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多様性

連載 | ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ

きっと、ようやく、ここがスタート。

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今だから言えることだが、この連載が始まったばかりの頃、僕は空っぽだった。営業マンとして勤めていた会社を鬱になってやめ、27歳にしてフリーター。始めて間もない「やる気あり美」だけを心の頼りにして、なんとか外出する日もあったが、ほとんどは家で天井を見ていた。壁の薄い、隣の部屋のテレビの音がそのまま聞こえてくるぼろアパートのそれは意外と綺麗で、そして無機質だった。「天井さえも冷たい」当時の僕は自信などからっきしなく、そして孤独だった。連載の話があったのはそんな時で、初めのうちはオファーが来たことを喜んだ。誰かに選ばれるということが、嬉しかったのだ。そんなことはもうずいぶんと無かったから。

だけどいざ始めると、当時担当編集のIさんに何かにつけて食ってかかった。弱い人間というのはごちゃごちゃと言うものだし、ごちゃごちゃ言う時、人は弱っている。「この連載に、何を期待されているのか分かりません」「この赤入れの意図が分かりません」。僕が言いたかったのはつまり「自信がありません」の一言だったが、Iさんはいつも粘り強く言葉を返してくれた。それは温かな激励がほとんどだったけれど、時には正面切った反論や、素直な動揺であることもあった。

そんな僕がようやく自信を持って書けるようになったのはつい最近のことだ。「続けてきた」ということが、思っていたよりずっと自信につながっていた。そして、これまでたくさんの方から頂いた応援の声が、自信と責任感を育んでくれたのだった。

ここまで僕を連れて来れたのは、間違いなくIさんだ。一度僕があまりに行き詰まって「何も書くことがない」と言い出した時、Iさんは「太田くんの思うままに書いてくれたらいい。それが“LGBT”と社会の架け橋になると私は信じてる。太田くんにお願いして間違いだと思ったことはない」と言ってくれた。僕はIさんには感謝してもしきれない。

そんなIさんから「ソトコトを卒業する」と告げられたのは、ある春の日のことだった。その日はたしかよく晴れていた。「久しぶりに今後について話そう」とメールが来て、楽しくお茶をした後、彼女が「実は」と切り出した。

僕は実感がわかなかったのか、悲しいとか寂しいとかそういう感情が湧かず、ただ「次は何をするんですか? わぁ、いいですね。応援しています! いつでもお茶しましょうね! わはは!」と騒ぎ立てて、笑った。「今までありがとうございました」と言うタイミングは、とても難しいのだなと、帰りの駅のホームでぼんやり思った。

そして先日、彼女の送別会。そこで同僚の方がこんなことを言った。「Iさんはいつも悩みながら、この赤入れの仕方は失礼じゃないか、このメールは書き手を傷つけないかと、隣の席の私に聞いてきた。こんなにも真剣に対峙しているから、いい記事をたくさん作っているんだと、勉強になった。」

「あーそうでしたか……」。僕は心の中でそうつぶやいたけれど、実際の声は少しも出せなかった。出したら恥ずかしくも泣いてしまいそうだったから。

Iさん、これまでたくさんの気苦労をかけて、本当にごめんなさい。そして本当にありがとう。気持ちに余裕がなかった頃、「余裕がありません」と素直に言えたなら、揉めずにいれたことがたくさんあったと思います。どうしてこうも僕は、後になってからしか気付けないのでしょうか。恥ずかしい。

この連載をこれからちゃんと書ききることが、あなたへの感謝を示すことにもなりますでしょうか?なったらいいなと信じて、僕はこれからも書こうと思います。どこの馬の骨か分からなかった僕を信じてくれて、どうもありがとう! 貴女の更なるご活躍を、いつも、どこにいても願っています。

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