「誰がどこでどんな思いで動いているのか感じ取り、政治に活かして住民の幸せにつなげる」のが桑原さんの考えるウェルビーイング。選書した本はどれも大学時代にじっくり読んだもの。「10年以上経っても行政の場でじわじわと効き続けている実感があります」と語る。
新潟県・津南町町長|桑原 悠さんが選んだ、ウェルビーイングを感じる5冊
私は大学院時代、公共政策を学ぶとともに、国際政治や国際関係にも興味を持っていました。『外交』は地方財政論の教授が「基本中の基本」と勧めてくださった本です。アメリカの国際関係の築き方やその歴史を名外交官が徹底した現実主義で書いていて、国と国の関係づくりはきれいごとではなく、パワーとパワーがぶつかり合うことを意識した交渉ごとだとわかったのが勉強になりました。
私が今行っている地方自治でも、理想を掲げながらも現実的にならないといけないこともあります。そんなとき、私に現実思考を教えてくれたこの本が指針になることも多くあります。現場の声を聞いて、それを現実的に政策に活かし、そして住民と行政の関係をよりよくしていくのも「外交」で、行政にとってのウェルビーイングだと思います。
対して、政治職の私と官僚である職員の関係におけるウェルビーイングを考えるのにいいのが『政と官』。双方がよりよい関係を築くための具体的な提案が心強いです。著者は危機管理のスペシャリストでもあり、危機的状況下における立ち居振る舞いを手本にしたい方でもあります。令和元年の台風19号では津南町にも大きな被害があったのですが、「指揮官の私がしっかりしなければ」と思えたのは、著者の本を何冊も読んできたおかげかもしれません。政治家がしっかりしていることは、住民のウェルビーイングにもつながりますよね。
住民のウェルビーイングをさらに向上させたいと考えるとき、思い出すのは『忘れられた日本人』です。地域ごとに独特の民俗文化があり、東京や別の場所では正解になることでも、ここには当てはまらないこともあります。津南町のよさを探し出して発信することは、観光客にアピールできるだけでなく、住民に自信を持ってもらうことにもつながります。探し出すことは、「プライドの掘り起こし」と言い換えることもできるでしょう。
例を挙げると、津南町は雪の多い地域なのですが、雪国のよさを伝える滞在プログラムなどで、雪の時季そのものではなく、11月末から12月上旬の「雪降り前の仕込み時季」に焦点を当てようというアイディアが出たりしました。そのほうが「雪国とはどんな場所で、どんな思いでみんな暮らすのか」ということが伝わるのではないかと。そんな、「何がここならではの『特別』なのか」を整理してくれた本です。