老舗のような風格で存在感とストーリー性のある「大阪みやげ」を世に送り出す『一創堂』。新しい大阪らしいお菓子はどのようにつくられるのか、代表の野杁達郎さんに伺った。
一癖も二癖もあるキャラクターが描かれたレトロな缶に入った芋けんぴやビスケット。製造販売する『一創堂』は風格ある古民家に居を構えているので、さぞや昔から続く老舗かと思いきや、創業は2019年。「大阪のおみやげはもっとおもしろくなるはず」という代表の野杁達郎さんの思いとともに始まった。

13年間勤めた化学メーカーを辞めて、親戚のおみやげ店を手伝っているときのこと。「大阪のおみやげって、歴史やストーリーを感じさせるものが少ない」と感じた野杁さんは、歴史博物館に足を運んだり、詳しい人に話を聞いたりして、江戸時代に大阪で愛された門付け芸「ちょろけん」のことを知る。さらには京都府の京野菜、和歌山県のみかんのような、大阪府ならではのものはなんだろうと探し始めると、物流拠点だったまちの歴史にたどりついた。「江戸時代、天下の台所と呼ばれていた大阪には全国から海や川でさまざまな産物が運ばれ、それらを加工していました。その名残として諸藩の蔵屋敷があった場所が“土佐堀”などという町名として残っているんです」。

こうした大阪ならではの特徴を「大阪みやげ」に使えないかと考え商品化したのが高知県特産の芋けんぴから着想を得た「なにわちょろけん ちょろけんぴ」だ。土佐藩の蔵屋敷跡にある「土佐稲荷神社」に協力を願い、奉納紙を付けてもらえることになった。「瀬戸内海を渡ってきたので、ちょっぴり塩味にしてもらいました」と笑う。

入れ物に缶を採用したのは、食べたら捨てられてしまうものより、雑貨のような感覚で残してほしかったから。実はパッケージやキャラクター、缶のデザインはすべて野杁さん自身が手掛ける。「時間はかかるんですけどね。スケッチしてパソコンを使って。缶のエンボスは3Dの図面も起こします」という野杁さん、実は美術大学でプロダクトデザインを学び、前職では生活雑貨をつくっていた。今はお菓子をつくりながら、雑貨をつくる感覚もあるという。

もちろん肝心のお菓子がおいしくなければ、2回目は買ってもらえない。以前レアチーズプリンにクラッカーをディップして食べるお菓子を販売していた際、価格を抑えるためにチーズの量を妥協したが「かわいいし売れるやろ」と思っていたら、手に取ってもらっても次には続かなかった。「だから次に発売した芋けんぴからは味にめちゃこだわりました(笑)。ほんまおいしいと思ってくれたら次も買うし、他の人にも食べさせたいと広がっていく」。こうして誰かの定番のおみやげになっていくと気づかされたという。

頭の中には、まだまだいろいろなアイデアがある。「ずっと大阪に住んでいても知らないことがたくさんあって、それを掘り起こしていくと宝物のようなものがたくさん出てくる」。それをパッケージにして、みんなが見られるようにすると、地元の人にも魅力を再発見してもらうことができる。「よくふざけたパッケージだなと言われるんですが、違うんです。本気でふざけているんです」と笑う野杁さん。これからもおもしろいものがたくさん生まれそうだ。