持続可能、そして世界で活躍できる子どもを育てる教育を考える連載「インターナショナル教育とSDGs」、第1回目は「起業家教育とSDGs」になります。
2021年5月のある日、ローラスインターナショナルスクールオブサイエンスのP5(5年生)のクラスにひとりのゲストスピーカーをお招きしました。東京にあるお告げのフランシスコ姉妹会のシスター白石です。シスターは今年80歳になりましたが40年ほど前からフィリピンの貧しい人々を助けるための活動に尽力してきました。当時フィリピンの首都マニラににあるスラム街、レベリサでは人々は手押し車や下水管、橋の下などトイレもないような不衛生な場所に住み、親には職がなく子どもたちはゴミ捨て場から食べ物を漁る。パンツでさえ履かせてもらえない子が路上に佇んでいる。そのような悲惨な状況下の人々の生活の向上を図るためシスタークリスティン・タンが中心になり活動をはじめました。
Alay Kapwa(アライカプワ )という共同体をつくり、そこで人々は食べ物や仕事を得ることができるようになりました。衛生面では各家庭にトイレを作ることからはじまりました。トイレは人間としての尊厳を守るための重要なものです。初めてできたトイレに人々は祭壇のようにお花を飾って大切に使いました。そして子どもたちのパンツ。パンツを履いたときの子どもたちの嬉しそうな写真が今でも残っています。シスターはとても80歳とは思えないフットワークととても流暢な英語で生徒たちに写真を一枚一枚見せながらお話を聞かせてくださいました。お話が終わったら子どもたちの質問タイムです。普段恵まれた環境に育っている子どもたち。「貧しい」という言葉は知っていても想像の範囲に過ぎません「貧しい」ということが実際どんなものなのかを目の前に突きつけられた子どもたちにはさぞかし衝撃的なことだったと思います。
世界には自分たちの知らない世界があるということを初めて知った彼らからは質問の嵐でした。「その街人口は?そこには何人くらいの子供がいるの?」「いつも皆何を食べているの?」「お金はどうやって稼いでいるの?」「学校はあるの?先生はいるの?」「コロナのときは皆どうしてたの?」「水族館とか動物園はあるの?」etc. etc。 シスターたちの尽力でレベリサの人たちの生活は向上していますが貧困はいまだに続いています。何故なら一人がレベリサから抜け出てもまた一人流入してくるからです。
最近のフィリピンの経済成長を見ると目を瞠るものがあります。一人あたりのGDPはここ20年間で2倍になっています。しかしながら貧困率は変わらず国民の約半数が貧困状態にあると言われています。これは富裕層はますます豊かになっているがその富は貧困層に回らず貧しいままになっているからなのでしょう。
‘How can we help the people who are suffering from poverty? ’ 貧困に苦しむ人々をどうしたら自分たちが助けることができるのか?これが生徒たちに自然と沸き起こった問題提起です。シスターが持ってきてくださったレベリサの人々の作ったレースの小物入れを見た時生徒の一人はシスターに「これはいくらですか?僕はお母さんにプレゼントしたいから買います!」といって実際300円の品物をお小遣い1000円で買ったのです。もっともっと買いたいと言う彼に担任のスティーブンが、それはとってもありがたいことだけど僕たちはこれからどうやってクラスの皆で力を合わせてレベリサの人の助けになれるか考えるんだよと諭されました。
レベリサの人たちにはもっと仕事が必要です。お金を恵んで貰えばその日食べる食事を得るためには役立ちますが、食べてしまったらもう何も残りません。もし仕事があれば、働くことで常にお金を得られ、それを食事や、学校や、家、服、薬医療に使うことができます。レベリサの人々はレース編みやロウソクづくり、縫製が得意です。生徒たちは話し合い、なにか自分達や他の学年の生徒が必要なもの、欲しい物を企画デザインして作ってもらおう、それを売ったお金を賃金として払おうという結論にたどり着きました。
さて、このようにローラスの5年生のプロジェクトが始まります。プロジェクト名はローラスフレンドシップイニシアティブです。この続きは次回お伝えいたします。
ローラスインターナショナルスクールオブサイエンス 学園長
日置麻実さん
東京、神奈川に7校のSTEMインターナショナルスクールを運営。日本に未来のイノベーターをたくさん輩出することを使命とする。上智大学外国語学部英語学科卒。
日置麻実さん
東京、神奈川に7校のSTEMインターナショナルスクールを運営。日本に未来のイノベーターをたくさん輩出することを使命とする。上智大学外国語学部英語学科卒。