憂国呆談

連載 | 田中康夫と浅田彰の憂国呆談 season2 | 憂国呆談 season2 volume124

東京・渋谷区千駄ヶ谷にある出版社・『河出書房新社』の屋上を再訪。前回は6年前、国立競技場を解体する過程でお邪魔したが、今回は東京オリンピック・パラリンピック開催を待つ新国立競技場が目の前に。3度目の非常事態宣言で、リモート参加となった浅田さんに、バックヤードへの搬入車両の動きをモニター越しに説明する田中さん。「それでも“令和のインパール作戦”を強行するの?」と、二人の苦悩は止まらない。


東京オリ・パラ強行開催と、「復興五輪」の聖火リレー、製薬会社のワクチン供給から、アメリカの対中国政策まで。


福島からスタートした、聖火リレーにドン引き。


田中 今日は、『ソトコト』2015年8月号の「憂国呆談」の撮影で訪れた『河出書房新社』のビルの屋上に再びやって来た。6年前は、新国立競技場の建設費の一部を東京都が払う、払わないと、当時の舛添要一都知事と下村博文文部科学大臣が揉めている最中だった。


浅田 僕も再訪したかったけど、都知事の小池百合子が「東京に来ないでください」って言うもんだから──ってのは冗談で、新型コロナウイルスの変異株によって感染者が急増してる京阪神から首都圏に行くのは確かに避けるべきだから、京都からリモート参加ってことに。しかし、今回の急増が始まってた3月21日に2度目の緊急事態宣言を解除したんだから、タイミングが悪いにもほどがある(その後、4月25日から5月11日に3度目の宣言を東京都、大阪府、兵庫県、京都府に発令。愛知県と福岡県、北海道、広島県、岡山県も対象地域に加えて5月31日まで延長されることに)。しかも、国と都はこの期に及んでまだオリンピック・パラリンピック開催を強行する、と! 国民の7〜8割が中止ないし延期やむなしって言ってるし、我々も当然中止すべきだって言ってきた。強行開催するにせよ、無観客にするくらいのことはずっと前に決めとくべきだったのに、それさえいまだに決めずにいるから、感染対策も医療態勢も決められない。


田中 「日本はメルトダウンどころかメルトスルー状態だよ」と前回の「憂国呆談」を締めくくったけど、事態はさらに深刻化していて、その中で河野太郎の非常識な振る舞いは度を超している。2018年の「3・11」追悼式の出席2時間前に日の丸を掲げて踊るコスプレ動画をアップした死者への冒瀆にも呆れたけど、「オムレツあ太郎」の異名を取るワクチン担当大臣は今回、緊急事態宣言発令中にデリバリーフードをテーブルに並べ立てた議員会館の自室としき空間で、自慢げにケン玉を披露して複数の会食者が歓声を上げる動画をアップ。それを問題視しない「#あたおかニッポン」記者クラブにも呆れるよ。


『ソトコト』2018年5月号の「憂国呆談」は現代美術家の会田誠の展覧会場で撮影したけど、その彼が5月の連休明けに「近年最も薄汚れた日本語の単語は『絆』でしょうね。同率1位に『桜』もいますけど」とツイートしていて、思わず膝を叩いた。


浅田 「オリンピックに向かって暴走する安倍晋三と小池百合子の東京を徹底的に批判し尽くす」企画だと僕が評価した「GROUND NO PLAN」展だね。


田中 元々は家畜をつないでおくための綱が絆だからね。「糸」が「半」分という差別的言辞。転じて束縛とか拘束、刑具の足枷や手枷。会田の鋭い指摘に触発されて、政治家が多用する「ていねいな審議」、「寄り添う」、「お誓い申し上げます」、「真摯」や「安心・安全」も薄汚れてしまったと書き込む方々がいて、まだ市井の見識は腐ってないと感じた。「コロナ、そこまでのものか」と昨年3月に『朝日新聞』で豪語した国立感染症研究所OBで内閣官房参与の岡部信彦、同じく7月に経団連夏季フォーラムで「旅行という移動が感染を起こすことはない。それが起きていたら日本中は感染者だらけ」と胸を張ってた"誤用学捨"(御用学者)の“カメレオン”尾身茂よりも数百倍はマトモ。「バ〜ニラ、バニラ、バ〜ニラ求人、高収入」のド派手な宣伝カー以上の大音量で、真っ赤に塗られたコンボイ・トラックの屋根でDJががなり立てる聖火リレーも欺瞞そのもの。


 聖火リレー費用100億円のスポンサーが日本コカ・コーラ、トヨタ自動車、日本電信電話(NTT)、日本生命の4社なのは周知の事実だけど、逆効果なお祭り騒ぎでドジッたと経営トップは頭を抱えてないのか? 「オムレツあ太郎」の動画と同じ「3・11」犠牲者への冒瀆でしょ。聖火ランナーが黙々と走る映像だけで演出したら、まだしもアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』や太宰治の『走れメロス』に通ずる鎮魂イメージとなったのに、今や電通は「電痛」化してないか(涙)。


浅田 NHKの「聖火リレー・ライブストリーミング」で、長野市の沿道からオリンピック反対の声が聞こえ始めたとたん30秒にわたって音声が中断。露骨すぎるよ。


 大阪府は公道での聖火リレーを断念し、2日にわたり万博記念公園を締め切って3キロほどのコースを200メートルずつリレーしてた。各市町村からランナーが出るんだけど、各々4人までは応援を連れて来てよくて、それ以外は無観客。「太陽の塔」も寂しそうだった。


田中 津波に直面した福島県・富岡町で第一走者を務めたのは中学1年生。誇らしそうに笑顔で走ってたけど、隣の大熊町で生まれ育った彼は震災10年後の今も、避難先の宮城県で家族と暮らしている。この日だけ、富岡町にやって来た。「原子力 明るい未来のエネルギー」の看板が撤去された双葉町の聖火リレーは、双葉駅前の500メートルをグルグルと1周半回っただけ。「震災復興を世界に発信する聖火ランナーです」と上っ面の報道こそ、“裸の王様”。誰かが復興五輪の「っ」が抜けた「不幸五輪」だとツイートしていたけど、至言だね。


浅田 ついでに言えば、2025年大阪・関西万博も早く中止を決定したほうがいい。感染防止のため自粛を要請する吉村洋文大阪府知事がいつもEXPO2025のロゴ入りジャンパーを着てるのは異様。


田中 今や維新の会は“維ソ新”の会から“ウソ新”の会へと上書きされてる(爆笑)。復興がらみで言うと、福島第一原子力発電所から「処理水を海洋放出」は「処理水」でなく「汚染水」、「海洋放出」でなく「海洋放棄」が正しい呼び方じゃね? 「安全」だったら10年間もタンクに溜め込んでたのはなぜよ。「希釈したから流して平気」も化学的に破綻した論理。元々が「海は広いな大きいな」だから、流せば自然と希釈される(苦笑)。「そんなに安全・安心なら、まずは東京湾で試験放流をどうぞ」の市民運動家の「正論」を論破できない「専門家」は「恥を知りなさい」ってもんでしょ。


浅田 世界中の原子力発電所で汚染水を海に流してること自体よくないと思うけど、それが国際標準だとすれば、フクイチは汚染水処理システムが一応できた段階で「緊急事態だし国際標準でもあるから」って言って流したほうがよかったんで、10年も貯めたものを急に流すって言ったら、そりゃ騒ぎになるよ。


 しかも、フクイチの汚染水にはトリチウム以外の放射性物質が入ってる可能性もある。2月に福島県沖で水揚げされたクロソイから国の基準の5倍の濃度の放射性セシウムが検出され、放射性物質が生態系の中で濃縮されていく恐ろしさを改めて思い知らされた。なのに、汚染水を説明する動画やチラシにトリチウムのゆるキャラを使った復興庁のセンスには驚くね。


田中 “令和の政商”電通への発注額がわずか1500万円だからいいでしょって話じゃないぜ。


浅田 安倍晋三・前首相がフクイチは「コントロール下にある」って言ってオリ・パラを招致したのに、いまだにコントロール下にないことが明確になったわけだ。


 カート・ストリーターってスポーツ記者が『ニューヨーク・タイムズ』に「オリンピックそのものを再考すべき時ではないか」って書いてたよ。巨大化の挙げ句、まともな民主主義国での開催が難しくなり、22年の冬季オリンピックは中国とカザフスタンから選ぶしかなかった(24年はパリだけれど)。開催地を固定する、3週間の間に世界各地で同時にやる、といった形にすべきではないか、と。我々も前から似たようなことを言ってたけど、確かに土建屋やマスメディアが儲けた後、開催地には巨額の赤字が残るだけじゃ持続可能性がない。ちなみに、招致をめぐる贈収賄やドーピングのほか、ナショナルチームのコーチによる性的虐待も世界各国で問題になってて、日本でもつつけばまだ出てきそう。


田中 4月にアメリカで行われた菅義偉首相とジョー・バイデン大統領の会談後の共同会見で、ロイター通信の記者が「オリンピック開催を進めるのは無責任ではないか」と首相に尋ねると、それには答えぬまま共同通信の記者を指名した。米国メディアと違って事前提出していた質問はまったく別の内容で、それには答えたけどロイターには答えなかった。共同の記者は「先ほどの質問と併せてお答えください」と言うべきだったのに、同時通訳をイヤホンで聞いてても理解ができなかったらしい。そのロイター通信が書いていたけど、オリンピックを中止したからと言ってGDPが550兆円の国にとっては痛くも痒くもないはずだと。実際問題、小生と同じく毀誉褒貶しい友人のデーヴィッド・アトキンソンも『朝日新聞』で、「東京五輪が日本経済の起爆剤になるというのは俗説。エビを食べて長寿にあやかるのと同じ。数週間のイベントをやっても、やらなくても中長期的には日本経済にさしたる影響はありません」と2月の段階で語っているのに続報すら出なかった。彼は内閣府「成長戦略会議」委員で首相ともサシで話す間柄なのに。


浅田 しかも、アメリカは選手団派遣を約束してくれなかった。悪い冗談を言えば、各国が選手団を派遣したとして、東京五輪は世界の国々から多様な変異株が集まって感染力を競う「ウイルス五輪」になるかも。


憂国某談2015
2015年、『河出書房新社』のビルの屋上から工事現場を眺める2人。
憂国某談
2021年、同じ場所から国立競技場を臨む。

ワクチン接種競争で出遅れる日本


浅田 僕は21年度中にぎりぎり65歳になったから、「ワクチン接種券」なるものが届いた。しかし、日本にはまだワクチンがわずかしか届かず、接種レースではいわゆる先進国の最後尾。接種を実施する自治体も、いつワクチンが届くかわからない。そこへ接種予約の希望が殺到し、ウェブサイトやコールセンターがダウンすると役場に高齢者が殺到して「3密」に。まあ当分は待ってるほかないな。


田中 すでに4月12日に65歳となった僕にはなぜか届いてないけどね。放送免許剥奪を免れた『フジ・メディア・ホールディングス』傘下の『BSフジ』で、「インフルエンザ・ワクチンも効いてると思います?」とバクテリア(細菌)と違って有為転変するのがウイルス(病原体)だから、薬剤と異なり、治療でなく予防でしかないワクチンはイタチごっこなのだと述べた本庶佑と同じことを喋ってるから、厚生労働省が、ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)にリストアップしてるのかも(苦笑)。


浅田 ワクチンは自分の感染防止と同時に社会の感染抑制を目的とするものだから、ぼくは打つべきだと思うし、経済学の教科書で有名なグレゴリー・マンキューも言うように、わずかとはいえリスクをとって接種する人には報酬を出してもいいくらいだと思う。ただ接種証を持ってりゃ、どこにでも行けるっていうワクチン・パスポートが階級格差を生むとすれば大問題。アレルギー体質で接種しない人なんかも、二級市民として自由を制限されることになる。それにしても、去年の1月10日に中国が新型コロナウイルスのゲノムを公表してからわずか1年でワクチンが開発され、大量接種に漕ぎ着けたのは歴史的快挙。特に、ドイツのトルコ移民二世のカップルがつくった『ビオンテック』ってヴェンチャー企業が開発し、メガファーマ(巨大製薬企業)の『ファイザー』が大量生産するワクチンや、『モデルナ』のワクチンは、ウイルス全体を弱毒化または不活化して接種するんじゃなく、ウイルスのスパイクタンパク質の設計図であるメッセンジャーRNAだけを接種し、人間の体がウイルスのスパイクタンパク質をつくり、それへの免疫を持つよう促すもので、非常に効率的だし(緊急承認のため効果を強調しようとして過剰接種になってる可能性はあるとしても)、変異株への対応も早い。


 ただ、資本主義の競争があるからこそ開発が進んだって言うけど、どこのワクチンにせよ、実はアメリカ政府なんかの公的助成で得られた研究成果を使ってるのに、今回は緊急事態で自由に使えるし、副反応なんかについてはあらかじめ免責されてる。メガファーマを甘やかしすぎだよ。パンデミックは貧しい国にもワクチンが行き渡らないと収束しないんだから、緊急事態の間は特許を棚上げにしてどこの国でもワクチンをつくれるようにしたほうがいい。WHO(世界保健機関)もそう言ってるし、バイデン政権になってアメリカ通商代表部が特許の一時放棄を支持するって言い出したけど、メガファーマは猛反発してるし、EUも反対してて、先行きは不透明。パンデミックにはグローバル資本主義じゃなくパンデモクラシーで対応するしかないんで、「COVAXファシリティ」で貧しい国にワクチンを供給すると同時に、ワクチンの特許も共有できるといいんだけど。


田中 以前にも話したけどアマゾン熱帯雨林に群生している、薬効がある植物を入手しようと製薬会社が長老の下へ行って、お金はいくらほしいか聞くと、これは共有財産だからいいと答えた。これぞ宇沢弘文が提唱した社会的共通資本の発想だ。


浅田 中世では医術は秘術で、それを知ってると称する医師を信頼し、大金を払うしかなかった。それを全部オープンにし、いちいち特許料を取らないってのが、近代医学──さらには近代科学の基本で、それこそが進歩を可能にしたわけ。ところが、最近、何でも知的所有権で囲い込もうとする──薬やワクチンはもちろん数学のアルゴリズムですら。それが異常なんだよ。ともかく、ロシアや中国のワクチンも、一定の効果はあるようだし、中国が東京オリ・パラのためにワクチンの提供を申し出てくれたんだからありがたく受け入れればよかったのに(IOCは受け入れた)。結局、『ファイザー』が選手団にワクチンを供与することになったけど。


田中 一日千秋の思いで電話をかけたり、家族にネット予約を頼んでる高齢者に「焦らずお待ちを」と言い放つワクチン担当大臣の島国。ここでも「自助」が試されるとはイヤハヤ。


憂国某談2


ジョー・バイデン米大統領の、中国と台湾問題への対応。


浅田  中道のバイデンには期待してなかったけど、ドナルド・トランプ前・大統領とコロナ禍で国がひっくり返ったおかげで、思いのほか大胆な政策を打ち出してる。急速にワクチン接種を進める一方、緊急援助に加え、教育や福祉を含む広義のインフラストラクチャーの復興で、合わせて600兆円規模の財政出動、そして富裕層の所得やキャピタル・ゲインへの増税を提案した。ロナルド・レーガン元・大統領(1981年就任)が「小さな政府」を目指し、1996年には民主党のビル・クリントン元・大統領でさえ「大きな政府の時代は終わった」って言った、それを転換して「大きな政府」志向を打ち出したわけだ。付け加えれば、世界で法人税の最低税率を決めてタックス・ヘイヴンを一掃し、グローバル企業にもまともに税金を払わせようって提案も画期的だと思う。


田中 外界から酸素を取り入れ、体内で消化して二酸化炭素を放出する人間の呼吸と同じように、赤字・黒字の別なくすべての企業も日々、仕入れと売り上げを計上しているのだから、事業量に応じて納税する21世紀型の外形標準課税を導入すべき、と以前から我々は述べてきた。


浅田 ただ、全体としては古き良きアメリカ帝国主義に戻ったっていうか(笑)、中国を筆頭とする権威主義の独裁国家群に対し、アメリカが民主主義の先頭に立って対決するから、子分どもはみんなついて来い、と。


田中 グリーン・ニューディール的な発想を掲げているから誰も反発できない。気候変動問題を担当するジョン・ケリー特使は、中国の韓正副首相と北京で会談。気候変動に関してだけは手を組む可能性が高い。


浅田 他方、中国も鄧小平の「韜光養晦」路線に戻り、無謀な自己主張を控えればいいのに。習近平は鄧小平みたいなカリスマじゃないから、無理に威張ってないともたないんだろうな。


田中 日米首脳会談後の共同声明に、中国の行為は国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約)違反だという文言が出てくるけど、その条約自体を批准していないのがアメリカ。そこを突っ込まれたら詰んでしまうと想像しなかった国務省の連中も、改竄忖度の日本の劣化を笑えない。


浅田 共同声明では台湾についても触れてるけど、香港はもう手遅れとして、台湾問題も難しいね。韓国の軍事独裁政権と同じく、蒋介石の国民党も台湾で台湾人(本省人)を白色テロで虐殺するような独裁政権だったのが、李登輝(国民党、ただし本省人)から陳水扁(民進党)へと政権交代を実現し、いまや昔の中華民国じゃない民主的な台湾になった(韓国が民主化したのと同じように)。そこから振り返ると、アメリカは1972年の上海コミュニケで中国に譲りすぎたと思うな。当時、大統領補佐官だったヘンリー・キッシンジャーは、「社会主義の中国・ソ連と戦う」というイデオロギー的世界観を捨て、「主要敵ソ連の敵である中国とは組める」というリアル・ポリティクスで中国と接近、そのため国民党の中華民国を捨てたわけだけれど、いまはあらためて民主的な台湾を独立国として認めたほうがいいのに、それが難しくなっちゃった。バイデンには共感するものの、二枚舌でごまかしてきたぶん、台湾支持の明確すぎる表明は危険だと思う。悪い冗談を言えば、蒋介石が台湾に逃げるとき故宮の財宝の多くを持ち逃げした。あれは中国皇帝の象徴とも言える財宝なんで、それを中国に返還して独立を買えばいいんじゃないか。


田中 そうそう、今号発売日直前の6月1日に都議会開会式で主催都市の“緑の旗振りオバサマ”がオリ・パラ中止宣言する噂も出ているけど、だからって彼女の「後手後手やってる感」が免罪されるわけもないからね。とまれ、頭がおかしい「#あたおかニッポン」そのものだ。


憂国某談3

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