世界を見据えた料理人が作るラーメン。
その店の名は「淡麗らぁ麺明鏡志水」。
JR博多駅地下街にある行列が並ぶ人気店である。
取材当日は、お店を経営する秋吉夫妻にお話を伺った。
本稿では取材を元に「なぜ明鏡志水が生まれたのか」、そして「秋吉夫妻のビジョン」についてを特に伝えていきたい。
「淡麗らぁ麺」は日本料理である。
こだわりあるご主人の元で明鏡志水はラーメンではなく、らぁ麺と表現している。
らぁ麺は塩味や醤油味、柚子ベース、他にも様々な和の味のレパートリーが用意されている。
そのスープは出汁と呼ぶべきだろう。
厳選された九州の農産物を用いたこだわりの味である。
淡白でありつつもその繊細な味わいは、飲む程に身体に染み入る様に感じる。
洗練された味わいでありながら、とても優しい。
また、明鏡志水のらぁ麺は見た目にも美しい。
スープの透明感、均等に揃えられた麺は緻密な計算によって作りこまれている。
伝説の博多駅ホーム店舗
よくある駅ホームの立ち食いソバ屋の店舗を再利用したものだ。
開店のきっかけは、JR九州ホームの店舗をポップアップ店舗として活用するプロジェクト。
秋吉夫妻がその第1弾として開店する機会を得たのである。
2021年3月10日からの約3か月間
明鏡志水のらぁ麺は一気に当たり話題となった。
多い時には2時間待ちの行列が出来る程の大盛況だった。
3ヵ月でのべ15,000人のお客さんが来店した。
JRホームの店舗での歴代新記録である。
明鏡志水の味が生まれた理由
駅ホームの店舗出店の誘いをもらい、さあどんなお店にするか。
ご主人は考えに考えた末、ラーメンで勝負すると決めた。
調理スペースが狭く、十分な仕込みができない環境で営業するため。
できることで出した答えがラーメン店だったのだ。
当初は豚骨ラーメンを提供することを考えもした。
だが調理場の火力が弱すぎるという決定的な理由があって豚骨ラーメンを断念した。
そこからご主人は和のラーメン(らぁ麺)を選んだ。
この限られたスペースで仕込み作業を超効率的にする。
なおかつ自分がずっと携わってきた日本料理の良さを生かしたラーメンを作りたい。
そのために編み出した戦略がそれだ。
福岡、博多は豚骨ラーメン王国。
その中において、明鏡志水は異色の存在と言える。
それは駅ホーム出店だから生まれた、常識の真逆を突いた戦略なのだ。
JR九州からの誘い、地域貢献への想い
それはコロナの影響でJRの乗客の大幅な減少や生産者の経営が苦境に立たされたこと。
そしてその影響でフードロスになってしまったことによる。
JR九州は「乗客が増えるような繁盛店を作りたい」、「九州の素材を活用して地場を元気づけたい」と考えていた。
そこへ秋吉夫妻に白羽の矢が飛んできたことでこのプロジェクトが始まったのだ。
ご主人はその話を受けた。
そこにはご主人が生まれ育った福岡や九州に貢献したいという想いがあった。
その想いが実を結び、明鏡志水は2年の間に飛躍的な結果を生み出したのだ。
実店舗経営へ
これもJR側からの提案によって実現を果たした。
ここを繁盛店にすることが今の2人のミッションである。
明鏡志水には新たなお客も増えており、ファンが集まるお店となっている。
夜は一品料理やワインも揃えており、オシャレで粋な日本食の料理店である。
ここにも秋吉夫妻の想いが込められている。
2人のビジョン、その実現へ
それは食の最高峰であるパリで日本料理を広めることだ。
ご主人は「日本が誇るべき和の味を世界に広めることが自分の使命です」と話す。
その想いを叶えるために、以前からパリに茶懐石のレストラン開業に向けて動き出していた。
だがコロナの影響でパリの店舗開店はもう2年もストップしている。
なんとか2022年の内に実現するために準備中なのだ。
ご主人が生まれ育った福岡の地で、夫婦で力を合わせ明鏡志水という拠点を築いた。
そしてパリという次のステージを目前に控えている。
明鏡志水という店名は元の「止」ではなく、「志」の字に置き換えられている。
2人が止まることなく、志をもって高みを目指して進み続けていることが表れている。
目指す先、その高みの場所へ。
明鏡志水と秋吉夫妻の今後に注目したい。