40代で脱サラ&移住し行橋にハワイを持ってきた男

40代で脱サラ&移住し行橋にハワイを持ってきた男

福岡県行橋市のハワイ料理店「ハレイワキッチン」の厨房に立つ、関屋英二さん(撮影:角谷英彦)。40代後半で会社員をやめ、行橋市に移住して店を開いた。移住や独立など、暮らしや働き方を変えてみたいと思っても、その先の自分の生き方や人間関係の構築を考えると、なかなか1歩を踏み出せない人も多いはず。関屋さんの決断を後押ししたもの、新しい場所での店舗経営や地域との関わり方について話を聞いた。

ハレイワキッチンオーナー
関屋英二さん/1970年生まれ。福岡県朝倉市出身。高校卒業後、多種多様な職業を経験し、2003年、33歳で地域づくり主体の広告企画会社「JTBコミュニケーションズ九州」に営業職で入社。2010年~2017年は同社より「佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》」に出向し、プロモーション業務に携わる。2018年8月に同社退職、福岡県行橋市に移住。2019年8月にハワイ料理専門店「ハレイワキッチン」をオープン。現在に至る。(c)関屋英二

20〜30代で重ねた経験と人との出会いが財産に


「自分がいつも笑っていて、人も笑わせるのが人生のテーマ」と話す通り、快活な笑顔が印象的で、コミュニケーション力の高さが人をひきつける、関屋英二さん。その人間的な魅力が評価され、20代は外食産業や通販企業、営業職、イベントプランナーなど様々な業種で経験を積む。
関屋英二さん(以下関屋さん)「その頃はとにかく何でもやってみようと。7~8社は転職したと思いますね。いろんな業界の方から誘っていただきました。声がデカいのもあったのかな(笑)」

チャレンジ精神で進み続けた20代を経て、2003年、33歳で福岡市の広告企画会社に営業職で入社し、自治体や行政などをクライアントに、地域創生や町づくりに関わるさまざまな企画を提案。2010年からは同社から「佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》」に出向し、家族で佐賀県武雄市に移住。広報営業課長としてプロモーション業務に携わる。


関屋英二さん
2017年3月。出向先の「佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》」を退館。(c)関屋英二

48歳で脱サラ。成長した息子にどんな背中を見せたいかを考えた


2017年3月までで《ゆめぎんが》への出向を終え、福岡市内の会社へ戻ることになったのが47歳。このまま広告畑で働き続けることも考えたが、関屋さんは退職を決意する。


関屋さん「44歳の時に息子が生まれたんですが、自分が60歳で定年するとしたら、そのとき息子はまだ15、6歳。まだ学費もかかるし、正直、60を超えた後、自分がクリエイティブやマーケティングの分野で、若い感性と互角の勝負ができるだろうかと。それで、自分がずっとやってみたかったことを始めるなら、今かもしれないと思いました」


行橋へ移住しハワイ料理店の開業準備。しかし自身の人脈はゼロ


2018年8月に退職し、行橋市に引っ越して妻の実家で同居することに。妻が一人っ子ということもあり、いずれ行橋に住むことは結婚前から話していたという。


関屋さん「それに息子はまだ就学前でしたし、転校などをしなくて済むタイミングということもあって。行橋に自分自身の友人知人は全くいませんが、なにより妻の両親がいますので、子育てでとても助けてもらっています」


関屋さん自身にとっては新天地となる行橋で、なぜハワイ料理店をしようと思ったのか。理由は単純明快、「ハワイが好きすぎた」から。


関屋さん「初めてハワイに行ったのは20代後半。当時務めていた会社の旅行ですごくいいところだなと。その後、妻との新婚旅行でも訪れたんですが、この時に感じた流れる空気感や香り、なにより地元の人々の温かさや優しさがずっと脳裏に焼き付いていて、ハワイが大好きになりました。そこから、いつかはハワイに関わることをしたいなという思いはずっと持ち続けてましたね」


ワイキキビーチ
2019年7月、調味料の仕入れや情報収集のために訪れたハワイ・ワイキキビーチ。(c)関屋英二

新婚旅行が初めての海外渡航だった妻が、バスの乗り方からメジャーな観光地以外のコアなスポットまで入念な下調べをしており、とても充実した旅だったそうだ。この新婚旅行から20年、トータルで10回はハワイを訪れているという。


関屋さん「退職した後、行橋でガーリックシュリンプを出す店をしようと思ってはいました。とはいえ人脈もない場所での開業ですから、退職後しばらくは、自分の考えを咀嚼する時間にあてましたね。これまで経験してきた様々な業界でお世話になった方々に会いに行っては話を聞いたり、異業種交流会にも積極的に参加しました」


これまで培った“人との絆”を生かして経営者や飲食業の先輩にも意見をもらいながら、考えの裏付けをし、開業への自信に繋げたという。


具体的な開業準備に入ってからもビジネス上のツテがないことでの苦労は多々あったが、物件探しには市内各所を自分の足で行って見て回ったおかげで、行橋市役所前という好立地に出会う。そして開業前月にはハワイに出向き、仕入れや最新情報の入手などを経て、2019年8月に「ハレイワキッチン」をオープンさせた。


ハレイワキッチン
行橋市役所前に2019年8月にオープンした「ハレイワキッチン」。(c)関屋英二

前職は広告会社勤務だった関屋さん、料理はもともと好きでやっていたそうだが、話を聞くと“趣味“の範疇を超えていた。幼少期から料理に興味を持ち、小遣いを貯めては料理本を買うほどだったそうで、店で提供しているガーリックシュリンプの味も、実は準備期間の1年で仕上げたものではない。


関屋さん「ハワイに行くたびに20軒ほどある専門店を食べ歩いては、日本に帰って作ってみる、を繰り返してました」


こちらも実に20年に渡る試行錯誤を繰り返して生み出された味なのだ。


ガーリックシュリンプ
「ガーリックシュリンプ」税込980円。プレートランチスタイルで、テイクアウト・イートインいずれも楽しめる。(c)関屋英二

行橋の人々にハワイは受け入れられるか

アロハスピリッツで、地域のより所に


行橋市で「ハレイワキッチン」をオープンして1年と少し。ハワイというカテゴリがこの場所で定着するかということは開業前から思っていたそうだが、1年経ってみてどうだろうか。


関屋さん「近所の常連さんも増えてきたのですが、まだ胸を張って“受け入れられた”といえるところまでは正直きていないですね。でも、うちの店に来てくれたら、きっと楽しんでもらえる自信はある。行橋の人たちに、“アロハスピリッツ”を伝えられたらと思います」


アロハスピリッツとは、「自分が自分が」ではなく、相手を思いやる心。常に笑顔でいる、相手を笑顔にすることをモットーにしてきた関屋さんが、最も大事にしているハワイの心意気だ。


関屋さん「でも自分自身も若い頃はその気持ちが足りなかった。30代で広告企画会社に入ってからやっと、相手の立場だったら…ということを思えるようになったと思います。そういう意味でも、これまでの経験が生かせる今、店を開業して良かったです」


メニュー内容やサービスを地元の利用客に気に入られるように変更することは簡単だ。だがそれをしてしまうと、外から来た自分がわざわざハワイの店をやる意味がないと関屋さんは言う。


関屋さん「ハレイワキッチンで、僕自身がハワイで感じたような人の温かさとか楽しさを体感してもらって、『あそこに行けばいつも楽しい』と、地域の人が集える場所になれたら嬉しいですね」


ハワイ夕景
ハワイに住むかつての同僚に送ってもらったという写真。コロナ禍でなかなか訪れることは難しいが、こうしていつもハワイの最新情報は仕入れているそう。(c)@shu_photrip

 コロナ禍も地元の常連客に支えられ


オープン1年を迎える直前で新型コロナウイルスが流行し、影響は少なくなかったが、もともと開業時よりテイクアウトをやっていたこともあり、オペレーションを大きく変える必要はなかった。感染対策などを徹底し通常営業を再開した6月以降は、地元の常連客からのリクエストで夜の貸し切りもスタートさせた。


関屋さん「小さな店なので、少人数のクローズドな会に使っていただければと思います」


ハレイワキッチン店内
「ハレイワキッチン」店内。ワーキングスペースとしての利用も可能だ。(c)関屋英二

 


移住者だからこそ新しい風を吹かせたい


妻の地元とはいえ、自身には友人知人もいなかった行橋市に住んで2年。「ハレイワキッチン」をオープンしたことで、少しずつだが人とのつながりができつつある。しかし移住する前はやはり不安も多かったため、もっと相談する場所があればと関屋さんは言う。


関屋さん「海も山もあって自然が豊かで、子育てするにはとても良いですし、福岡市にも1時間ちょっとで行ける距離感です。以前、佐賀県武雄市に移住した際はIターン補助などがあって助かったので、行橋市にもそのような移住相談の窓口があると良いなと思います」


行橋の風景
行橋市・馬ヶ岳城跡。黒田官兵衛が中津城に移るまでの間、居城とした山城。写真提供:福岡県観光連盟

町の将来像や地域創生、人口交流については、地元に住む人はなかなか客観的に考えることが少ない。移住者だからこそ、考えるきっかけを作れるのではないかと関屋さん。


かつては広告プランナーとして地域づくり・町づくりに関わっていたが、いまは町の“いち店主”として、行橋の未来を地域の人たちと一緒に作っていきたいと語ってくれた。


ハレイワキッチン
住所:福岡県行橋市大橋1-4-3
電話:0930-58-9328


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