川と道と公園と鉄道高架下は一つのエリア。北十間川の“水辺編集”。

特集 | 新・地域の編集術 | 川と道と公園と鉄道高架下は一つのエリア。北十間川の“水辺編集”。

まちづくりの手法としてある公民連携。その形もさまざまです。東京都墨田区を流れる北十間川の周辺でも、墨田区と東武鉄道、地域住民の連携によって、“水辺編集”が進められています。


ただ公園にいるだけで、地域の思いは汲み取れる。


 東京都墨田区。『東京スカイツリー』のそばを流れる北十間川の周辺に新たな空間が生まれた。2014年に東京都が北十間川の耐震護岸工事に着手したことを契機に、墨田区が北十間川と隅田公園、区道を整備し、東武鉄道が北十間川沿いにある高架下に商業施設『東京ミズマチ』を、さらに、隅田川に架かる鉄橋に沿って「すみだリバーウォーク」を新設した。19年から20年にかけて行われた大がかりな整備工事で、以前とは見違えるほどの風景が立ち現れたエリアで今、墨田区、東武鉄道、地域住民の三者による管理・運営、つまり場づくりが始まろうとしている。


 
隅田川を渡る東武スカイツリーラインの鉄橋に新設された歩道「すみだリバーウォーク」。

 ただ、そう書くと、北十間川周辺の水辺空間が最初の段階から公民連携の形をとってつくられたように思えるが、整備段階で三者の連携で行われたのは、エリアの一体的な整備。ヴィジョンブックやデザインガイドラインを作成・共有し、各々が管轄する施設を各々の予算でつくることに注力してきた。地域住民も、治安に不安があった隅田公園が整備されると、その後の場づくりに対する意見はあまり出なくなった。


 今後のエリアの活用段階では地域住民にも場づくりに関わってほしいと願った墨田区は、「公共施設マネジメント」部署内にこのエリアのマネージメント検討担当を新設。マネージャーの福田一太さんと浮貝忍さん、笠木勇祈さんらによって、「ただ公園にいるだけ」という公務員らしからぬ変わった活動が始まった。「『東京ミズマチ』が開業するタイミングで、試験的に公園に出て『そよ風会議室』と称してテントを張り、誰かが来るのを待ちました」と浮貝さん。テント脇にバスケットゴールを立てると子どもがシュートをして遊び、会議を開いたら「何をされているんですか?」と尋ねられた。「でも、そうなったらしめたもの。『公園の活用についてブレスト中です』と答えると、『僕はこんなことやりたい』と話し始める地域の方もいました」。「それ、やってみたらどうですか?」と誘う浮貝さんに、「手続きが大変そう」とあきらめる住民も多いが、「手続きを踏めば堂々と使えるし、職員との対話からいい関係が生まれたりもしますよ」と後押しし、公園の利活用を促した。


 
「そよ風L@B,」の前にバスケットゴールを立てると、子どもが近寄ってシュート遊びを開始。このボールも弾みすぎないように空気の量を減らしているそう。

 20年8月からは「そよ風L@B,と名称を変え、地域の人たちのやりたいこと、例えば、隅田公園での音楽ライブ、上映会、ソーシャルディスタンス盆踊り、北十間川テラスでのハンモックの設置やリモートワークなどを社会実験として実施した。「公共空間を、誰もが、いつでも、簡単に使えるように準備しておくのが行政の役割」と、福田さんは社会実験の意義を説く。


 東武鉄道も「そよ風L@B,」と活動する予定も当初はあったが、新型コロナウイルスの影響で動けず隅田公園や北十間川テラスの場づくりをそばで見るしかなかった。「活動を気にかけてはいましたが、正直、三人のように手弁当で公園にテントを張り、地域の皆さんと自然体で接するやり方は……、私たちには難しいアクションでした」と東武鉄道の齋藤廣平さんは言う。一方、浮貝さんは、「僕ら墨田区から誘えばよかった」と公民の距離を縮められなかったことを反省する。


公園にテントを張り、パソコン仕事をしている福田さん。こんなふうに誰かが話しかけてくるのを待つ。

 東武鉄道と墨田区は21年4月から北十間川周辺エリアの管理・運営のあり方の検討を開始。「まずは、北十間川テラスの新しい船着場での社会実験に参加します」と東武鉄道の中島結香さん。そして、「隅田公園で区の方々とテントに入り、地域の皆さんの声に耳を傾けます」と意気込みを見せた。


 ますますおもしろくなる北十間川周辺エリア。公民がゆるやかに手をつないで整備し、地域住民を誘い込みながらおもしろい活用方法を探っていく。そんな連携のあり方も、一つの編集だ。新しい場づくりのヒントになるかもしれない。



つくる側と使う側の視点で、今感じていること。

つくる側と使う側の視点で、今感じていること。(語り:細田侑さん)


地域の人と一緒に、新しい盛り上がりを。


 2018年から、水辺の価値創出を行う『水辺総研』の一員として、北十間川周辺のエリアマネジメントをしていくためのコンサルタントとして参画し、公共空間や商業施設のオープン後は、事務局を務める『すみだ青空市ヤッチャバ』で公園の利活用に貢献したいと思い、隅田公園で開催しています。このエリアの「つくる側」から「使う側」へと立場を変えて関わる人間です。


 
『ヤッチャバ』の手描き案内図。

「つくる側」としては、墨田区、東武鉄道、地元の町会・商店会、東京都などを交えた「北十間川水辺活用協議会」に参加し、地域づくりについて話し合いました。僕の役割は、墨田区出身なのもあって商店会など地域住民と墨田区、東武鉄道の間に入って、関係性を深めること。「使う側」としては『本所吾妻橋商店会』会長の松村由美さんに『すみだ青空市ヤッチャバ』のことを話すと「商店街でやってほしい」と言われ、20年8月には青空市を開催しました。翌9月に隅田公園で映画上映会を開いたときは松村さんたちが来てくださって、「商店会も公園で何かやろう」と盛り上がりました。『東京ミズマチ』の店長さんたちも、北十間川テラスや公園でイベントを行いたいとのことなので墨田区や東武鉄道とも連携して、新しい盛り上がりをつくれたらと思っています。


 
お花屋さんには、季節の生花が毎週並ぶ。

立ち話から始まる、おもしろいこと。


『すみだ青空市ヤッチャバ』は、10年に墨田区役所前で始まり、「食を介して人をつなぐ。人を介して地域をつなぐ。」をコンセプトに曳舟駅前で続けているファーマーズマーケットで、隅田公園も、毎週日曜日に開くことで地域のインフラとなり、気軽な交流が生まれる日常風景になればうれしいです。もちろん、これだけではなくて、毎週ここにいると地域の皆さんが「何かやりたい」「イベントを手伝いたい」と声をかけてくださいます。そんな立ち話からおもしろいことが始まったりするので、公園を使って何かやってみたい方、ぜひ声をかけてください。一緒にやっていきましょう!


 
細田侑さん。毎週日曜、隅田公園にいる。

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