語る。
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開催までの数週間、「リレフェス」に関わるメンバーはオンラインで会議を続け、議論を深めながら、当日の運営方法などを検討していった。実行委員会形式で、地域側、札幌市近郊などの若者らが交じり合い、イベントをつくり上げた。

信頼のインフラ"のような存在になっていきたい。

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札幌市にある『ezorock』の拠点で若者たちと談笑する代表・草野さん。
これまで多くの若者と関わってきた『ezorock』。草野さんに、今後の展望について聞いた。「北海道はほかの都府県には見られないほど、一極集中が進んだエリア。北海道の人口は約520万人、そのうちの200万人以上が札幌市近郊に集まり、さらに高校や大学も札幌に集中しているため、その割合の多くが若者ということが際立った特徴であり、僕たちが活動できる背景にあります。これまでの活動で、札幌市近郊の若者が地域との間で対流するなど、ポンプみたいな役割を担うようになってきました。今後はダイナミックな人の動きをさらに生み出しながら、”つながりのインフラ“のような存在になっていく必要があると思っています。オンラインの『リレフェス』もできるようになったので、今まで絶対つながれないようなコラボ、たとえば遠方の地域がプロジェクトを一緒にやるとか、域内の動きや交流を、僕たちがお手伝いすることができたらうれしいですね。そして改めて、関係人口は大事ではありますが、主体はあくまで地域だということを、関わる組織や、地域に入っていく人みんなが理解することが大切だと思っています」。
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左から佐藤綺音さん、久米花枝さん、田口洋翔さん。大学生のかたわら、「179リレーションズ」のプロジェクトメンバーに。佐藤さん、久米さんは「リレフェス」では司会や地域出展者の調整などを担い、田口さんは『浜益版 集落の教科書』づくりのワークショップに参加した。

「179リレーションズ」・水谷あゆみさんが気になる、関わりを楽しむコンテンツ。

Book: 「集落の教科書」のつくり方
田畑昇悟著、農山漁村文化協会刊
『テダス』の事務局長・田畑昇悟さんが、これまで『集落の教科書』づくりで関わった地域の事例なども交えながら、制作方法を紹介している書籍。奥付で浜益のことにも少しだけ触れていただいています。
Book:「社会に挑む5つの原則、組織を育てる12のチカラ」
川北秀人著、IIHOE刊
NPOや社会起業家関係者のための、事業化や組織マネジメントに関する情報やメソッドがふんだんに載っていて、日々参考書として活用。実は本誌の表紙を携帯の待ち受け画面にしているくらい、愛読しています!
YouTube:【公式】月刊公民館ちゃんねる
https://www.youtube.com/channel/UCjmVGzEE0apOiLPBYqcU81w
『公益社団法人全国公民館連合会』が編集する月刊誌『月刊公民館』の公式チャンネル。おすすめの動画は『ナトコ映画』。戦後日本の民主化に関する映画で、地域の中で核となる人材をつくる大事さを教えてくれます。
photographs & text by Yuki Inui
記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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