はじめてのたんじょうび

連載 | こといづ | 106 はじめてのたんじょうび

2021.12.21

 今日は、息子の1歳の誕生日。すくすく元気に育っている。5歩ほど歩いてきゃっきゃ笑ったり、猫が隣で寝てくれるようになったり、自分でご飯をほんの少し食べられるようになったり、トコトコトコ、あぎゃあじゃ、どこんどこんないない、とよく喋りはじめた。仕事は解体を専門としているらしく、毎日ものすごく集中して、あらゆるネジを回し、外せるものは外して、物を見事にバラバラにしてくれる。音がするものが大好きで、楽器はもちろん、食器でも段ボールでも浴槽の水でも、楽しそうに音を鳴らし続けている。よく笑って、よく泣いて、それだけでいいなあ。

 音楽を担当していた朝ドラの放送が終わって、ゆったりとした日常が戻ってきた。日常って何だっけというくらい、1年間、毎日仕事をしてきたので不思議な気分。なんというか、何をよしとして、毎日を生きていけばいいのだっけ。ずっと子どもと過ごしていた妻が、随分先に進んでいるように感じる。なんだろう、「先」って? どこに向かえばいいのだっけ。

 子どもと一緒に遊んでいると、あっという間に一日が終わる。どっぷりと子どもの世界を一緒に過ごしているのはとても楽しい。でも同時に、正体のわからないモヤモヤッとしたものが重くのしかかってくる。これでよかったのだっけ。子どもと過ごすにしても、お互いにもっと楽しい過ごし方がありそうだし、僕は僕でしなくてはならないことがあった気が……。なんだっけ。

 日に日に頭がボヤけていって、いかんいかんとなるけれど、特に急ぎの仕事を抱えている訳でもないし、何より1年ぶりの休暇なのだ。普通に過ごしたらいいやん、と自分でも思うけれど普通が一番難しい。こういう時、前は……、旅に出てたか。いまは息子もいるし、コロナ禍で難しいだろうな。そうだ、家の整理をしようと、まずは久しぶりに書庫へ。積み重なった本を整理しながら、唖然としてしまった。ほとんど必要のない本ばかりだな。そう感じるなんて思ってもいなかった。本を読んで、刺激を受けて、生き方も変わったし、なによりたくさんの音楽や映像の作品を生み出せた。だけど、いま感じたのは、持ってる本の大半はもう必要ないだろうな、だった。僕が本から受け取ったものは、自分なりに作品にしてきたのだから、作品が残っているからもういいのかと思った。そしてなにより、これまでに作品をつくっている瞬間がずっと何度も何度もあったこと、とんでもなく集中して、ひとつの世界観のなかに没頭できた日々が自分の人生にあったことを愛おしく感じた。

 すぐには形にならないだろうけれど、ぼんやりと新しい流れに入っているのだと思う。息子がいるのが当たり前で、家族みんな楽しくて、妻がやりたいこと、息子がやりたいこと、僕自身がいつか成し遂げたいと思い続けていること、全部叶うような暮らし方に、気張らずに気楽に向かっていきたいなと。よく笑って、よく泣こう。息子のはじめての誕生日に、おめでとう!

たかぎ・まさかつ●音楽家/映像作家。1979年京都生まれ。12歳から親しんでいるピアノを用いた音楽、世界を旅しながら撮影した「動く絵画」のような映像、両方を手掛ける作家。NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』のドラマ音楽、『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』の映画音楽、CM音楽やエッセイ執筆など幅広く活動している。最新作は、小さな山村にある自宅の窓を開け自然を招き入れたピアノ曲集『マージナリア』、エッセイ集『こといづ』。
www.takagimasakatsu.com

文・高木正勝
絵・たかぎみかを

記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。