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多様性

連載 | やってこ!実践人口論

マグロ釣りと松方弘樹

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「実践人口」を増やすための合言葉が「やってこ!」である。「やってこ!」が世代を超えたつながりを生み、ローカルをおもしろくする。自然の中で脳に報酬を与えていこう。

 先日、沖縄県・石垣島から北海道稚内市まで約2800キロの大移動をした。飛行機を乗り継いだ先に待っていたのは気温差25度の世界。27度の常夏から2度の極寒へ。自律神経は“西野カナの曲”のように激しく震えたであろう。あたたかい南国の気候は気持ちを和らげて、身体にほどよい緩みを与えてくれる。一方、日本最北端の土地では厳しい海風にさらされながら、人の温もりと冷たい海が育む魚介類に舌鼓を打った。ふわふわのミズタコの刺し身を口に入れた食感と旨みはいまも記憶に残っている。国外はもちろん、国内の移動が制限される中で、日本列島の最南端から最北端まで2週間の旅をした経験は自身の「自然観」を大きく拡張するものとなった。今回は、最南端の石垣島で挑んだマグロ釣りについて話したい。

目次

人生初の海釣りがマグロ

 まず、私は松方弘樹ではない。72歳で361キロの巨大マグロを釣り上げるような体力もなく、華奢な身体に「やってこ!」の”架空エンジン“を積んで何とか全国をさすらっているだけの編集者だ。居酒屋で酒を飲むのが運動だと思っている節がある。昨年から釣りに少しハマりかけていたこともあって、友人から「石垣島でパヤオに行かない?」と誘われたのだ。パヤオとは回遊魚が集まる浮漁礁のこと。マグロ釣りの聖地みたいな場所らしい。二つ返事で「とりあえず行く」と言ったのだが、前述のとおり冬の稚内まで行く想定の旅だったために荷物は大混乱。準備不足もはなはだしい。

 言われるがままに朝7時に船に乗り込んで、沖に向かうこと1時間20分(!)。人生初の海釣りで、当然、船に乗ったこともない。その日の波は大きく、船は揺れに揺れて、パヤオに着いた頃には船酔いはマックス。普段は漁師のコワモテの船長に「とにかく竿を振りながら巻き続けて!」(注:ジギング)と言われるものの、気を抜いたら吐きそうになる胃腸の緊急事態宣言状態。誘ってくれた釣り好きの友人を見たら、とうにダウンしていた。なんなんだ一体。とりあえず遠いところに折角来たからには! と気合を入れ直して、4キロほどのキハダマグロを釣り上げるものの、気持ち悪さが勝って釣り人を興奮させるアドレナリンの放出はゼロ。釣った実感はほぼ残らず、30分経った頃には”甲板を舐め続ける肉の塊“になっていた。薄い布のズボンに海水がかかり続けて体温は奪われる。帰りたくても帰れない。「いっそ殺してくれ」と言葉にならない胃液を青い海に吐き出しながら、初めての海釣りは終わったのだった。

松方弘樹

釣りにハマる経営者

 東京で会社を経営している友人が、ものすごい勢いで釣りにハマッている。その理由を尋ねたら「会社が安定してくると、創業期ほどドーパミンが出る機会が減る。釣りは一定までの努力が必要で、最後は運の要素が大きい。だからこそ釣れた瞬間に報酬系のドーパミンが出るから、ハマるのかもしれない」と言っていた。また、期待値よりも大勝ちする(予想外の大物を釣る)と脳は大興奮するとも……。わかる、わかるぞ、その感覚! 普段、パソコンやスマホに触れすぎていて、その反動として強制的な自然との接点が釣りにあると思っていたが、どうやら脳への“報酬”が中毒性をもたらしているようだ。

 会社の安定は、経営者に時間とお金の余裕を生むこともある。だからこそ私自身、石垣島で1回2万円のマグロ釣りに挑むことができた。旅と遊びが仕事になるだ。だが、ハードな船酔いは脳への報酬をシャットダウンする。普段、仕事でストレスを抱えがちな経営者にとって、ドーパミン皆無の船酔いマグロ釣りはなかなかの地獄だ。

 いつだって実践者のチャレンジは博打のようなもの。7割のハズシがあるから、3割のアタリを待つことができる。仕事を釣りに例え始めた先には、きっと松方弘樹の大きな背中が見えてくるはずだ。

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